もしも猫になったら~テンシロの場合~
お待たせいたしました!
side:白鳥 和磨
「出来たぁぁぁ~!!」
完成した薬を前に、僕は椅子に座ったまま、万歳した。時計は夕方の5時を過ぎた辺り。中々難しい薬だったから、夢中になってしまったよ。
はぁ、眠い・・・。安心したら、眠くなってきた。やっぱり、徹夜はやり過ぎたかな? ずーっと、寝てなかったんだよね・・・。夢中になりすぎて。
「先に寝よう・・・」
しょぼしょぼした目のまま、僕は薬室備え付けのベットにダイブして、柔らかい毛布に、意識は直ぐに夢の中へと旅立った。
◇◇◇◇◇
目が覚めると、眩しい光が窓から差していた。綺麗だなぁと思いつつ、時計を見ると、朝の8時。うん、まるまる一晩寝たみたいだね・・・・。寝癖や身嗜みを整えて、視線は直ぐに、机に置かれた瓶へ向かう。
「えっと・・・、エリー様に渡すんだっけ? この薬、何に使うんだろ?」
この“青い瓶”に入れたのは、完成品の薬。かなり変わった薬で、効果も半日程で切れるように、調合されたものだった。
・・・・・何に使うんだろう?
妙に気になったんだよね。エリー様から頼まれる薬は、基本的に健康にいい漢方みたいなやつだし。これは、エリー様経由で頼まれた違う人からの依頼みたいなんだよね。今までと全然違うし。
「んじゃ、渡しに行こうかな?」
メイドさんに、エリー様に会いたい旨を伝えて、面会の予定を組んでもらう。大抵は、半日くらい後を言われるから、時間まで本でも読んで待ってるつもりだったんだけど・・・。
あれから直ぐに、エリー様のところから中年くらいの執事さんが来て、直ぐに面会出来るって連れていってくれた。何度か会ってるから、面識があるし。
「こんにちは、エリー様、ご所望の品をお持ちしました」
「カズマ様、いらっしゃいませ、お待ちしてましたわ! それが頼んだ薬ですね!?」
うん? 妙に嬉しそうなエリー様に、ちょっと首を傾げる。この薬、そんなに嬉しがるものかな??
「助かりますわ、カズマ様・・・・・急に頼んでしまって、大変でしたでしょう?」
「いえ、初めての薬だったので、いい勉強になりました」
「まぁ! そういって頂けると助かりますわ、いつもは他の方に頼むのですが、運悪く体調を崩されたとの事で、困ってましたの」
「そうだったんですね? お役に立てて良かったです」
エリー様は渡した薬を見ると、嬉しそうにメイドさんに指示を出していた。多分、渡す為に、言付けをしたんだろうね。
「カズマ様、この後、サキとユーカと一緒にお茶会をしますの、一緒にいかがかしら? 二人ともカズマ様を心配してましたのよ?」
うっ、本当は断りたいけど、多分、徹夜したりしていたから、心配させたんだと思う。咲希さん、妙に勘がいいんだよねー。隠してもバレるし。少し顔を出して、言い訳しといた方がいいかもしれない。
「お邪魔で無ければ、少し顔を出しましょう、心配させてしまったようですから・・・」
僕が苦笑いしてたら、エリー様がパッと花咲くように笑った。
「嬉しいですわ! そうだわ、ショータ様も呼びましょう! たまには皆さんで楽しみましょう!」
・・・・・ごめん、翔太。嬉しそうに笑うエリー様、僕では止められないや。
「そうですね」
内心詫びつつ、僕はエリー様に引かれるまま、お茶会へと足を向けたのだった。
◇◇◇◇◇
side:天城 咲希
久しぶりのエリー様とのお茶会。あたしは、いつもの青い魔術服を着て、メイドさんに案内されていた。今日は、南の小さな東屋で行うらしい。
「エリー様、お招きありがとうございます♪ あら、和磨くんも参加なのね?」
そこには近頃はちっとも参加しない、和磨くんが居て、ちょっと驚いたわ。最近、徹夜で何かしてたみたいで、部屋に戻ってきてなかったから、心配してたのよね。多分、薬室に泊まり込んでいたんじゃないかな? 少し痩せた気もするし。勇者で丈夫とはいえ、ちょっとは気をつけてほしいわ。
「サキ~♪ いらっしゃい! 待ってましたわ!」
「やあ、咲希さん、僕も成り行きでね、今日は宜しく」
和磨くんが挨拶した後、エリー様、余程嬉しかったのか、ガバリと抱きつかれた。
・・・・・皆さんは覚えているだろうか? エリー様は、大変ナイスバディなお姫様様であることを! そんな方が、小柄なあたしを凄まじい力で抱き締めたら、どうなるか・・・。答えは簡単。
「ムグッ!?」
あっ、ヤバい! 息、息が出来ない!! く、ぐるじい・・・・!!?
「え、エリー様! 咲希さん、息が出来てないです!」
「あら? まぁ、ごめんなさい!!」
焦った和磨くんの声が聞こえた後、ようやく離してもらえたわ。ぜぇぜぇと、息を吸い込む。危なかったわ・・・。後少し遅かったら、三途の川を渡っていたかも・・・・・。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ・・・ゲホッゲホッ」
「ごめんなさい、サキ! 大丈夫かしら!?」
慌てるエリー様に、何とか息を整えて、苦笑いするしかなかったわ。エリー様、抱っこ癖が治らないのよね・・・。
「咲希さん、はい、水」
和磨くんが、メイドさんから貰った水を、渡してくれた。助かったわ。
「ふぅ~、もう大丈夫です」
コップを返して、ようやく席につく。いつも、定期的にやっているこのお茶会は、最近は女子会と化していて、たまにエリー様のお姉さんが混ざったりしているくらい。皆が集まるのは、かなり久しぶりじゃないかしら?
「和磨くんがお茶会に参加するなんて、久しぶりね」
「そういえば、そうだね・・・」
苦笑いしてるって事は、自覚はあるのね? 最近は薬室に入り浸りで、体調とか心配されてるわよ? 勇者の侍従が、今は持ち回りになってるから、情報が嫌でも耳に入ってくるのよ。特に、リリーさんとかは、本当に心配してたみたいだしね。
「和磨くん、気をつけてよ? 医者の息子が不摂生て、洒落にならないから」
「うん、気を付けます・・・」
流石にそれは理解してくれたみたいで、和磨くんも、神妙に頷いてくれた。
「エリー様ー!! 遅くなってごめんなさーい!」
慌てた様子で来たのは、優香ちゃん。更に後ろには、苦笑いの翔太がいた。
「すまん! 稽古に集中しすぎた」
あぁ、優香ちゃんと翔太、剣で稽古してたんだ。騎士たちの訓練は、ここからちょっと遠い場所にある。城が広いから仕方ないんだけど、あそこから走ってきたのね。優香ちゃん、肩で息をしてるし。でも、翔太は息が上がってないわよね? 筋肉バカ・・・?
「咲希? 何か失礼な事、考えてないか?」
「イイエ、ナンデモナイワ」
「片言じゃないか!?」
アハハッ、妙に勘が良くないかな!? 翔太、何で分かるのよ!!
「サキ、顔に出てますわ・・・」
エリー様が、呆れた顔でこっちを見てた。マジか、また顔に出てたんかいっ! 最近、あたしの顔はどうしたの!? 昔は読まれる事なんて無かったのに!
「ウフフ! さぁ、皆さんが揃った訳ですし、お茶会を始めましょう」
妙な空気が流れてる中に、エリー様の掛け声があがる。控えていたメイドさんが、さっと動き始める。流石、城に使えるメイドさんたち! 無駄がないわ。
「どうぞ、お座りになって」
エリー様に促され、あたし達は席についた。丸テーブルに、エリー様から始まって、あたし、優香ちゃん、和磨君、翔太の順で座っている。
「皆でお茶会なんて、久しぶりですわ、今日は珍しいお茶を用意しましたの! 楽しんでくださいね」
嬉しそうに説明するエリー様の横で、メイドさんが綺麗なティーポットに茶葉を入れる。でも、茶葉がカラフルなような? そこに、お湯を入れたメイドさんは、カップを温める為にお湯を入れた。かなり本格的ね。
「いい香りね」
「だね~、楽しみ~♪」
のほほんと、あたしと優香ちゃんは、楽しんでいたけど。翔太はあんまり気にならないみたいで、微妙な顔だった。でも、この時。和磨くんだけが、戸惑ったような視線をとある場所に向けていた。
「こちらのお茶はフラワー茶ですの、ストレートも良いのですが、此方の甘いシロップを入れても美味しいですわ」
エリー様の視線の先、そこでは綺麗な赤茶の液体が、コップに注がれていく。優しい花の香りが、辺りに広がり、思わず声がもれる。
「いい香り・・・」
女性人が香りにうっとりする中、ただ一人、和磨くんだけが、未だに戸惑った視線を向けていた。どうしたのかしら?
聞こうとした直前、あたしの前に紅茶が置かれる。
「さぁ、召し上がれ」
まずはストレートから。うん、芳醇な香りに、酸味のあるまろやかな味に、確かに甘いシロップは合うなと思う。このままでも、十分美味しいお茶だわ。
「次はシロップを混ぜた物を」
どうやら、次はシロップ入りを用意してくれるらしい。先程の行程で、またフラワー茶が入れられ、次はメイドさんが青い瓶から、甘味と思われるシロップが入れられる。
「さぁ、召し上がれ!」
特に変わりない見た目、香りも変わらないし。あたしは飲みながら、和磨君を見たら、和磨くんだけが、変な顔でコップを見てた。どうしたのかしら?
「カズマ様? どうかされましたか?」
先程からおかしい和磨君に、やっぱりエリー様も気付いてた。
「いえ・・・、さっきの青い瓶、僕が薬を入れた瓶にそっくりだったので・・・」
「あら、あれは既に、依頼主に渡すようにと手配したはずですが・・・」
うん? 和磨君はエリー様に頼まれて、薬を作っていたのかな?? 何か事情がありそうだけど、はて、あたしら飲んじゃったんだけど!? 味は甘いシロップを入れたように、ちゃんと甘かったから、和磨くんの見間違いじゃないかしら?
「和磨くん、その薬、甘いの?」
「いや、無味無臭のはずだよ」
「なら、勘違いよ、だってこのフラワー茶、甘いもの」
あたしがそう言えば、安心したみたいで、和磨くんもフラワー茶に口をつけていた。フフッ、心配性ね。まぁ、毒入りを食べさせられたりする場合があるから、警戒は必要だからね。特に、和磨くんと翔太はね。この世には、媚薬と言われる、恐ろしい薬があるんだから!
「たまたま、似た入れ物だったのでしょう」
エリー様も、安心したみたいね。でも、エリー様はストレートよね? あたしの視線に気付いたエリー様は、困ったように笑ってた。
「ごめんなさいね、わたくしはストレートの方が得意なの、甘いお茶は得意ではなくて」
あぁ、なるほど。シロップを入れたフラワー茶は、エリー様には甘過ぎたのかもしれない。好みによるものね。
「なあ、エリー様、お菓子とかない? わりーんだけどさ、俺、腹減った・・・」
「翔太、あんたねぇ・・・」
流石、翔太。マナーは完璧なのに、顔だけがだらけてる・・・。器用な事するわ。
「ウフフ、大丈夫ですわ、そう言われると思いまして、サンドイッチを用意しましたの!」
おぅ! 流石エリー様! 準備万端でしたか。
「これで大丈夫・・・・・え?」
エリー様が突然、呆けた顔になる。と、同時に、辺りが眩しいくらいに光る。ちょっ、何事!?? あたしの視界もすっかり光に巻き込まれ、数秒後、光は無事に収まった・・・・んだけど。
「「「「ミヤァ~~~~~~~~~~~~!!?」」」」
あたし達の、悲鳴が上がった。
「え? 猫!? ・・・・っ! あのシロップ!」
慌てて確認を取るエリー様。どうやら、エリー様も知らなかったみたい。と、そこに慌てた姿のメイドさんが来る。
「申し訳ありません! こちらに青い瓶はありますでしょうか?」
このメイドさん、もしかして間違えたの!? だから、シロップと猫変身薬(仮名)が、交換されて、あたしらが猫になったの!?
因みに、あたしは見た限り、茶トラの猫。優香ちゃんは、白い長毛種。和磨くんは、ロシアンブルー。翔太は、・・・・・何で三毛猫!? あれ、三毛猫って、メスしかいないんじゃないの!??
「・・・・手遅れですわ、解毒剤はどこにあります?」
「姫様、こちらの薬には解毒剤はございません・・・」
え!? 解毒剤がない!!? ハッとして和磨くんを見れば、何故か諦めたように、遠い目をしてた。
ミヤァ『本当だよ』
あら、猫同士は会話出来るみたいね?
ミャ『マジかー』
ミヤァミャ『これ、僕が調合したから、半日は解けないよ』
ミヤァー!?『嘘だろ、マジかよ!?』
和磨くんの言葉に、翔太が発狂した。その声に、エリー様が気付いて、こっちに来る。
「皆様、申し訳ありません・・・この薬は、猫愛好家の方が使う、猫変身薬ですの、安全な薬ではありますが、効果は一本で半日くらいだそうですの、恐らく少し経てば、変身は解除されますわ」
あら、少ししか摂取しなかったから、思ったより早く戻れそうね。良かったわ、今日も魔術師の方々に、夕方呼ばれてるのよねー。
「それにしても、・・・可愛いですわぁ♪ あ、あの、サキ? 少し触らせてもらえませんか?」
ん? エリー様の手が、ワキワキと動いてる・・・。あら、嫌な予感がするわ! に、逃げるが勝ちよ!!
「そんなぁ! ユーカ、カズマ様、ショータ様! 触らせて下さいませ!」
どんだけ撫で撫でしたいのよ!? エリー様、もしかして、モフモフした動物が好きなのかしら?? まぁ、あたしはテーブル下の影に隠れたんだけど。うん、意外に皆、楽しんでないかな!?? 特に優香ちゃん、完全に遊んでるよね!?
あたし? あたしは無理。エリー様の手が怖いわっ!! それに、翔太は本気で逃げてるもの。あれは、本能ね。
ミヤァ・・・『早く解けないかしら・・・』
それから一時間程して、ようやっとあたしらは、人間に戻れたの!! あの時の感動たら、ないわ!
ゴンッ
「いった~!?」
あたし、テーブル下に隠れていたから、見事に頭を打ったのは、まぁ、仕方ない、と思いたいわ・・・・・。
いつもと違う勇者達、楽しんで頂けましたか??
猫キャラ企画、まだまだやってますので、興味のある方は、秋月の活動報告まで!
猫好きの皆さん、楽しんで頂けたら幸いです!