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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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電撃包囲網

「ああ、ここからが本番か。まあ、あの程度で押し切られちゃあボスなんて名乗れないよなあ?」


「そりゃそうだけどな……」


 もごもご言いながらトリノイワクスの上からタケミカヅチを眺める。全身を迸る赤雷に兜から顔を出した角。豪雨が吹き荒れる暗い中に佇むその姿は、本能的に警告表示のランプを思わせた。


「我輩の真なる雷で散るがいい!! 《白雷(はくらい)》!」


 先手を打ったのはタケミカヅチ。一声上げるだけで黒雲から雷を呼び寄せた。


「先輩……回避、間に合わないです……!」


「だったら受け切ればいいだろ!」


 デッキから飛び上がり、踏み台を作りながら白い雷へと飛び込んでいく。


「普通に受けても危険なだけじゃ――」


 そう言いかけて止まる。どうやら俺の意図に気づいたらしい。


 雷。すなわち雷光。俺の考えではこれは《光》の属性に入る攻撃だ。《光》ならばやりようはある。俺だけが使える奇跡のような方法で。


「吹っ飛ばせ! ――《夜叉》!!」


 自分の腕がバチバチと音を立てるのを見ながらも伸ばした腕はひっこめない。今まで俺は様々な《光》と対峙した。その経験値が蓄積されているならば、いや、そんなものが無くとも俺の能力ならば――


「――っっ、らああっ!」


 掴めないはずの電気を掴んだような、妙な感覚を覚えた瞬間にそれを湖へと投げ捨てる。


 船から湖。まるで湖が避雷針になったかのようにカーブを描きながら雷は沈んでいく。


「っ、はあ、はあ……」


 タケミカヅチのように俺の体を白い電流のようなものがまとわりついてはいるが、特にダメージらしいダメージというものは感じない。


「くそ、1発でもかなりの魔力が持ってかれるな……」


 ポーションを飲めば魔力は回復する。そうは言っても今の一撃よりも強力な技がまだあるかもしれない。あるいは連続で攻撃された場合はどうする?


 防げない事はないと言ってもそれは完璧な盾と呼ぶには程遠い。砂上の楼閣と言ってもいいくらいだ。魔力という基礎の補強はまだ甘いとでも言うのだろうか。


「アラタで抱えきれない攻撃は私達も一緒に防ぎにいくよ!」


「分かりました……! 《流麗模倣》と先輩方の火力ならきっと張り合えます……!」


「ああ、そいつは結構だが操舵を忘れんなよ。あの巨体相手の移動手段にこれ以上のものはねえからな」


 雷への対処法を練り、再びタケミカヅチに接近しようと画策する俺達。至近距離でのトリノイワクスによる砲撃、特権持ち2人による攻撃なら有効打になり得るかもしれない。


「ハハハ! そうは問屋が卸すまいて!! 《黒雷(こくらい)》ッ!!」


 今度は湖から断続的に雷が発生する。名前の通り漆黒のそれは、茨のようにニョキニョキと無秩序に生えてくるようだ。


「今度は多いぞ! 上手く避けやがれ!」


 来るのは先程と同じ連続攻撃か。皆がそう考えて動き出そうとした時だった。


「いや待て! ふざけやがって、挙動が違うじゃねえか!」


 ルーティンワークのように見えた雷はぐにゃりと曲がってその矛先を変える。その狙いは――


「俺か……!」


 理由は不明だが、明確に俺を狙ってきた。それだけは確かだ。現に、


「どんなに動いても追尾してくる……くそ!」


 船内を逃げ回ってもツグミ達や船体に危害が及ぶだけだ。それならばいっそ受け止めるしかない。相手は雷。その気になれば打ち消せると考えてのことだった。そのつもりだったのだが、


「があっ……!? これは……!?」


 拮抗した《光》を切り裂いて塵に変える、普段のそれとは違う重い感触。止めるつもりがそのまま弾き飛ばされる。なおも雷は攻撃の手を緩めず俺に執拗に迫ろうとする。


「させないよ!」


 視界に突如乱入する長い銀髪。その髪の間から除く冷たい刃が黒い雷と対峙する。その刀は避雷針のように雷を一挙に引き受ける。


「ああ、《黄昏》! そいつは《闇》だ、属性を変えろ!」


「うん!」


 返事からコンマ数秒でツグミの髪がカメレオンのように色を変える。その色はどこまでも暗い黒。


「同属性なら……何てことないから!」


 いくつかの雷をその身に受けながらも刀は降られ続け、やがて雷の残弾の方が先に尽きる。


「ふう、危なかったね」


「助かった……ありがとな」


「でもなんでアラタはあんなにダメージを受けたの? 正直、そこまでの威力じゃないよね?」


「は? 普通に等倍でも強かったと思うんだけど」


 《光》をまともに受けた時のような痺れるような痛撃と言えないが、等倍になるはずの《闇》の攻撃と吐き捨てるわけにもいかない、なんとも形容しがたい攻撃だったがツグミの印象とはかなり違うらしい。行動を共にする事が多かったし、ステータスにそこまでの違いはないはずなのに……。


「ああ、謎が解けた。さっきの《黒雷》、あるだろ? あれを受けると《白雷》が追尾してくる、さらに威力が上がるデバフがつくと見た。《晦冥》の体が白く光ってるのはおそらくそれだろうな」


 姿は見えないが、俺達を見下ろすようにしながら喋っている姿が想像できる。俺の体には白い電流が今もまとわりついている。いや、それだけじゃない。


「じゃあ今私達の体についているこれって……」


「ああ、どう考えても《白雷》のデバフだろうな。時間経過で消えるのか、それとも別に消し方が存在するのかはこれからゆっくり検証する必要がありそうだ」


「そんな悠長にしてられるのかも怪しいけどな……」


「その通り! 反撃の目など与えはせぬわ! 為す術なく逝くがいい! ――《赤雷(せきらい)》!!」


 モノクロの火花を放つ俺達へさらにダメ押しの攻撃を繋げてくるタケミカヅチ。両腕にエネルギーを溜め、放射するという単純な動作だが、シンプルイズベストと評すればいいのだろうか。高速の紅蓮の重圧が俺達、いや、トリノイワクスをも巻き込んで喰らいかかる。


「「「ああああっっ!!」」」


 熱風のごとく吹き荒れる雷の波。それだけでは手緩いと全方位から乱暴に飛んでくる雷の乱れ撃ち。動けば傷つき、動かなくても傷つく。AIが勝ち筋や対処法を学習せずに作り出したかのような乱暴な大技だった。


「チッ、これもデバフで威力が上がるだろうな。全員どうにかして切り抜けろ! 特に《晦冥》、お前が一番危ねえぞ!」


「言われなくても……分かってる、っての!」


 タテルに言われるよりも早く正面に《夜叉》で作り出した盾を構えては《赤雷》の波を必死に押し留めようとする。予想通り盾は一瞬で崩壊するため、それに合わせて何回も何回も作り直してはいるが、正直言ってダメージが軽減できているとは思えない。


「チ、急ぎやがれ! トリノイワクスだって無敵の耐久度を持ってるわけじゃねえ!」


「何とか脱出経路を探しては……いるんですけど……!」


 言いながらユウハはトリノイワクスを右へ左へ動かすが、雷の波はタケミカヅチ自身が制御している。奴から見ればさしものトリノイワクスも小さな標的にしか映ってないだろう。となれば自力でその有効射程から逃れるのは難しい。


「方法は2つか……」


 1つはタケミカヅチに攻撃を当てて隙を作る。そのまま脱出と反撃を同時にこなす理想的な展開だ。しかし、手軽に理想的な結果を得るというのは不可能だ。理想的とは、できやしないができれば非常に都合がいい、くらいの話半分のネタにしかならないのだ。


 もう1つはそれよりももっと単純で確実な方法だ。それが戦況にどこまで響くかは分からないが、まあ、


「ぽっと出のアタッカーが1人消えてもどうにかなるだろ……!」


「待って、アラタ! 何する気!?」


 トリノイワクスから飛び降りながら、偶然目についた湖に浮いたボートに手を伸ばす。さっき突撃させはしたが無傷で残っていたのがあったらしい。


「石板を使う手間が省けたな……!」


 手早く乗り込んでボートを発信させる。さらに少しもない存在感をアピールすべく、タケミカヅチにへと《月光》を放つ。


「ぬうっ、小賢しいわあああ!」


 《月光》の着弾に気づいたタケミカヅチは《赤雷》を放射する手を下ろし、巨大な刀へと持ち替えた。


「ふううううんんンン!!!」


「うわ、嘘だろ……っ!」


 刀が湖を引き裂き津波を引き起こす。小さなモーターボートなどひとたまりもなく波にさらわれ、岸へと放り投げられてしまう。


「ああ、なるほどな。タケミカヅチの気を引いて、《赤雷》を撃たせず《晦冥》だけを攻撃させようって魂胆か」


「先の一撃を考えると我輩が放っておくはずがないと考えたか……。幾分の度胸は持ち合わせておるではないか」


「そりゃどうも、嬉しくないけど……」


「だが、それに見合うだけの代償はしっかり払ってもらおうか……。――《白雷》!!」


 岸に打ち上げられて、逃げるための一歩も踏み出せないまま、純白の槍のような雷に貫かれるのを俺はただ待つことしかできなかった――。


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