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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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小さな砦

「ハッ! 翁の予想通りにいくかと思えば、案外奴らもしぶといじゃねえか」


 そんな事を言いながら大勢の部下を従えながら先頭を走るのは、灰の翁に洗脳されたプレイヤーの集団、《グレイスレイブス》のリーダーである暗夜だ。


 灰の翁はトリノイワクスによる急降下爆撃を予測しており、それを撃ち落とした後、落下予想地点に先回りした暗夜達が仕留めるという手はずであった。


 実際のところはトリノイワクスの驚異の耐久性により、落下地点がずれてしまったのだが。


 航行能力を失ったとはいえ、なおも砲台として城から攻撃を続ける様は暗夜達も目を見張るほどだった。


 その砲撃で城が揺れるのを感じながら暗夜達はトリノイワクスが鎮座する塔へと向かっていた。


 未だ点在する灰の翁に従わない者を捉えるべく、それなりの人数が駆り出されている。さらに城塞周囲の防御にもかなりの人員を割いたために城内部、特に上層の守りは薄いのだ。


 《晦冥》や《黄昏》の名を持つ連中なら易々と突破してみせるだろう。だが、問題らしい問題はない。元より上層の防衛など手薄で良いのだ。


 それよりも、と暗夜の思考は自身の目的へと移行する。


 目的は単純明快、トリノイワクス、及び乗員の殲滅。逃げ場の無い標的はまさに袋の鼠。さして手間取る事もないだろうと彼は考える。


 思うところがあるとすれば城の内部が入り組んでおり、移動の手間がかかる事くらいだろうか。


 しかしそれも終わりに近い。この煩わしい螺旋階段を登りきれば広間に出る。それが最後の一里塚だ。その広間からの階段を登れば後は木の塊を破壊するだけだ。


「……あァ?」


 暗夜が一度足を止める。その動きに一拍遅れて、いや、追随して後ろのプレイヤーも足を止める。多くが一般人であるはずのプレイヤーなのに、その動きは軍隊のそれを思わせる。


 そしてその進軍を止めた彼女はゆっくりと口を開く。


「これ以上進むのは、やめて欲しいんですけど……」



 ✳︎



「あァ? テメェあれか。ここの門番でもしようってか。ハッ! 声は震えてるクセに中々面の皮が厚い侵入者じゃねえか!」


「……とにかく、先輩達の元へ行くのは見過ごせません」


 ――城に突入した直後、私は先輩達と別行動をとる事にしました。先輩達は階段を上がり灰の翁と直接対決を。私は階段を下りて、押しかけてくるであろう追っ手の迎撃を。


 灰の翁の攻撃が防げなかった以上、盾として私ができる事は少ない気がしました。それよりは不安要素を取り除く方が先輩達のためになると考えての行動です。


 先輩達2人ならきっと何でもできるんです。私がすべき事と言えばそれに水を差す無粋な人を排除する事です。


「先輩から聞きました。様々な銃器から毒入りの弾丸を放てるって」


「そうかそうか。《晦冥》のヤツ、しっかりとタレこんだみたいだなァ! 《万蝕銃(ばんしょくじゅう)》!」


「《流麗(イミテーション)模倣(・ドール)》!」


 普通の銃撃戦は片方が撃って、その後順番が決まっているかのようにもう片方が撃ち返すと思います。けれどもこの銃撃戦はそんな普通なものではありません。


 剣と剣とがぶつかり合うように銃弾と銃弾がぶつかり合う。そんな銃撃戦が展開されました。


「……ほう。以前《晦冥》も拳銃で応戦していたが、それよりも抜群に筋がいいじゃねえか。時間稼ぎを買って出るだけはあるか」


「……私を撃ち抜こうなんて100年早いです」


「言うじゃねえか。ならコイツはどうだ? 《万蝕銃・(れん)》!」


 その銃は連という名を冠するだけあって、おびただしい量の弾丸を放ちました。きっとそれが穿った部分は規則正しい模様が出来上がるような、そんな繊細にも思える射撃です。


 でも、


「効かないです……!」


 弾幕が濃くなれば、先輩みたいに避けるとなると苦労します。けれど、全弾を無条件で撃ち返せる私なら……!


「信じられねえよ。暗夜さんの《万蝕銃》を防ぐなんて……」


 どこからかそんな声が漏れ出して、私との撃ち合いが無意味だと悟ったのか、暗夜さんは射撃を中断し、銃身を冷まし始めました。


「テメェ、俺様の弾丸を狙って弾いてるかと思ったが……違うな。上手く弾きすぎだ。となりゃあこのカラクリはテメェの能力か。……コピー系か。妙な能力を持った連中ばかりが揃ってやがるな、そっちは」


「……そうです。私の能力はコピーです。どれだけ害そうとしてもそっくりそのまま、お返しします。……絶対に、先には行かせないんですから!」


「驕りだな。お前らァ! 一気呵成に潰しちまえ!」


 暗夜さんの背後からは魔法陣や、弓や銃器のような遠距離系の武器などが次々と構えられます。


 恐らくは私がコピーしきれないであろう数の攻撃で押し切るつもりなんでしょう。魔力量にも限界はありますし、背後から攻撃されないとは言ってもこの量は見切れずに避けられない攻撃が出るでしょう。


 ……昔の私だったなら。


 諸々が武器を構えて準備を整える間にポーションを口に含み、魔力量を全快させます。それと同時に頭を切り替えて一気に集中させていきます。


「やれェッ!」


「右から2番目、次はその左……中央、その後ろ……《流麗模倣》!!」


 私がターゲットしたプレイヤーに対して《流麗模倣》を使い、そこからすぐに次のターゲットに対しても同じように対処します。


 コピーした先から次々とコピーを行い、その動きを止める事はありません。


 誰が先に動かそうかはよく観察すれば分かります。私がどれだけの時間、リアルでもゲームでも人間観察をしてきたのか、きっと彼らが知る事はないでしょう。


 その代わりに彼らが知る事になるのは――


「お……おいおい、全員の能力をコピーしてないかアイツ!?」


「ダメだ! さっきから撃ち込んでるのに全部相殺されちまってる!」


「おかしい! 魔力が何で尽きねえんだ! まだ何か隠してやがるのかコイツ!」


 1人磨いた観察眼と先輩達との経験で得た膨大な魔力。この場にいる誰もが気づかない私の武器。


「何人来たって……防いでみせます……!」


 魔力と魔力のぶつかり合いが連鎖的に爆発を起こし、私も《グレイスレイブス》も後方に吹き飛ばされます。


 そう簡単にやられては面目が立ちません。まだまだいなしてみせるとポーションを飲みながら威嚇していた時でした。


「……単純な力押しで潰せると思ったが、俺が甘かったようだな。ハッ、その強さは認めようじゃねえか。だがなッ!」


 言葉と同時に凶弾が飛びます。不意打ちを狙ったのかもしれませんが、この速度なら撃った瞬間に捉えられます。


 即座に私もコピーして弾丸を放ったのですが――


「……えっ!?」


「クッ! さっきから見てれば単調なんだよお前は! 《ルミナ・ミラー》ッ!」


 私の弾丸はいきなり割り込んできた男の、その正面に張られた鏡の中へと消えていきます。


 何が起こったのか。次にどうするか。その思考を纏めようとするも、それを吹き飛ばすように、追い討ちのように言葉が飛びます。


「返しな!」


「――っっ!!?」


 気づけば《万蝕銃》の弾丸が右の脇腹を貫通していました。それも、


「同じ箇所に、2発……!? そんな……!?」


 一度受けた傷をさらに痛めつけるかのようにもう1発の弾丸が通り抜けていきます。それはまるで私以外の時間が逆戻りしたかのような攻撃でした。


「これが、先輩の言ってた……毒……!」


 一瞬のうちに追体験したその毒弾の痛みに何とか耐えるも、この一撃で一気に戦況が変わった事を悟ります。


「ハッ! だから言ったろ! それは驕りだってなァ!」


「クッ、俺は《晦冥》らに因縁があるんだよ。お前がその一味ってんなら復讐させてもらうぜ」


「……2人とも、先輩達に負けてるんですね。だったらなおさら私も負けていられません。先輩達と一緒にいたんです。このくらい、倒せないとダメですよね……!」


 この人達に勝って先輩達よりも上に立ちたいとかそんなつもりはありません。ただ、せめて、あの2人と同列にいたいんです。それは前から変わらない私の目標であり願いです。


 ただくっついているだけの何もできないままでいるのは嫌です。だからと言って先輩達をひっぱるような人間になるのも私の願いではありません。


 今のまま。好き勝手に進む彼らについていく。仲間としてそれを楽しむ。そして2人のハッピーエンドを見届ける。それが私の希望。そのためなら……


「特権者2人の仲間として……勝ちます!」


 ポーションを流し込んで解毒して。時間稼ぎから討伐へ。私、汐月ユウハの死闘が始まりました――!


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