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3話 ミルパの旅立ち

「いらっしゃい♪」


「お、機嫌がいいな。ミルパ昨日はどうしたんだ?」


「あー昨日はポーション作ってたんだ。キース心配かけちゃったね」


「ああ、まったくだぜ!経営の話を聞いたからな。夜逃げでもしたかと思ったさ」


 変な事話しちゃったから、キースを心配させてしまったみたい。


「その事だけど、ひょっとしたらだけど何とかなるかも」


「え?」


 私は昨日の夢の事をキースに話した。


「それで、私の魔力はまだ低いから休み休み作ったんだけどポーションが2本分出来たんだ」


 私は三等分に分けられたポーション2本分、つまり計6本の瓶をカウンターに置いた。


「HPポーションをキュア系の瓶にって、とうとう瓶も無くなったのか?」


「違う番う。女神様のスキルの効果でキュア系の瓶でも今まで以上の効果があるんだよ」


「え!」


 キースが驚くのは無理無いね。

 夢のような話だもの。


「この6本はお試しでキースが使ってみてよ。幸運の女神様を運んできてくれた御礼」


「ああ、でもタダと言うわけにはいかないよ」


「いいって。それより使った感想を教えてよ」


「そうか判った。今日もダンジョンに潜るからまた夕方な」



ーーーーーーーーーーーーーーー



「おーーい、ミルパ!」


 夕方、キースが走ってやって来た。


「キース、おかえり。どうだった?」


 キースは息をきらせていた。

 余程急いで来たらしい。


「ちょっと待ってくれ」


 キースの息が整うのを待つ。


「ゴメン。直ぐに知らせようと思ってな」


「うん、ありがと」


 私は期待して報告を待つ。


「あのポーション、スゲーよ!通常の3分の1なのに効果は今までのミルパのポーションの倍はあった!」


「それは凄いね!」


 私も結果に驚いた。

 作った感触では、せいぜい1.5倍位と思ったんだけど。

 通常のポーションの量なら6倍の効果ということになる。

 中級ポーションの倍の効果だ。

 

 クラフティ様は具体的な効果上昇量を仰らなかった。

 私との相性がいいのか、それとも私の錬金や調合スキル等との相乗効果なのかは判らない。

 でも兎も角、これはイケル!

 それは判った。

 

「ねえ、キース。このポーション1本をいままでの半額だったら買う?」


「買うに決まってるだろ!1本分の価格で実質は4本分だ。それに1本の量が少ないのもいい!大量に持ち込めるからな」 


「決まりだね。よーし、頑張って作るぞ」


 当面の問題は魔力の低さだけど、作り続けていたら慣れるよね。


 その日以降、一日おきの営業となった。

 最初はキースや常連さんが買ってくれ、口コミで私のポーションの良さは直ぐに広まり、あっという間にお客さんが増えていった。

 お客さんの中には商売敵の道具屋さんの店員もいたけど、構わず売った。

 だって材料は通常と同じだもの。

 どんなに調べても判るはずもない。

 私にしか作る事が出来ないのだから。

 ポーションを作れる数は日毎に増えていった。

 でもお店を開くと1時間も待たずに品切れとなる盛況ぶりだった。

 クラフティ様のお陰で私のお店は持ち直したのである。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 新ポーションを売り始めて3ヶ月位経った。

 今では日当たり60本の新ポーションを作れる様になった。

 それでも営業開始30分で全て売れてしまう。

 父のいた頃より利益が上がるようになっていた。

 そろそろ他の商品も作ろうかな。

 ランタンの燃料とかどうかな。

 通常の倍くらい長持ちすれば十分売れると思う。

 

 そんな事を考えながら、営業終了の立て札を出して片付けを開始する。

 最近はHPポーションのみの販売で営業しているので

 ポーションが売り切れると売り物が無いのだ。

 だから2日に1回、朝のみ営業が最近のスタイルになっている。

 

 片付けをしていると、珍しく冒険者ギルドの所長さんがやって来た。

 いつも冷静な所長さんが慌てている感じだった。


「ミルパ!プレタの奴を王都で見かけたって情報が入った!」


「え?父が!?」


 半ば諦めかけていた父の情報が急にもたらされた。

 所長さんの話では、よく似た男をたまたま王都に出ていた行商の商人さんが見かけたらしい。

 父らしき男は現在冒険者をしていて、話しかけたが記憶を無くしているらしく、正確な確認が出来なかったそうだ。

 記憶を無くしているなら帰って来ないのも頷ける。

 私は居ても立っても居られなくなってしまった。


「所長さん。ありがとう。私、王都に行ってみます」


ーーーーーーーーーーーーーーー


 私は店を臨時休業とすることにした。

 王都に行って父を連れ戻すには少し路銀が足りない気がする。

 なんと言っても此処から王都は遠い。

 旅の安全を図るには定期馬車を利用したいけど、路線のある町までは護衛が必要になる。

 

 ポーションを売りながら行くしかないかな。

 そう安易に考えた。

 なら、とりあえず持てるだけのポーションを作らないと。

 仕入れた材料も使ってしまった方がいいし。


 3日後、背負バッグにポーションをいっぱい詰めた私は、冒険者ギルドに顔をだした。

 私だっていつも仕入れで重い荷物を背負っている。

 コレくらいは平気という量に抑えているし、長旅でも問題無い。


 昨日、心配して自宅に顔を出してくれたキースに事情を話し、キースがギルドに護衛の手配をしてくれる事になっていた。

 あまり高い報酬は払えないから、数人しか雇えないな。


 私を護衛してくれるパーティーを所長さんから紹介されて驚いた。

 私の護衛はキースのパーティーだった。

 私の王都護衛を機にちょうど王都で一旗上げる事になった。

 だから依頼料はタダだと。

 

 きっちり払うと言ったのだけど、私のポーションのお陰で、随分とダンジョン探索で儲けさせて貰ったからと、頑として聞いてくれなかった。 


 所長さんも笑うばかりだった。

 

 私はこうして王都に旅立った。

 この町から初めて外に出る。

 兎も角私の旅は始まったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 あれから3年。

 いまだ父には会えていない。

 父の目撃情報を元に現地に向かうと既に居ないのパターンを繰り返している。

 いつの間にか、キースが私の専属用心棒となっていた。

 私も、なんだかんだで魔力を使って多少の護身用結界を張れる様になっていたし、キースに強化系ポーションも提供出来るようになっていた。

 

 そしてなにより、いつの間にか私は行商界で有名人になっていた。

 私は旅の資金稼ぎにいつもの3分の1ポーションを作り、行く先々の道具屋に1本当たり通常のポーションの相場の半額で売った。

 それをお店は通常のポーション価格で売る

 それでも飛ぶように売れるのだ。

 3分の1の量で通常の倍の効果が出るなら、売れるに決まっている。

 行商の私のポーションはいつだって入荷待ちらしい。

 そんな私につけられたあだ名は『行商の聖女様』。

 恥ずかしい限りだけどね。


 今日もまた、着いた先に父は居なかった。

 隣町への道を訪ねていたらしい。

 まるで蜃気楼を追っている様だけど、元気でやってるならまぁいいか。

 私も旅と行商が楽しくなったから、のんびり行くとしますか。

 父に会ったら旅が終わってしまうからね。


 完


 お付き合い頂き、ありがとうございました。

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