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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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湖の防衛機構

「……ぷはっ!」


 湖面から顔を出す。風が吹きつけ、俺の体を冷やしていくと思ったのも束の間、陸へ上がると濡れた服の重さは次第に感じられなくなり、体温の低下も嘘のように収まっていく。


「……こういうところはちゃんとしてくれているんだよなあ」


 誰にとっても都合の悪そうな部分は快適になるよう調整されている。このあたりはユーザー目線の良ゲーと言っていいのかもしれない。


「私だって……簡単にやられるほど甘くは……!」


 そこではユウハがトリノイワクスを引きつけながらの大立ち回りを演じていた。


 以前言っていた《流麗舞踏》だろうか。俺と同じ漆黒の槍を携える姿を見て思う。


 コピーしたものをさらにコピーするというオリジナリティが残っているのか不安になる能力の使い方だが、術者を守るにはこれ以上なく働いてくれている。


 直進しては槍が消え、少し動いた後にまた槍でブーストをかけるという戦法をとるあたり、やはり一動作しか切り取れないのか。


「あっ……」


 しかしいくらタイミングを工夫しても原理としては高速で直進しているだけだ。


 トリノイワクスがどんなAIを搭載しているのかみたいな詳しい内部の事は全く見当がつかないが、しかしずっと翻弄されるほど馬鹿ではないらしい。


「――――」


 ユウハの逃走経路を潰そうと砲撃を三連射。地面が三点同時に爆発し、擬似的な袋小路を作り出され、ユウハはそこにまんまと囚われてしまう。


「ううっ……!」


 体に直撃はしていないものの槍の後部を砕かれ、その勢いで放り出されるユウハ。


 先と同じ戦法で逃げる選択肢もあるだろうが、一度止まってしまった以上トリノイワクスが進行方向を全て計算しているという可能性もある。それくらいの事はやってのけそうだ。


 ユウハもそれを分かっているからか、どう動くべきか必死に頭を巡らせている。


 そんなユウハが計算を終わらせるよりも早く戦況が動いた。


 高く響く轟音、砲撃音によって。


「――――」


「えっ……?」


「よっし! これなら通るな……!」


 驚いたユウハがこちらを見上げている。というのも俺は適当な建物の屋上、そこに据えられた大砲の側に立っているからだ。


「た、大砲ですか……?」


「そう。多分これがこのボス戦のギミックだな」


 黒煙を上げながら炎上するトリノイワクスを見ながら、その仮説が確信へと変わる。瞬く間に鎮火されはするものの、砲撃の後は完全には消えていない。


 さっき湖に落ちてきたのは瓦礫の山。トリノイワクスに壊された建物の残骸だ。それに混じって降ってきたのが大砲だった。


 運良く壊されていなかったその姿を見て、建物のどこかに設置されてるんだろうなと確信した。


 後は怪しそうな場所をチェックして見つけ次第攻撃開始。タネが分かれば後はやりやすそうなギミックだな。


「でも……これなら本当にトリノイワクス壊せちゃいそうですけど……いいんですか?」


 タテルの言った通り、俺達3人の能力じゃトリノイワクスには傷1つつけられない。けれどもこのギミックならその可能性は急激に上がる。


 そうなった場合本当に沈没させかねないとユウハは考えているのだろうが――


「それも大丈夫だと思う。……タテルはプレイヤー同士でこの船を奪い合うコンテンツだって言ってろ。なら、プレイヤー間の戦闘で船が損傷するのも計算済みのはずだ」


 ドックで修理とか、奪った瞬間に全快だとか、多分何かしらの措置は取られているはず。


「だから、壊した時はその時考えればいいだろ」


「適当というか、理にかなってるというか……」


「とにかく今は砲撃を」


 ドゴオ……ン!! と再び轟く砲撃音。やられたらやり返すという言葉を知っているのか、トリノイワクスが負けじと応戦の構えを見せる。


「……危ねえ……っ!」


 大砲を撃ち返すと同時に建物から飛び降りて直撃を間一髪で免れる。そのまま頭を守るようにして前転しながら瓦礫の降らない場所へと走っていく。


「せ、先輩……! あの船が……!」


「いや、それは無しだろ……!」


 ひとしきり砲火を浴びせた後、トリノイワクスはその巨体を引きずりながら湖へと再び帰っていく。


 しかしそのまま出航するわけではない。あたかも意思を持ったようなその船は安全地帯から砲撃を開始したのだ。


「ユウハ! とにかく離脱!」


「は、はい……!」


 建物と建物の間をすり抜けるように駆け抜けて、そのまま大通りへと躍り出る。


 このエリアは湖の周囲に街が形成されている。だからこそどこからでもトリノイワクスの位置を確認できる。もちろん相手も条件は同じだ。


「大砲が届かないです……! というか壊されていきますよ、これ……!」


 せっかく見つけたギミックも湖上に届くまでの飛距離は持ち合わせておらず、一方的にこちらが狙われる形となってしまっている。


 おまけに大砲という手札をあちらは手当たり次第に削る事まで可能な状況だ。これ、どうやって攻略しろって言うんだ……?


「砲撃を躱すのも、操舵輪を壊すにも接近するのは必要だよな……」


 遠距離で何かをしようにも《月光》では不安が残る。《夜叉》で攻撃する方が威力は恐らく大きい。となると、とにかく近づく必要があるが……


「船とは思えない動きで暴れますよね……」


 船体を回転させて吹き飛ばす、もしくは空を飛びつつの空中からのプレス攻撃、忘れてはいけない鎧の兵隊とギミックの詰め放題ときた。


 仮にツグミの《翼》が長時間使えればどうにかなりそうなものだが……。


「……でもタテルの事だ。《翼》みたいな特殊能力がなくても戦えるような、何か1つくらいは決定的な有効打を作ると思うけどな……」


 空中戦前提ならそのための道具があるはずだ。


「使えそうなものはないですかね……」


 砲撃に当たらないようにトリノイワクスから距離を取り、高台になっている方角へ移動しながらユウハが言う。


 湖に街並み、広がる山々を見渡せる絶景スポットとして機能していたであろうそこからは砲火が上がるのが確認できるのみだ。


「――――」


 トリノイワクスが目ざとくこちらを見つけてお決まりの砲撃を放つもそれがこちらまで飛来する事はなかった。


「……ひとまずはここが安全地帯、ですね……」


 高台からトリノイワクスを睨む膠着状態が続く。勝ちはしないが負けもしない。一見するとありがたい時間だが、このまま何もせずただただ時間が過ぎるなんて展開はつまらない。


「今のうちに作戦を練らないとな……」


 名は体を表すという意味ではうってつけの人材がいるのだが生憎と手は貸さないときた。つまり俺達2人でどうにか策を捻り出さなくてはならないが……。


「先輩。……あれ、怪しくないですか?」


 ユウハの細い指が指し示しているのは山の中腹。目を凝らすとそこには何か黒い大砲のようなものが見える。いや、あれは大砲というより……


「……天文台じゃないのか? あれがどうかしたのか?」


 きっと都会に比べて星が綺麗に見えるとか、そういう背景があるんだろう。そう考えれば設置されてるのも特に違和感はない。


「あそこの望遠鏡から……狙撃、できると思いませんか?」


 何とか見える巨大な望遠鏡。未だ空を向くそれをトリノイワクスに向けるとユウハは言っているのか。


「いや、それができても弾丸なんてあるのかよ……?」


「……絶対とは言えないですけどありそうじゃないですか……?わざわざ砲撃の的にされなさそうなところに建ってるんですよ」


 そう言われると天文台はここの高台と同じ、簡単にトリノイワクスが狙ってこない場所に位置している気がする。


「ならまずはそれを試してみるか……。いけるかどうかなんて、やらないと分かんないしな」


 現実では失敗を取り戻すのは難しい。特に頼れる味方を作ってこなかった独りぼっちのゲーマーには。


 されどここはそんな安定志向の世界ではない。失敗は取り戻せる。奇策が通じる、常識に囚われないこの世界ならば。


 それなら動く以外に選択肢などあるはずがない。


「ここでツグミ先輩が元気に返事してくれれば、私もやる気が出るんですけどね……」


 笑いながらユウハが言う。そんな場面を想像してしまい俺も少し頰が緩んでしまう。


「……天文台は私が行きますから、先輩は船を引きつけておいてください。空を飛んで天文台まで来られたらどうしようもないですから」


 その提案に思わず1人で大丈夫か、と言いかけてしまうがそれを遮るかのようにユウハがシャドーボクシングを始める。


 いや、よく見るとそれはパンチではない。黒い爪を纏った手、それは見慣れた俺の十八番だった。


「私はあの《晦冥》の能力をコピーしたんです。……自分の能力が信じられませんか?」


 そう言われると返す言葉は1つしか出てこない。


「……いいや、まったく。俺自身はアレだけど、能力だけは信用に足るもんな」


「それ、前半いらないじゃないですか。……でも、そういうところが先輩らしいですね。けどやっぱりこういうのに口を挟むのはツグミ先輩でないと……」


 ころころと逆接を多用する姿はさっきまでの威勢が嘘のように見せてしまう。


「じゃあとにかくそっちは任せた。2人で仕留めてツグミに目に物見せるぞ……!」


「それはそれで面白そうですね……! そしてそれに嫉妬するツグミ先輩、これはこれでアリじゃないですか!?」


「そんな事ないと思うけどな……」


 言い合いながら互いに違う方向へと歩き出す。これ以上の言葉は必要ないのだ。……そもそも俺達はそんなに口が回らないし。


「大見得切ったはいいけどどうするか……」


 そんな事をぶつくさ言いながら大きく伸びをして走る準備を整える。体を動かせば頭も動くはず。


 頭を使う事前提だから脳筋とは違う存在なんだ、とかアイデンティティを確立しながら戦闘態勢にもう一度入る。


 時間稼ぎならこすっからいやり方でも何でもいいはずだ。


「……やってやろうじゃん」


 そうして第2ラウンドのゴングを俺は鳴らした。


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