敵を見据えて
「ああ、対処とは言うがパッチ1つで修正できるほど甘くはねえわなあ……」
プログラムのどこに洗脳システムをねじ込んだのかは見当がつく。
が、それを書き換えようもんなら即座に報復される。いや、そんな余計な事をしようがしまいがどのみち俺様は用済みで処分か。
なら俺様の最優先事項は……
「ああ、気づかないふりをしつつ、身の安全の確保って事か」
L&Dのリリース前にジジイを止めるのは俺様の力じゃ不可能だな。自殺して永遠にこのゲームが出せないようにする、なんて判断を下せるほど聖人でもねえしな。
仮に実行してもあいつらが別のクソゲーでも作って同じ事をすればそれで安泰。わざわざ死ぬだけのリターンも無えな。
となれば方策はたった1つ。
「L&Dを開発した後速攻で雲隠れ、ゲーム内から妨害する、だな。……ああ、面白えじゃねえか」
……まあ、こんな風に俺様は俺様なりに戦い始めたってわけだな。
もっとも、俺様は《晦冥》みたく酷く苦戦なんてもんはしねえ。手際の悪い天才なんざこの世にいねえ。俺様の手腕は我ながら惚れ惚れするもんだったぜ。
「俺様の秘密基地くらいは秘密裏にプログラムしても分かんねえだろ」
俺様達が集まっているここがまさにそれだ。
普通にゲームを進めても辿り着けないようなエリアだからな、包囲する事も攻め込む事すら不可能な俺様の虎の子って寸法だ。
そもそもL&Dは日本人全員がアクティブユーザーとなる事を想定しているからな。マップを自動生成だのなんだのを組み込みまくってる、俺様1人の力でな。
陽キャを隠すなら人の中、コードを隠すならコードの中だってわけだ。
後は使えそうな奴を探して監視。タイミングを見て引き込む、待ち受けてたのはそれだけのミスりようもねえ仕事だったな。
さらに言うなら開発を完了させると同時に雲隠れも成功したからな。お前らとは段取りが天と地ほどの差もあるんだよ。
*
「……ただの自慢話かよ」
説明を聞いていたはずだが、それよりもタテルがどれだけ優秀かを嫌というほど分からせる事に重きが置かれていたように感じる。
「ああ、そう考えるかもな。自慢できる事が何もない奴ならな」
「一々鬱陶しいな……」
「ハメられたのに全然反省してないんじゃないかな……?」
「ああ、反省はしてねえが学習はした。次はハナから上手くやるさ」
「無茶苦茶言いますよね……」
説明半分、雑談半分のようなそんな空気が流れる。それでも充分な情報量は得られた感じではあるが。
「とにかく、相手は政治家っていうドロドロした戦いだから外部の協力は無いって事か……」
リアルアタックされたらどちらが勝つかは明白。格闘ゲームが上手いからと言って現実で武術の心得があるかと言えばそうとは限らない。強いゲーマーほど現実だとすこぶる弱いものだ。かなり偏見があるかもだが。
「ああ、そうだ。ゲームなら身分の違いもクソもねえ。フィールドとしちゃ最適だろうが」
「それは分かったけど、ここからどうするの?戦力差がとても違いすぎるよ?」
灰の翁が乱入してきた際、俺達はなす術なく撤退した。個々が高いスペックを持ち、かつそれを人海戦術で指揮が可能というチート軍団を前にして。
無策で戦えと言われてどうこうなるものではないのは火を見るよりも明らかだ。
「ああ? 簡単だろうが。灰の翁の奴隷を完全無視してジジイのみを叩く。これ以外に何があんだよ?」
「……まあ、それが現実的だよな」
そう簡単にいけば苦労はしないけれども。それはぐっと飲み込んでおく。
わざわざ言わなくても誰もが分かっている事だ。こんなつまらない事は言うものではないだろう。
「どうせそこの《晦冥》は具体策だのを気にしてるんだろうがそれは俺様に任せておけ。とにかくお前らは一旦現実に帰りな」
そのタイミングで体が光に包まれる。誰に襲われようとどんな施設に飛ばされようと、そんな事はお構いなしに終わりの時間はやってくる。
ゲームは1日7時間。親が子供に口酸っぱく喋るフレーズよりは緩い規制だが、それでも絶対の効力を持つ。
どうせならタテルがこの制限も破ってくれればいいのに、と思いながらも大人しくログアウトの時を待つ。
「ああ、今回はよくやったと言っておくか。……次もきりきり働けよ」
「いや、最後のいらないだろ……」
申し訳程度にもならないそんな報酬を受け取りながら、意識は現実へと登っていく。
いつも通りの退屈な日常パートが始まってしまうと、毎度ながら性懲りも無く考えてしまう。
――その通りに世界が動くかは別として。




