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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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天文台制圧戦

「キャキャキャ!!」


「ウキョッキョッ!」


「猿って敵というよりは温泉に配置すべきノンアクティブなモンスターじゃないんですか……?」


 天文台が怪しそう、それを確かめるために言い出しっぺである私は街を抜けて山道を走っています。


 ここでトリノイワクスに有効打を与える、それこそがあの2人のためにできる事だと確信した私は普段以上の速さで山道を必死に駆け上がっているのです。


「キャキャ……ウッキャー!!」


 ずっと気を飛びながらついてきていた猿が何かを投げる動きを見せた……気がします。


 動体視力もこの世界ならある程度上がっているはずですがそれでも私は追いきれません。いくら必要かも分からないけれど、もっとレベルを上げないといけないという事でしょうか……? 


 でも、


「見えないなら……能力に任せてしまえばいいんです……!」


 ――《流麗(イミテーション)模倣(・ドール)》。対象1人の動き、能力をコピーする私の能力。影だけでも見えたなら能力の対象にするくらいは何てことないです。


 後は全く同じ力と軌道で、手に現れた石を投げるだけです。そこに私の意思や調整は入りません。


「……ぁ!」


 そんな対称的な石の軌道は打ち消し合ってゼロになります。当然私に危害は加えられません。


「キキキッ!?」


「これを破るなら……コピーできないくらいの技か、自殺する覚悟を、持ってもらわないと……」


 頑なにツグミ先輩とくっつこうとしないよく分からない人を思い浮かべながら、目を見張る猿のいる枝に飛び乗ります。戦闘は激しくさせたいからか、この世界での身体能力の上がり方はかなり振り切れてると思います。


「……《流麗舞踏(レコード・ダンス)》!」


 それは《晦冥》の立ち回りのワンシーン。私はそれを何度も再演します。


 纏った爪で切り裂いて。


「キキキィィ……!?」


 さらに握られた短刀で追撃を。


「……ッ……キギィ……」


 それは先輩の撃ち出す速度と何ら遜色はありません。コピーだからその程度は模倣できて当然なんです。


「そっちにもいますね……!」


 太い枝を力強く蹴り、後方の敵に近づきながら再びの《流麗舞踏》。


「キャャ……ァ……!」


「先輩ならもっと変幻自在の動きを見せられるんですよね……」


 模倣が主たる特徴の私に、あの動きは贅沢かもしれません。それでも使えればもっと役に立つのに……いいえ、私の役目は2人の後方支援でした。彼らの笑顔と愛を育む様を見届けるのが私の役目!


「キ……キキキッ!」


「先輩達の邪魔は許さないから!」


 気づいた時には昂ぶった勢いそのままに斬り捨てていました。


 あのカップルの話になると普段よりも凄く興奮してしまうんですよね。それこそ周りが見えなくなるくらいに。


「そんな風に入れ込めるカップルに出会えるなんて、やっぱり運命でしょうか……?」


 ゲームで生まれる愛情、こういう恋愛物語も惹かれますよね……!


「それはともかくとして天文台に行かないと……」


 そんな楽しそうな物語を私1人の失敗で破綻させるわけにはいきません。


 追っ手が消えた山道を駆け上がりながら進んでいきます。真っ直ぐに作ればいいのに、曲がりくねって遠回りになっている道は壁登りのようにショートカットしていきます。


「案外、登ろうと思えば山も登れるものですね……」


 レベルにものを言わせた登山な気もしますが、達成感を味わうだけならこれでいいかもしれません。観光だったらこれで終了なんでしょうが、私にはまだクエストが残っています。


「ここですか……」


 山道の中の舗装された道、その奥にはバンガローのような施設と、円柱のような形をした建物がありました。


 そして……


「ボスモンスターは、お決まりですよね……」


 バンガローの並んだ建物の奥の天文台。そこには行かせないと立ち塞がっているのは、さっきのものよりもひと回りもふた回りも大きな猿のモンスターでした。


「ボス猿とみるのが妥当ですよね……」


 周囲に従えた手下の猿達がキャアキャアと喚きながら対峙する私とボス猿を囃し立てます。


「そんなに騒がなくても……やりますよ……」


 怖くないと言えば嘘になります。言葉が通じない分、もしかしたら人間相手よりも緊張してるかもしれません。


 けれど、あの2人の為にも退くわけにはいかないんです。


 ……自分の為に必死に頑張れる人はいると思います。反対に他人の為の方が頑張れる人もいる事でしょう。


 どっちが強いのかは実際に戦わせるなりしないと分からないですが、1つだけ確かな事があります。


 自分の為であり、かつ他人の為にも頑張る私なら……こんなモンスターは、敵じゃないです!


「先輩達の幸せを見るのが私の幸せ……! 私はいけます……! ……いける!」


 その宣言はバフの如く、私の足をボスへと向けてくれます。


「ゴキャアアアッッ!」


 迎え撃つようにボス――《アストロモンキー》と表示された巨大な猿――はその右拳を強く突き出します。


「――《流麗模倣》!」


 私も弾丸のように左手を突き出し、拳と拳をぶつけ合います。


「っ強い……!」


「キャキャキャ! ……ウキィアア!」


 互いに威力が跳ね返ってきて後退するも《アストロモンキー》は様子見をするでもなく、さらに攻撃を重ねてきます。


「っ、連撃じゃ押し切れないですよ……!」


 殴打、殴打、蹴り、頭突き、もう一度殴打。放たれるそれらをやり込んだリズムゲームをこなすかのように寸分狂わぬ動きで相殺していきます。


 コピーするたびに魔力は消費しますが、ポーションは際限なく所持できるうえに魔力量だって増えています。そう簡単には崩されません。


 そう考えていたのですが、安定行動だけで倒せるほどボスは甘くありません。


「……ウキ! キャアアーッッ!」


 大猿の一声と言うべきでしょうか。その声に合わせて、建物の屋根や木に登った猿が一斉に《月光》や《陽光》を放ってきたのです。


「これは……《流麗舞踏》!」


 決められた動作であってもアラタ先輩のその手数は多いです。とにかく直撃の数を避けないと――


「ウッキキィィー!」


「やあ……っ!?」


 その、身を翻した瞬間に《アストロモンキー》の強烈な蹴りに襲われ、地面に引き倒されました。


「キキーッ!」


 うずくまったところにさらに蹴りが入ります。コピーする暇も無く、平均よりも軽い体の私はたやすく吹き飛ばされてしまいます。


「……筋力だけじゃなくて、学習までしてるんですね……」


 吹き飛ばされた私に追撃を浴びせて倒そうとすると予想して、《流麗模倣》の用意をしていたのに《アストロモンキー》は攻める姿勢を見せません。ただ、挑発するように手をぶらぶらと動かすだけです。


 きっと私がカウンターが得意だという事を悟ったのでしょう。とにかく私に動かせてから、そこにカウンターを入れるという魂胆なんでしょう。


「…………」


「キキッ…………」


 互いが互いに先手を打たせようとする状況。動けば不利になると分かっているのに自分から動こうとする人はいません。


 けれど私はずっとこうしているわけにもいかないんです。


「ギミックがあるにしろないにしろ、確認して早く動かないと先輩が……」


 トリノイワクスを抑えると言っても、いくら先輩でも長期戦を戦える保証はありません。


 だから一刻も早くこのボスを倒してギミックを調べないといけません。だけど考えなしに突撃するのはご法度です。


 ……こんな時、先輩達ならどうやって乗り越えようとするでしょうか? きっと周りをよく見て、何か策を……


「そう、例えばこんな風に……!」


 閃きと同時に体が反応していました。大丈夫かどうかの確認をする事もなく、ただ愚直に。


「キキッ? ウッキャッキャー!!」


 当然のようにボスは拳を振りかぶって迎撃を試みます。それは当然の反応です。これを、怖いのを我慢して……


「ギリギリで……横に!」


 拳が体を掠め、風圧をビリビリと感じながら一息に側面へと張り付きます。それでも《アストロモンキー》は視線を外しません。


「キャッキャッキャー!」


 甘いぞ! と嘲笑うかのように叫びながらジャブを裏拳へと切り替えて、外す事なく私を捉えます。


「んぅっ…………!?」


 先程の経験からまともに受ければどうなるかは自明の理。私は甘んじてそれを受け入れるしかありません。けれども、


「飛ばされる先くらいは……選ばせてもらいますけど……!」


 地面に体を擦りつけながら私は目標地点に辿り着きました。


「近くて遠かった天文台、やっと来ましたよ……!」


「キキッ!?」


 《アストロモンキー》には目もくれず、ドアを押し開け荒っぽい強盗のように室内の階段を駆け上がります。目指すはもちろん望遠鏡です。


「はあ……はあ……やっぱり私の読みは正しかったみたいですね」


 望遠鏡を覗きながら、勝ち誇ったようにそんな言葉が出てしまいます。自力で好みの位置に動かせるだけでなく、取っ手の部分には不自然についた引き金。


 間違いなくその役目は支援砲撃、確信しない理由がありません。


「自由に動かせると言っても限度がありますね。トリノイワクスがうまく射程に入ってくれるといいんですけど……」


 と、ガチャガチャと仕様を確認する私に後ろから声がかけられました。


「キャキャ……ウウ、キキイイッ!」


 振り返るまでもなく分かります。階段を駆け上がって、追いかけてくるモンスターがいるはずです。


 きっと《アストロモンキー》は無防備な私の後頭部を、鈍器も見劣りするようなその拳で穿とうとするでしょう。


 その拳の圧を感じたその瞬間に、私は動きました。


「……《流麗模倣》!!」


「キキイッ!?」


 ギリギリのところで動きをトレースして、力と力を拮抗させます。


「それだけじゃなくて……!」


 拮抗したところで《流麗模倣》を解除。パワーバランスが一気に崩れて私は当然支えきれずに倒れ込みます。


 そして、《アストロモンキー》もそれに引っ張られるように倒れ込みます。ただし、私とは少し状況が異なりますが。


「やああ……っ!」


 バランスを崩して倒れかけた《アストロモンキー》の頭を掴んで、持てる力を振り絞りながらほんの少し、動かします。


「キキッ……キ!?」


 動かした位置は望遠鏡の接眼レンズ。さらに望遠鏡が向いているのはトリノイワクスではなく――


「……たとえゲームの世界でも、太陽を見たらどうなるんでしょうね?」


「キキキッ!? キッ……ギャアアアア!!?」


 予め向けておいた太陽を直視してしまった《アストロモンキー》。目を抑えてのたうち回る様は、思わず罪悪感を覚えてしまうほどですが、これも勝負です。


「今の状態なら防げないでしょう……踊りましょう、《流麗舞踏》!」


 たとえ技がアラタ先輩の劣化でも。ゲームをする動機だけは借り物でもない私だけのもの。


 それを乗せて、押し切ります――!


「ギギギ……ャアア!!!」


 最後の一振りを受けて《アストロモンキー》は倒れ伏しました。


「やった……」


 勝利の余韻に浸るのもほどほどに私はすぐに望遠鏡兼固定砲台を構え直します。


 ここはまだ通過点。私が喜ぶのは2人の幸せなんです。


「違う違う言いながらも仲もいいですしね……!」


 トリノイワクスが射程に入ったら一瞬で決めましょう、そんな決意とともに望遠鏡を握る力を強くしました。


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