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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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在りし日のGM

「ああ、撤退は無事に完了したな」


 星野の活躍で、灰の翁とその取り巻きからは撤退できた。喜びも悲しみもなく疲弊感しか残っていないのは若くして感性がすり減っているからか、あるいは。


「その……ツグミ先輩のお兄さんは……」


「十中八九洗脳されたか、抵抗して投獄でもされたか、だろうな。どちらにせよ戦力になるのはここにいる4人だけだ」


 計画通りではあるがな、と俺達を見回す旧GM。


「でもさ、あのお爺さんはどうして誰も彼もを洗脳なんてしてるの? いくらなんでもやってることが大掛かり過ぎるよ」


「ああ、簡単だ。あのジジイはゲームをやろうとしてねえんだよ」


「ゲームをする気がない……?」


 ここは言ってみれば電脳空間、ゲームの世界そのものだ。だと言うのにゲームをする気がない? 


 それは現実世界で何もせずにニートとして生きるようなものなんじゃないのか? 


「俺様としてはそんな風に大人しくして欲しいもんだがな。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()」。


「……現実のため、ですか……?」


「ああ、ジジイの魂胆は単純明快。国民全員をL&Dで洗脳して日本を征服する。それだけだ」


「日本、征服……!?」


「待てよ、洗脳はL&Dの能力だろ。現実で洗脳なんてできるのかよ!?」


「それが本当だとしてさ、警察やそれこそハッカーに頼んで解決とかできないの!?」


 SFの世界じゃあるまいし、と思いつつも怒涛の勢いで質問が口から飛び出す。ゲーム内のメインストーリーであったらいいのに、とも思いながら答えを待つ。


「ああ、前にも言ったががっつき過ぎだ。……ま、気持ちは分からねえでもない。一から説明するからよく聞きな」


 そうして俺の知らないGMの物語が幕を開けた。


 それは制作秘話と言えばそうなのだが、ゲーム雑誌にも乗らなければ他言される事もない、きっと日の目を見ない、まさに秘密の話と呼ぶべきものだった。



 *



「タテルさん、各都市のデザインが完成しました!」


「ああ、悪くはねえな。だが《黒都》のデザインは考えものだな。悪者の都市にするんじゃねえ、悪い都市にしてえんだよ」


「わ、分かりました。では《黒都》に関しては再考します」


「ああ、任せた」


 俺様は作戦タテルという名前でL&Dのディレクターをやっていた。ふざけた名前だとは思うがインパクトのある名前の方が覚えが良くなるからな。敢えてそう名乗っていた。


 ……ガキの頃からゲームで使ってたお気に入りの名前だ、なんて言っちゃ俺様の沽券に関わるからな。


 俺様は有能だ。開発中のL&Dの全決定権は俺様にある。お茶目な部分だとか弱みや苦手なものだとか、そんなものは一切見せなくていい。


 孤高にして完璧。部下には背中だけ見せてりゃいい。それが俺様のスタンスだった。自分を仕事人間だとは思わねえが他者との必要以上の交流は億劫だった。


 ああ、あれだな。もしも俺様もプレイヤーになるとしたら《晦冥》の特権を持つくらいには面倒だと感じていたな。


 だから人心掌握なんぞには興味が湧かなかった。今にして思えば、もう少し他人との距離感を縮めておくべきだったのかもしれねえな。いや、そんな事はどうでもいいか。


 ……その事件は偶然起こった。L&Dの開発中にあの灰の翁が俺様の会社を突然訪問した時だった。


 それ自体は別に日常ののワンシーンに過ぎない。L&Dは正式に国から依頼されて作った作品だからな。政治家のあのジジイが視察に来ようが止める権利はねえし興味もねえ。


 俺様は丁度外出していてな、戻ってきて廊下でジジイと部下が何か話してるのを偶然聞いちまったんだよ。その会話は今でも鮮明に覚えている。


「ハッキングはできそうかのう……?」


「ええ、問題なく。先生の洗脳能力のプログラムなど朝飯前ですよ」


「それは結構。しかし、ゲームクリエイターとしていいのかね? 血の滲むような思いで作ったゲームを政治利用しようというのじゃぞ?」


「ましてや、国民全員を先生の意のままに操るのですからね。クリエイターというよりも人間としても問題があるかもしれません。ですが、それでも私は実行します」


「……ほう?」


「先生の考えは正しい。私はおおいに賛同します。そして、天才ディレクターの奴の鼻も明かせる。断る理由があるでしょうか?」


「……そうか。それは愚問じゃったのう。では後は任せよう。……あのディレクターの始末ものう……」


 そんな物騒な会話を聞いてしまったわけだが、そこで放心するほど俺様は間抜けじゃねえ。


 俺様は作戦タテル。つまらねえドジを踏む事も無けりゃ誰かの踏み台にもならねえ、なんてったって天才だからな。


「舐めやがって……俺様のゲームで、世界で、何を考えてやがんだ……?」


 その計画の詳細は簡単に知る事ができた。俺様は天才だ。他者のパソコンなりに侵入するのは造作もねえ。


 まあ政治家相手にハッキングなんてのは難易度以前に命に関わるから二度とごめんだがな。


 それで情報は嘘みたいに簡単に手に入ったんだが内容が信じられないものだった。新作ゲームの企画書と言われた方がまだ説得力があったな。


「各プレイヤーのゲーム内での記憶をゲーム上に保存させる。そして時期を見て、まとめて放出。その膨大な情報量で脳をクラッシュさせて洗脳状態を作り出す、だと……?」


 理屈は分かる。例えてみればダムに近い。何百時間ものプレイ記録、それをまとめて脳に送り込まれれば当然処理なんざ追いつかねえ。廃人にする事だって容易いだろうな。


「クッソ、人体実験の結果まであるのかよ……」


 そこには洗脳の度合いだけじゃなくVR空間による自衛隊の身体能力向上記録までもが存在した。


 ――決定的だったな。


 洗脳して全国民を自分の手足にする。しかもその気になれば優秀な兵士を量産し、侵略戦争まで可能ときたもんだ。


「……この現実を知っていて、かつそれを受け入れられない人間は俺様だけだな。今のところは」


 こちらは単身、相手は巨大権力という対立構造。無茶ではあるが、面白い。ああ、この面白さが分かるのは《晦冥》くらいか?


 とにかく、つまらねえ事に利用されたくはない。かと言って開発を中止するのは俺様のプライドが許さない。


 だから天才の俺様は両方を叶えるために動き出したってわけだ。


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