眩い光を打ち払え 前編
「さあ、かかってくるといいさ!」
《皆輝剣》を地面に突き立て叫ぶ星野。その様子は自らの国を守ろうと立ち上がった騎士のようだ。
そう思うのも詮無い事かもしれない。ここは《白都》。俺みたいな邪な考えで動く人間は決して住み着けない清廉な都市。そこのトップとして鋭い眼光を俺達に向けているのだから。
さらに星野は暗夜を退けている。つまり実質的にあいつの立場は攻める側ではなく守り通す側なのだ。
「ゲームでそんな事言っちゃったら死亡フラグになると思うんだよね!」
刀を振りながらツグミが走る。魔力を帯びた日本刀がその片鱗を周囲に散らす。
「そんな斬撃じゃ僕に傷はつけられないさ!」
まるでリズムゲームか何かのように飛来するタイミングに合わせて無効化される。《光芒》の前には《黄昏》の《闇》すら霞んでしまうのか。
一撃を入れれば確かに大きなダメージにはなり得る。それは以前にツグミが証明してみせた。
しかし今はその一撃が遙か彼方だ。相手だってそんじょそこらのボスとは違う。学習だってすればレベルだって上がるのだ。
「だったらこれならどうかな!」
自らが飛ばした斬撃の後ろにぴたりと張り付きながら星野の懐へと食い込もうとするツグミ。
《皆輝剣》で斬撃を弾く瞬間。日本刀を滑らせ首を掻き切ろうとするツグミ。
速攻で深手を負わせる、あわよくばそのまま終わらせる。強欲を地で行く攻め方だがそれくらい激しくないと星野は倒せないのかもしれない。
――もっとも、そんな単純な方法に倒れるほど甘くはないのだが。
「僕だって素直に剣だけで戦うと思わない事だ! ――《聖者の光進》!」
星野の叫びに呼応するように《皆輝剣》が白く光り、剣から周囲に向かって輝く衝撃波が飛んでくる。
「ちょっと……!」
「ツグ――うわっ!?」
「せんぱ――」
そうしてツグミ、俺、ユウハの順にまとめて吹き飛ばされる。その衝撃を耐えられた者は誰も居なかった。
ユウハはそのまま地面に、俺とツグミは壁に打ち付けられて一気に攻守が逆転する。
「思った通り、君達には効果てきめんみたいだ」
《皆輝剣》を再び地面に突き立てながら満足げに語る星野。あいつも俺達のように新たな能力を身につけていたという事か。
「《聖者の光進》は相手の《闇》の配分が大きければ大きいほど性能の上がる全体技さ。こんな場合にはうってつけだと思わないかい?」
「自慢する割にはあまり強くはないみたいだけどね……」
「威力ではなく、ノックバックに重きを置いているからさ。非常時に立て直すための技さ」
少し得意げな星野の鼻っ柱を折ろうとツグミが口を挟むも、それは折れるどころかビクともしない。
「面白みのない技を作りやがって……」
「皆を守れるんだ。僕は能力にそれ以上は求めないよ」
「そうかよ……!」
本当に面白くない、厄介な能力だ。なるたけシンプルにする事で習得できる能力の容量ギリギリに抑え込んだのだと思うとさらに腹が立つ。
嫌いな相手が強くなる事を凄いと思う事も、俺も負けないようにしないと、と捉えたりする事も器の小さな陰キャ人間には不可能だ。
「ユウちゃん! 2人で止めるよ!」
「はい……!」
一瞬ツグミがこっちを見たのはさっさと星野を倒す策を出せという事か。人の心を読むのは人並み以上にできないが、きっとそうだろうと心の中で断言して俺も走り出す。
「《晦冥》がいなくてもいいのかい?」
「受け止めるだけなら私もできるよ!」
――きっと《光》を100%に変えて応戦してるのだろう。星野の能力は基本的に《闇》を打倒する事に特化している。それは《光》を使うプレイヤーと戦う事にはならないと考えていたからか。
なんにせよ、《光芒》の星野がツグミの弱点を突くなんて真似はできない。まして、ユウハの《流麗模倣》の妨害を処理しつつだ。これは星野だろうが暗夜だろうがどうにもできないはず。
その間に星野の視界から外れ、建物の壁を登っていく。位置取りは聞こえてくる声から予想して、星野の背後になるように。
「準備はいいか《晦冥》?」
返事をするのは一度大きく深呼吸をしてからだ。
「……俺は大丈夫。ただ……あっちが思い通りに動いてくれるか……」
「ああ、心配性もここまで来ると病気だな。だがまあ上手くいくさ。俺様の読みは外れねえ」
そう断言されては反論も何も意味を成さない。他に案を出せるかというとそれも無理だ。
消極的な理由ばかりが乱立するが、推進力にならないと言えば嘘になる。ポジティブでもネガティブでも、最終的に動けばいい。文句は言わせない。
「いくぞ……溜めの……《月光》!」
それは星野には聞こえない、無音の奇襲だった。
「なっ、これは……!?」
戸惑いはするが《陽光》を駆使してツグミ達に応戦し、同時に《皆輝剣》でそれを抑え込めるあたり、やはり一筋縄ではいかない。
溜め技を片手で握った《皆輝剣》で拮抗させるのは抗議したくなるような光景だが予想していなかったわけではない。
むしろ、こうなるよなあ……とか思いながら次の一手を打ってこその《晦冥》だ。ネガティブ思考で最悪の事態しか想定できないのはもはやパッシブスキルと言えよう。
「まだだ……!」
黒い鉄骨のような《月光》を星野に向けてさらに押し込むべく、俺は空を舞う。携えたのは《蝶舞剣》ではなく黒い槍。
飛び降りた衝撃をも組み合わせて力技で星野を圧死させんと試みる。詳しいダメージ計算は分からないが勢いがついている分、俺に補正が入っているはず。
そしてそのまま押し切れれば《光》が100%の星野なら確殺できる。そう踏んでいた。
だが、ここでまたしても俺は星野の対応力をまざまざと見せられる事になってしまう。
「それなら……こう動かせてもらおう!」
側面から急に展開される白の魔法陣。俺の妨害をするなら遠隔攻撃しかないだろうからそれも予想の範疇ではあった。
ただ1つ、その威力を除いて。
「……こうかな?」
「――!?」
強力とはいえ本質的には《陽光》も基本技の域を出ない。ならば《夜叉》で迎え撃てると思っていた。
そんな慢心を打ち砕くかのような《光》。それは受けた事がなくとも何度も何度も喰らわせたあのテクニックそのものだった。
その威力に押し負けるも《夜叉》でコピーした石版を利用してツグミやユウハの近くに倒れるよう調整する。
驚愕で満たされた俺の脳みそではこれくらいが関の山だった。
「お前も……溜めを知ってたのかよ……!?」
ポーションを飲みながら頭の中で理屈を組み立てていく。
タテルの話し方では知っている奴はいないとでも言うみたいだった。それにもしも星野が知っていたのならそう告げるはずだ。これはどういう――
「うん? 知ったのはたった今さ。君の《月光》を受けた時にただならない威力を感じてね。どうすればそんな真似ができるのか考えた結果がこれさ」
「簡単に言ってくれるな……」
「昔から何でもできたけどこれは酷いね……」
溜め技も本来はユーザーが偶然発見するだろうと考えて作られたシステムだと思う。
そう考えると誰が発見、習得してもそれはおかしいとはならない。誰でも分かる理屈だ。納得できるかは別として。
とにかく今は感情的に何かを言っている場合ではない。次の行動を何か起こさないと――。
「もう手札は使い切ったんじゃないか? ……これで終わらせよう――《皆輝剣》!!」
声高に、堂々と。
空に掲げられたその刀身が輝き出す。他人の《光》の魔力を受け取り、自身を強化する《皆輝剣》の代名詞とも言える能力。
――ここまではそれを使わずに立ち回って見せたというのか。
「先輩……!」
「2人とも構えて! とにかく防ぎきるよ!」
「いや……防ぐのは無理だ……」
剣に乗せた幾人もの魔力。その荒波は1人では乗り越える事は不可能だ。
では3人ならば?
答えは変わらない。たとえ文殊の知恵を得たとしても筋力は1ミリたりとも上がっていない。
「……だから先手を打つ! とにかく総攻撃!」
「なんで…………もう、しょうがないね! ユウちゃん!」
「は、はい!」
俺の言動を意味不明だと訝しみつつもなんだかんだで合わせてくれる2人。
信頼されているのかはよく分からないがなんとも言えない嬉しさのような感情を抱く。コミュ力とか無いから上手く説明はできないが。
実際今の説明で、よく分かった! とか言っちゃう方がヤバいとは思う。ただ、この場にいるプレイヤーの中で俺だけが握っている情報がある。それを組み合わせれば――!
「「「!?」」」
星野、ツグミ、ユウハの驚愕が合唱のように重なった。その指揮を取ったのはもちろん俺だ。
「君は……僕に一体、何をしたんだい……?」
「溜め技まで推理できたんだろ? ……まさか分からないとか言わないよな?」
そこには《蝶舞剣》と《白百合》が《皆輝剣》を星野の手元へと押し返す光景が広がっていた――。




