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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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決着トリノイワクス

「足止めとは言ってもどうするか……」


 今の俺の役割はユウハがギミックを確認するまでの間、トリノイワクスをどうにかして引きつけておく事だ。


 水上に浮かぶ、巨大な島のようなそれを確認しながら高台から建物の隙間へとこそこそ移動を開始する。


 《インフィニティ・オクトパス》を倒した時と状況は似ていると思えば気は楽だが、タイマンという状況以外は全く似ていない。左右に搭載された大量の大砲、それとは別の魔力砲、どう見ても大人数で叩くのを前提としている重装甲ぶりだ。


「せめてNPCとかがうまく使えればな……」


 難しいクエストをNPCと共に攻略する。RPGではお決まりの展開の1つだ。だと言うのに人っ子1人見当たらない。


「観光地なら普通は人がいるはずだろうに……」


 これまでの砲撃でやられたのか、避難したのか、または今は通常のサービス時間じゃないからそもそも稼働していないのか。候補は上がるが検証する時間も方法も今は無い。


「《白都》みたいに人が多くても生きにくいけど、人がいなくても生きにくいもんだな……」


 自分が生きやすい環境など存在するのか、などと自分が社会不適合者である事をしみじみ感じながらも周囲を探る事は怠らない。


「いや、人がいないって事は……」


 人がいないという事は頼れる手段が1つ減ったという事か?いや違う。人目を気にしなくていいと考える事もできる。


 つまり……


「こう動けばいいんだろ……!」



 *



 そこは湖。透き通った水、なんて陳腐な表現に聞こえるそれがこの湖では最上の褒め言葉になるような、そんな湖。


 その透明なキャンバスに筆を走らせるかのように悠々と進む船が一隻。


 しかしその船は気づいている。猛追する複数の小舟がいる事を。


「――――」


「くっ……!」


 決して人並みとは言えない体重に無理を言って船体を傾ける。幸いな事に小さなボートは素直に言う事を聞いて曲がってくれる。


 砲弾が波を大きく揺らし、時折宙を舞いながらも俺の乗ったボートは肉薄を続ける。


「無断でボートを借りれるのはゲームならではだよな……!」


 人のいないボート屋。そこからモーターボードを拝借して、舞台を艦隊戦へと移行させる。艦隊戦と言っても砲撃できるのは相手だけであるから、弾幕ゲーと称した方がいいかもしれない。


「……っ、ヤバいヤバい! 怖いっての……!」


 ボートの周囲にいくつもの水柱が立つ。アニメやゲームで、そんな中を駆け抜けていく描写がよく見られるが、なぜあんな風に平然としていられるんだあいつらは。


「――――」


 そんな中、いくつかのボートがトリノイワクスへと突進をぶちかます。あらかじめエンジンをつけておき、とりあえず直進するように触っておいた他のボートだ。


 魚雷のように突っ込むそれらだが、トリノイワクスはものともしない。ただただ木製の残骸ができるだけの結果に終わってしまう。


「穴の1つでも空いてくれよ……!」


 相変わらずの硬さに舌を巻きながら、湖上のあちこちを駆けまわる事しかできない。時間稼ぎはできているかもしれないが、いつ狙われるか分かったもんじゃない。


 と、その時だった。


「!?」


 ボートの速度が目に見えて落ちだした。燃料か何かが尽きたのか。カーブを無理矢理使って砲弾が直撃しないようには努めるものの、何もしないよりはマシといったレベルだろう。


 動かない的もゆっくりと動く的も、シューティングゲームに慣れ親しんだ連中なら特に差異を意識せずに処理するだろう。AIだってそのくらい朝飯前なのは明白だ。


「――――」


「……ッ!」


 予想通り、ためらいも何も知らないAIは無慈悲にボートを撃ち抜いていく。幸運だったのは硬い地面とは違い、着水しても致命的なダメージが入らないというところか。


 反対に不幸な事はいくらでも挙げられる。その中でも指折りにヤバいのは、身動きが取りにくい水中に投げ出されたところか。せめて水中戦に役立ちそうな能力をコピーできていれば……!


「何か役立つ能力は無かったか……!?」


 国民的ネコ型ロボットのように手当たり次第に能力を候補を頭の中で考えるも、《夜叉》でコピーした能力の大半は表面的な部分しか再現できない。見た目だけはそれらしい武器ばかりでこの状況にマッチしたものが思いつかない。


「――――」


 そうこうしているうちにトリノイワクスが巨大な魔方陣を展開しているのが目に入る。先ほどまで乱射していた魔力法とは明らかに違うそれだったが、俺は強い既視感を覚えた。そう、これは……


「……溜め技かよ」


 俺ですら使えるんだ。AIが使えない道理などあるはずもない。だが、そもそもの火力がけた違いの相手が溜め技なんて使ってきた場合にはどうすればいいんだ。


 いつかに戦った盾使いみたいな能力を極めていれば正面から防げるのかもしれない。しかしそんな真似は俺には出来ない。となればどう頑張っても防ぎようがない。


 絶対にクリアできないゲームなんてものは存在しない。これは真理だと思う。しかしそれは絶対に詰んだ状況を作らないという事を言っているのではない。無茶な戦い方を採用してそれで詰まないのはただのヌルゲーでしかないだろう。


「せめて水中に逃げてみるか……」


 透き通る湖の前では姿を隠した事にもなりはしないが、せめて何か動いた方がいい、みたいな中途半端な考えで潜水を試みる。


 そのまま体を丸めて衝撃に備えるような形をとる。頭を体の中に押し込むように丸くなるのは、ボスが砲撃を放つ様を直視したくないからかもしれない。


「――――」


「……!」


 やはり直撃は避けられないか。そう思ったものの魔力の波が俺を押し潰す瞬間はやってこない。


「……?」


 不思議に思い、恐る恐る水面から顔を出す。果たしてそこに映ったのは砲撃準備を行うトリノイワクスではなかった。


「なんだよ……こんな事ができたのかよ!?」


 そこには巨大な鎖で雁字搦めにされ、身動きの取れない状態で砲撃を一身に受けるトリノイワクスの姿があった。その鎖を目で辿っていくと山へと続いていくのが分かる。それは案の定ユウハが走っていった山だった。


「ユウハ、大当たりを引きやがったな……!」


 声も姿もないが、後はお任せしますとばかりにこっちを見ているんだろうなという事は想像できる。


「……確か、操舵輪を破壊すればいいんだったよな」


 《夜叉》で作った石板を空中に用意し、その上に乗りながらぼそりと呟く。いくらか状況の改善した今なら、あるいは。


「そろそろやられた借りを返してやるよ……!」


 石板をさらにいくつも出して、その上をトントンと源義経のように跳ねながらトリノイワクスへの接近を再開する。


「――――」


「ただの固定砲台にビビると思ったかっての!」


 トリノイワクスの一番の恐ろしさは動き回りながらの砲撃だった。近づけない上に弾幕が濃いとなると回避しかさせてもらえず、ジリ貧のような状況を作り出されるからだ。


 だが今はそれがない。ゴールが動かない以上、地道に近づけば乗船も不可能ではないのだ。そしてトリノイワクスの船尾がはっきりと視認できるくらいまで近づいたあたりで、新たな影が目に入った。


「コォォォォ……!」


「お前らがいるのも知ってるっての!」


 最初に肉薄した際に乗っていた鎧武者が弓を俺に向ける。が、それよりも早く《月光》を放つ。《晦冥》自慢の最速の《月光》だ。不意を打つには十分な性能を持つそれは容易く弦を引きちぎる。


「コォッ……!?」


 乗組員の斉射が遅れた隙に船尾に飛び移り、さらに《夜叉》を発動させる。紛い物の能力の中でも随一の完成度を誇る能力。そう、


「《蝶旋風(バタフライエフェクト)》!!」


 筋力と反射神経に無理をさせて高速で床を斬りつけながらその技を叫ぶ。100%の性能出ないにしろ、かなりの規模の竜巻は鎧武者を指でおはじきをはじくかのように容易く船の外へと捨てていく。そして俺はと言うと、


「ら……ああっ!」


 その暴風を背に受け、風に乗りながらトリノイワクス前方、すなわち操舵輪がある場所まで高速移動を行った。風が吹き荒れ、鎧武者が刀や槍を上手く構えられない今が好機。


 そのまま接近するなり《夜叉》の爪で操舵輪を砕こうとするも、ボスのコアだけあってそう簡単には砕ける気配を見せない。


「《バベルの長城》みたいにすぐ壊れるもんじゃないのかよ……!」


 なおも攻撃を止めない俺だったが、破壊に集中するあまり、異音に気づくのが一瞬遅れてしまった。その、風が吹き荒れる中でじゃらじゃらと立てる奇妙な音を。


「い、錨の使い方を間違えてるだろ……!」


 そこには3基の錨がゆらゆらと動きながらを俺を捕縛しようと接近しているのが見えた。先端のV字の部分が顔のように俺を注視しており、さながら海竜のような印象を与える。


「さっきの砲撃に比べたらなんてことは……!」


 その竜が首を引き延ばし、俺に絡みつこうとするのを必死に避ける。その間にも攻撃を続けていたため、かなりのダメージが操舵輪に入っているはずだ。後少しの間でいい、なんとか錨を止められたら……!


「ヤバっ……!」


 そのさなか、足を絡ませて躓いてしまう。その瞬間を逃すほど愚かな錨ではなかった。


「くそ! もうちょっとで壊せるってのに!」


 ――駄目だ。起き上がって体勢を立て直そうとするよりも錨の方が速い。俺の事を一気に搦め取って湖にでも捨てるのだろうか。それとも、そのまま攻撃され続けるのだろうか。いずれにせよ、捕まってしまえば今以上の好機は訪れない、そんな気がする。


 ジャラジャラと床にその体を打ち付けながら錨がうねる。そして俺の体を捕縛する――




 ――その瞬間だった。


 ガキィンと鎖が巻き付く金属音が響いた。けれども俺の体は自由に動く。錨が狙いを外したのか?


 いや、違う。何か別の物が割り込んだのだ。同時に星空が降って来たのかと見紛うほどの光の翼が閃いた。そう、その翼の持ち主は1人しかいない。


「いいところを独り占めなんて、させないよ?」


「アンタは1人で突っこんだくせによく言えるな……」


「そこはもうちょっと登場に驚いて欲しいんだけどね」


 軽口を叩く彼女の刀には鎖が巻き付いている。丁度俺の前方に突き出して守る形を取ったらしい。そしてツグミが《黒百合》に魔力を流す。それにより洗練された刃が錨をものともせずに両断する。


 そんな反撃を脅威と捉えたのか、新たな錨が湖から次々と顔を出す。八岐大蛇の首のように無尽蔵に増えるのではないか、なんて考えてしまう程の数だ。


「あんなに魔力を消費するとは思わなかったんだよね……。離脱してたお詫びじゃないけど、トドメを刺すまでは守ってあげるよ?」


 《黒百合》についた錨の残骸を振り払いながらツグミが言う。そのまま俺の返事も聞かずに錨を次々と斬り捨て、斬撃を飛ばし、排除にかかる。


「そう言ってくれるならお言葉に甘えますか……!」


 刀を打ち付ける音を背に受け、俺も操舵輪に向き直る。ユウハの長距離砲撃にツグミの遊撃、それらのサポートもあるのだ。後は心置きなく削り切るだけだ。


「もう少し……!」


 取っ手が1つ、また1つと朽ちていく。そうして、猛攻に耐えられなくなった様子のそれに最後の一撃を与えんと助走をつける


「はあああああっ!!」


 《夜叉》を操舵輪の上から叩きつけ、圧縮するように力を込める。そしてついにその瞬間はやってきた。


「あっ……!」


 バリバリバリと音を立てて操舵輪が裂けていく。それを確認すると同時に、錨や鎧武者が消え、砲撃もピタリと静止する。


「これで……俺達の勝ちか?」


「ああ、やるじゃねえか。この短時間でトリノイワクスを落とすとは思わなかったぜ」


 少し悔しそうなその宣言を聞いて、神の船との戦闘が終結したのだと実感した。


「や、やった……」


 甲板にへたへたと座り込む俺に拳を突き出すようにしながらツグミが言う。


「アラタ、お疲れ様! もうフラフラだね」


「そっちもお疲れ。……誰かさんのせいで1人で逃げ回るハメになったからな」


「あの後、私も必死で逃げてたんだよ?アラタの知らないところで大変だったんだから!」


「でもまあ、なんにせよこれで灰の翁にカチコミができるって事か……」


「その前に少しトリノイワクスを乗り回してみようよ。操作を覚えるのも兼ねて、どうかな?」


「面白そうだな。ユウハを迎えにも行かないとだし、少し触ってみるか」


 そんな事を言いながら、復活した操舵輪や帆、大砲などを物色しながら出港の準備を整えていた時だった。


「おっと、待ってもらおうか。吾輩の船を拝借しようとは不敬の極み。そこな不届き者は成敗してくれよう!」


「は……はあ!?」


 大仰な台詞回しとともに空から巨人が現れた。深紅の甲冑を身に着けた、さっきまでの鎧武者とは比べ物にならない体躯を見せつけながら湖上へと降り立った。


「タテル! アンタまだボスを隠してたのかよ!」


 ボス連戦とはいかにもタテルの考えそうな事だ。性格が悪いな……!と非難しようとしたのだが、タテルから反論が飛んでこない。


「……タテル?」


「……そうか。ここで発動したのか! ああ、面白え! このタイミングでやってくるか! どっちが勝つか、これは見ものじゃねえか!」


 かと思うと、突然そんな事を言いながら大笑いするタテル。例によって説明の無いまま1人で納得したらしい。


「……タテルさん?」


 ツグミの声でようやく我に返ったタテルは誇るように解説を始める。


「……俺様はいくつかのクエストの展開をプログラムに生成させるようにこの世界を作った。作った俺様すらもこの世界の全貌を知らない。その方がワクワクするだろう? そしてそれによって生み出されたのがこの展開だな。ああ、初めて起動するのが見れたぜ!」


「誰も知らない新しいモンスターって事か……。発想は好きだけど、致命的なバグで超強化されてたらどうするつもりだよ!」


 ネタを誰も知らない以上、仮にバグで不死身になってたとしてもギミックがあると信じて戦うハメになるのではないか。


「ああ、心配すんな。そんなヘマは俺様は打たねえ。それよりもコイツに関しては俺様も口出しさせてもらうぜ。どんな動きをしようと読み切ってやる」


「それ、タテルが遊びたいだけだろ……」


「ああ、そうとも言えるな。だが実際に肉体で戦うのはお前らだ。気を抜くなよ、駒ども!」


「だってさ、行こうアラタ! トリノイワクスの初陣だよ!」


 操舵輪をぐるりと回し、再び動き始めるトリノイワクス。その船を見つめ、刀を引き抜いた巨躯が名乗りを上げる。


「吾輩は雷神タケミカヅチ! 我が雷の前に散るがよい!」

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