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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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灰の翁

 俺達は星野を倒した。星野もそれを認め、誰もその結果について口出しをする者はいない。


 しかしまだ終わってはいない。武将だって敗北した先には大抵は討ち死にか切腹が待っている。


 別に俺達は武将を気取るつもりもないし、それはゲームのジャンルが違う気がする。それでも何かのために武力でもって戦うというのはどこか似ている気もするが。


 だからというわけではないが、けじめとしてトドメは刺さなくてはならない。そしてその役目はツグミが請け負った。


 《黒百合》で首を掻き切ろうとする。それはまさしく斬り捨てるように。


「まだじゃ。まだトドメは刺さないでいただきたいのう……」


 が、それは見えない声によって止められる。


 トドメを刺せと言ってきたそれとは全く違う別の声。


「誰だか知らないが僕達の戦いはもう終わったんだ……。割り込みは止めてくれないか」


「割り込みじゃと? これは面白い事を言う。儂からすれば今この瞬間が始まりじゃというのにのう……」


 しわがれた声には無視をさせないだけの年季が込められていた。星野のオーラとは全く別物の威圧感に押されながら俺達は黙り込むほかなかった。


 そんな脈絡のないような声だが、俺はそんな現象を実際に体験した事がある。返答したのはその体験を提供した張本人だった。


「始まりかよ。もう死ぬだけで終わりしかねえジジイがよく言うぜ」


「相変わらずの減らず口じゃが、終わっているのはそちらじゃろうて。儂に牙を奪われた支配者よ……」


 頭上でひたすら音の波だけが飛び交う。表情も身振りも分からないが、若い声は暖簾に腕押しだというように受け流されているような印象を受ける。


「そう言えばまだ名乗って無かったのう。(はい)(おきな)、とでも呼んでもらおうかのう。儂が何なのかは大方察しがついておろう?」


「どうせ新しいGMだろ。なんでもいいけど無関係な人は邪魔なんだよな」


 タテルの話を考えればそれが妥当な答えとなる。予想はつくからそこには驚かない。かなり年をとっていたのは例外だが。


「無関係? いやいや、関係大有りじゃよ。なぜならそこの星野君を是非とも我が同胞として迎え入れたいんじゃからのう」


 視線が一斉に星野に向けられる。当の星野は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして硬直している。


「そのためにはお主らではなく、この儂が倒す必要があるんじゃよ。そう、洗脳するためにはのう……!」


 ――洗脳。その言葉に反射的に構えを取る俺。ユウハやツグミもそれに同調する。


 直後、そんな言葉と共に男は大地に降り立った。声音とのイメージが合致するご老体。握られた木製の曲がった杖、そして伸びた白髪や細い目は仙人を思わせるような風格を彼に与えている。


「ああ、そうかよ。けどな、老いぼれ1人で乗り込むなんざ無謀もいいとこだ。ボケたかよジジイ?」


 ゆっくりと星野に近づこうとする翁の足を、暴言を飛ばして停止させるタテル。


「それは面白い冗談じゃな。儂ら老人は若い力に支えられて生きておる。それは現実でもこの世界でも変わりはせんよ……」


 そう言って携えた杖で地面を一度、コンと突く。簡素な動作だったがその効果は凶悪なものだった。


「何なの……この人数……?」


「いくら先輩達でもこれは流石に…………」


 それはモーセが民を率いて逃げてきたかのようだった。灰の翁の背後にはいつのまにか老若男女、あらゆるプレイヤーが集結している。


「しかもまだ増えてるとか気持ち悪いな……」


「《晦冥》や《光芒》、お主らの活躍は儂も楽しませてもらったよ。ところで、なぜ自分達に匹敵するようなプレイヤーが出てこなかったのか、それを考えた事はないかのう?」


「あ…………」


 そう言われれば妙だ。いくら特権が戦闘を有利にするものだと言っても本気で頭を捻って俺達を攻略しようと考える奴がいてもおかしくはなかった。


 そんな奴らに日夜追われ続ける事があっても冷静に考えればありえた日常だ。ましてやゲームの世界には一定数、現実をかなぐり捨てた廃人が跋扈しているはずだ。


 現状、国から提供されるゲームがL&Dしかないという事は言い換えればあらゆるゲームの廃人が集うという事だ。


 そういえばこれまでに名のある廃プレイヤーの噂を聞いた事があったか?


 いや、それ以前に、なぜ星野や暗夜のグループへの対抗勢力が1つも存在しなかった?


「つまり、背後の奴らはアンタが洗脳した廃人軍団ってわけか……!」


「わざわざ僕らを後回しにしたのはどういうつもりだい? いつでも洗脳てきるとでも考えていたのかい?」


「……なまじ特権なぞ持っておると洗脳にかかりにくいようでのう。《晦冥》のように能力を広められても困るからのう。準備が整うまではこの通り放置よ……。全く、GMの能力すらも制限をかけるとは度し難いシステムよ……」


 実際はそれすらも楽しむようにからからと笑っていた。戦いを高め合いのように捉えて楽しんでいた星野とはまた違う笑みだ。


「何人従えてるのか知らないけど、とにかくGMを倒せば洗脳は解けるんじゃないかな? ……アラタっ!」


「任せろ……!」


 星野の首に当てていた《黒百合》が灰の翁に向けられ、刃に込められた魔力を彼の元へと放つ。


 それに続いて俺も《月光》を同調させる。《闇》の濃度はトップクラスの不意打ちだった。


 しかし単純な算数を思い出してみるといい。100%の力を持つ2人でも10%の力を持つ20人が現れれば互角の戦いを強いられる。


 一騎当千と讃えられる英雄だって1万人に襲われればどうなるかは分からないのだ。


「……迎撃じゃ」


 灰の翁の背後がモノクロに光る。オセロのように白や黒がコロコロと変わる中、《月光》や《陽光》がこちらへと向かってくるのが感じられる。


「ヤベエぞお前ら! 脇道でやり過ごせッ!」


 いつになく焦りと驚愕を見せてタテルが絶叫する。だがこちらも初心者ゲーマーではない。既に回避行動は取っている。


「防御というよりは攻撃だろ、これ……!」


「もう少し動くのが遅かったらアウトだったね……」


 が、それでもすんでのところで回避できたというのが正直なところだ。


 灰の翁の命令通り迎撃に徹したせいなのか直線上にしか技が飛んでこなかったというのも無事に切り抜けられた要因だろう。


「儂らの仲間に星野君も加わってくれると心強いんじゃが……どうじゃろうか?」


「……洗脳されるのと仲間になるのは大違いだ。丁重にお断りさせてもらうよ」


「対抗策もなしにそんな事を言うとはの。《光芒》と言えどもまだまだ若いのう……。ならばそちらの《晦冥》御一行はどうじゃ? 胡散臭いそっちのGMに利用されるのは嫌じゃろう?」


「そっちだって滅茶苦茶胡散臭いっての。それに……俺の答えぐらい分かってんだろ」


「そうじゃのう、想像通りの答えじゃわい。しかしこうなると弱ったのう……」


 弱った様子など微塵も見せず、いっそ白々しいまでの口ぶりで彼は言う。


「――お主らを洗脳せねばならぬ」


「チッ、どうせハナからそのつもりだっただろうが!」


「初めから僕達全員を狙ってたみるべきか! まさかここまで用意周到とはね……!」


 星野が睨むその先、いやその先だけではない。俺達が身を隠した細い路地の反対側には既に洗脳されたプレイヤーが逃走経路を塗り潰している。


「先輩、上……!」


「っ! 《夜叉》!」


 それでもなお余りある過剰戦力。それは上空からの奇襲部隊を割り当ててもなお底を見せないから恐ろしい。


「翁様のために…………!」


「俺が《闇》の撃ち合いで押されるなんて……!」


「私達、もう魔力も残ってないのに!」


 マスクで顔を隠した忍者のような奇襲部隊。それぞれが個別に対処しようとするも傷1つない相手に満身創痍のこちら側。策があろうとなかろうと勝敗は明白だった。


「どうする……? GMさんの力を借りてどうにかできるかな、これ……」


「暗夜から逃げ出した時と規模が比べ物にならないんだよな。いくらタテルでもこれは……」


 気がつくと先程の大通りへと押し出され、四方八方を囲まれている。なおも俺達を取り巻く人の輪はじわじわと小さくなり、焦燥感をも駆り立てる。


「儂は暗夜君から逃れた《晦冥》君のデータも受け取っておるからのう。同じ轍は踏まんよ……」


「クソ! お前ら、何でもいい! とにかくそこを抜け出せ! お前らはここで失っていい駒じゃねえんだよ!」


「でも攻撃が通らないんだよね……! 突破口が見当たらないよ!」


 なけなしの魔力で《月光》や《陽光》を放つもことごとくが打ち消される。そのまま無言で迫り来る翁の兵士には凄みも感じられ、徐々に抵抗する気を萎えさせていくようだ。


 適正レベル以上の主人公に倒されるモンスターはこんな気分になるのか、と思いしらされたその矢先だった。


「……君達はこの僕を打ち倒した。その報酬をまだ渡していなかったね」


「アンタ、何言って――」


 そんな場違いな事を言い出した星野は俺の言葉も聞かずに立ち上がる。


「はあああああああああっ!」


 その手には《皆輝剣》。再び《白都》の空を闇に塗り替え、その剣は咆哮を上げた。


「ほう、まだ使えたとはのう……」


「周囲の光なら……僕の魔力が無くても操れる、からね……。さあ走るんだ! ここは僕が引き受けよう!」


 星野が一閃した先は地面が割れ、集まっていた灰の翁の仲間が倒れ伏している。


「えっと……」


 俺がその状況を飲み込めずおたおたしているとさらに星野は俺に叫ぶ。


「君は何回も挑んで僕を倒した! その執念ならあの彼だって倒せるはずさ! このまま洗脳行為が横行するなんて僕は許せない! 頼む、僕の代わりに彼を討ってくれ! そのための時間稼ぎなら喜んでやろう!」


「ああ、そうだな。自分の使い方をよく分かってんじゃねえか。《晦冥》、今だけはこいつに感謝しろ。この行為だけは無駄にしてやるな」


「アラタ……!」


「先輩……!」


 2人に向かって頷きながら行動を決める。それにしても本当に最後まで正義の味方を貫くよな、こいつは。


「……分かった。言う通りにあの爺さんを倒してくる。……それと1つだけ文句がある」


「……なんだい?」


「お前を倒したのは俺じゃなくて俺達だから。そこは勘違いするなっての」


「そうか……うん、そうだな……。悪かったよ」


 そのまま踵を返して走り出す。庇われたからといっていい奴だった、なんて評価を下す気にはなれないけど、感謝くらいはしておこうと思う。口には絶対出す気は無いが。


 俺達が走り出し達のを見届けて、なおも果敢に立ち向かう星野。時節背中に漏れた閃光が飛び散っているのを感じ取る。


 それはもしかしたら俺達へのエールなのかもしれなかった。


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