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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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その翼は神に届くのか

「2人とも、来るよ!」


「とにかく射線に入るな……! 絶対ヤバい!」


「ああ、ヤベえだろうな。カテゴリーとしちゃあボス格だ。……しかも格上の、だからなあ!」


 トリノイワクスが魔法陣からレーザーを乱射する。それ自体はアルティーナ戦でも見た事があるし、ボスの小手調べのような、言ってみれば基本技みたいなものだろう。


 ただしこれまでと違う点が1つ。口上もなく罵声もなく、淡々と無機質にそれは襲いかかってくる。


「……こっちの、建物に隠れましょう……!」


 ユウハが湖から距離を取り、巨大な防壁のようなホテルが盾になるように走っていく。


「見て! これなら……!」


「立て直す時間くらいはできるな……!」


 ユウハと共に隠れたホテルに躊躇いなくトリノイワクスは攻撃を止めない。しかし、主砲まで持ち出したというのにホテルは地響きに揺れるだけで崩壊の兆しは見せない。


 絶対に壊れないのか、いつか耐えきれなくなるのかは分からないがとにかく今は――


「ボサッとしてんじゃねえ!すぐ離れろ!」


 ――日光が遮られた。天候が変わったからではない。その証拠に見上げれば水色の空がどこまでも広がっている。だが、澄んだ青空ともう1つ、天空を支配するものがある。


 それは物理法則を無視した巨体を持つ船、トリノイワクスだ。


「あり得ないだろ、これ……!」


「私が……なんとか……!」


 ユウハが手を伸ばし飛来するであろうレーザーを模倣しようとする。けれどもトリノイワクスはそんな予兆を見せようとはしない。


「待ってユウちゃん、もしかしてさ……」


 ツグミが言い終わる前に危機感を感じた俺は動き出していた。


「ッ!こっちだ!」


 ユウハの手を強引に引いて走り出す。わざわざタテルが離れろとまで言ったんだ。言うだけの何かがそこにはある。


 いや、何かではない。おおかた想像はつく。わざわざ空を駆けて俺達に接近したんだ。となればここから繰り出されるコンボなんて1つしかないだろう。


「――――」


 ズズズゥ……ン……! と地響きを立てながら壁として機能していたホテルがぺしゃんこにされる。1つ1つの階層が圧縮されてまるでミルフィーユのように潰れてしまう。


 そこから吹き出した瓦礫が舞い、自分だけ倒壊するくらいならと2次被害を次々と生み出していく。


 傍迷惑な事故に巻き込まれないように必死に走りながらもその様子は目に入ってくる。


「くそ! 何も考えずに突っ込んでこれかよ!? ゴリ押しもいいとこだろ……!」


「ホテルにぶつかっても傷1つないんだもんね。攻撃が通るのかも怪しいね」


「……最終的には乗ろうとしてる船を攻撃していいんですか……?」


「ああ、壊せるもんなら壊してみな。3人ぽっちの攻撃で沈むほどやわには作ってねえからな」


 そんな言葉を交わしている間もトリノイワクスは止まらない。アスファルトに亀裂を走らせ、地面に悲鳴を上げさせながらゆっくりと方向転換をする。


 正面に据えられた大砲が俺らを睨め付けている。そう思った次の瞬間には轟音が轟いていた。


 砲弾は軌跡を描きながら俺の元へと駆けつける。無機物に関しては俺はやたらと好かれるらしい。


「《夜叉》! 防げ……っ!」


 その好意には全霊でもって受け止める。前に出て《夜叉》を纏い空へ向かって振り上げる。人の好意も悪意ものらりくらりと躱してきた俺としては珍しい奇行に見えるかもしれないが何という事はない。


 ――熱烈なアタックを仕掛けるその砲弾は白く光っているのだ。


「パリピだのリア充だのじゃなくても……こんなデカブツでも《光》を使えるのかよ!」


 叫ぶと同時に《夜叉》の力を全開にして砲弾を塵に変える。その感触で魔力の消費量が何となく分かる。……1発だけでもかなりきついな。


 タテルの無限ポーション作戦があるとはいえ、魔力切れを起こして倒れれば致命的だ。上手く魔力をやりくりしないと。


「ねえ、ボスが当たり前のように両属性使えるのずるくない? 私と被ってて不愉快だね……」


「それはツグミ先輩の方がずるいんじゃ……」


「両属性もヤバイけどあの耐久も問題だぞ。弱点をとにかく見つけないと……」


 《バベルの長城》のゴーレムはクリスタルを壊して弱体化させた。アルティーナは彼女以上に空中戦が得意なツグミが勝機を作った。


 これまでのボスには必ずどこか弱点があった。恐らくトリノイワクスにも存在するはずだが……。


「ああ、ぶっ壊さなくても主導権なら奪えるぜ? トリノイワクスに搭載された操舵輪。そいつを砕けば所有権はお前らのものだ。本来なら主導権を奪い合うコンテンツだからな、これは」


 プレイヤー同士で船を奪い合い一時の覇権を争う。派手なPvP要素にしたかったのか。今はプレイヤーは俺達しかおらずPvEの形になってしまっているが。


「だったらここから《月光》で撃ち抜けばそれで解決じゃないのか?」


 幸い、操舵輪はすぐに視認する事ができた。船の前方にでかでかと鎮座するそれは新たに握る船長を求めているかのようだ。


 そんな操舵輪へ向けて最速の《月光》を放つ――が、当然というべきかレーザーが容易く行く手を阻んでしまう。


「だったら私が直接行くよ! 《快晴の翼》!」


「おい! 勝手に突入して大丈夫なのかよ!」


「うん! ここはどう見ても私の出番でしょ!」


 それだけ言って空色と純白とが混ざり合った透き通る羽をはためかせながらツグミが1人、トリノイワクスへと向かっていく。


「――――」


「さあ、勝負だよ! トリノイワクス!」


 言葉通りに弾幕をひらりと躱して距離を詰める。《快晴の翼》は急降下や急旋回、様々な無茶な動きを可能にする機動力特化の翼だ。


 アルティーナとの空中戦も競り勝っただけあって砲撃に当たるようなヘマは打たないらしい。


「――――」


 そんなツグミに対して薙ぎ払うかのようにレーザーを照射するトリノイワクス。精密なコントロールで狙ってくるそれを旋回しながら紙一重であしらい、そのまま船体に肉薄する。


「私を撃ち墜とそうなんて100年早いよ!」


 抜いた《白百合》は舵輪の元へ。叩き壊そうと船体へ突入するツグミを、しかしトリノイワクスはしっかりと補足していた。


「――――」


 甲板にツグミが乗り込もうとする瞬間。ツグミの足が触れるその刹那をトリノイワクスは狙ってきた。


「先輩……それ、避けられない……!」


 触れるかどうかのタイミングで空へ浮上するトリノイワクス。推進力と重量のシナジー効果が下からツグミを突き上げる。その姿は海から顔を出すクジラのようだ。


「――《黄昏の翼》!!」


 甲板に打ちつけられる寸前、そんな声が湖に響く。ツグミの数ある翼の1つ、瞬間移動を可能にする奇跡の翼。


 その金色の翼は、主人を無謀な衝突から間一髪のところで救出する。


「あっ、私の翼が…………」


 けれどもそれは反撃のチャンスまではとても作り出せなかった。ある程度トリノイワクスとの距離は稼げているものの、そのままツグミは湖へと落下していく。


「ツグミ……ッ!」


 彼女の翼は魔力消費が激しいと言っていた事を思い出す。アルティーナを叩き落とすだけでもギリギリだったのだ。


 瞬間移動を使った時点で魔力切れを起こしたのだろう。ポーションに手を伸ばそうともしないままゆっくりと墜ちていくのを俺達はただ見ている事しかできなかった。


「ツグミ先輩が…………」


 湖からツグミが上がってくる気配は無く、トリノイワクスは次の獲物を見つけたとばかりに舵を切ったのだった。


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