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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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ツグミが断つべき執着の鎖 後編

「そうは言っても防戦一方なんですよねえ! ツグミさん!!」


 啖呵を切ったはいいものの、悔しいけどその通りだ。


 でもそれは私は攻撃ができないという意味にはならない。だって、反撃の機会を伺っていただけだから。


「だったら……!」


 飛んでくる《陽光》を100%の《闇》で作り出した刀、《黒百合》で弾き飛ばす。


 さっきは不意を突かれたものの、落ち着けば対処できないものでもないみたい。


 この技は範囲が広い分、威力が落ちていると思う。命中を優先して威力を捨てたトレードオフの関係がそこにはあるはず。


 つまり私の刀でこのカーテンを斬りつければ、


「突破くらいはできるから!」


 斬り裂いた側からダッシュでサクシへと迫る。それと同時に《黒百合》を振り抜き、切っ先が私の背後をピンと指す。


 今度は跳躍。イメージは最高点からサクシを叩きつけるような感じで。そして後ろを向いた切っ先を半円を描きながら目標へと迫らせる。


「なるほど! ツグミさんの《闇》は確かに恐ろしいですねえ!」


 そんなレビューと共に剣閃から身をずらされる。紙一重のように躱したのは手痛いカウンターを浴びせるつもりなのかもしれない。でも、


「これだけじゃないよ!」


 避けられた《黒百合》を振り下ろす腕は止めず、刀身の半分以上をそのまま地面に突き立てる。


「はあっ!」


 そのまま手を捻って方向を変える。伸ばした足は狙い通りサクシの腹部へと吸い込まれていく。


「蹴りですとお!?」


「まだあるよっ!」


 目標を蹴り飛ばし水平に動く足を垂直に運ぶ。その着地の姿勢につられて私の腕と《黒百合》は頭上を通って再び半円を描く。


 その動きからさらに攻撃に派生させる。蹴りにより動きの鈍った相手にかける追い討ちには高速の斬撃が適している。


「やああああっ!」


「んぶっ……!」


 蹴りの飛距離を斬撃による追撃でさらに伸ばす。コンボ技として悪くない出来だと心の中で自画自賛する。


「いける……!」


「甘いですねえ!!」


 《光》が迸る。さっきのカーテンのように包み込むような《光》ではなく、虫眼鏡によって作り出されるような細い、一点集中の《光》だった。


「これくらいなら!」


 《黒百合》の刃に手を添えて真っ向から受け止める。


 速度は格段に上がっているかもしれないけれど、私だって《黄昏》の特権を持っている。そう簡単に直撃はしない。


「このくらい……? ツグミさんは全然ボクも、能力の事も分かってないですねえ!!」


「嘘でしょ……!」


 刀身で受け止めた《光》は私の《闇》で打ち消されはしなかった。刀身に当たって跳ね返り、さらに近くの壁で反射して、を繰り返す。


「痛っ……!」


 反射する《光》は狙ったように私の死角から貫いてくる。貫かれた先からじわじわと痛みが広がるような感覚に襲われる。


「ツグミさんの斬撃も悪くはないですが正直過ぎるんですよねえ。やはり遠距離攻撃はこんな風に撃たないとですよねえ!」


 その言葉と共に明後日の方向へと首を振り始めるサクシ。


 何条もの《光》がそこかしこを飛び回り、最終的には私に収束する。


「ああっ…………!」


 一方向だけならなんとか対応できたかもしれない。けれども変幻自在の軌道で、多方面から飛んでくるとなったら躱すのは不可能だった。


 悔しいけれど遠距離攻撃ではあちらの方が慣れているって認めないといけない。


「それなら……どうすればいいのかな……?」


 まともに躱すのが難しいと分かった今、考えるべきはどうにかして無効化する方法、もしくは致命的ダメージを与える方法だ。


 きっと力押しじゃない何か……突破口が存在するはず。だって、攻略法のないゲームはゲームなんかじゃないんだから。


 とくればそれを見つけないとね。そう切り替えて走り出す。《燗反射》の被ダメージを抑えながら対策を考えられるように。


「おや、走って逃げるとは! 原始的で知的じゃありませんよねえ!」


 飛んでくる煽りには一切反応せず、自己との対話に没入する。


 ……まず私の能力。属性配分を変えたとしてもできるのはトドメをさす事くらい。現状の打開としてはあまり頼りにはできなそう。


 ……じゃあ《翼》ならどうかな? あれならきっと《燗反射》を躱せるし、そのままカウンターだって狙えそう。


 でも、あれは兄さんへの切り札。少しでも見られれば兄さんなら即座に看破してくる可能性がある。


 ……だから使うとしても最後の最後。本当にどうしようもなくなった時にすべきだよね。


 じゃあ何をどうすべき? 自分の能力にはあまり頼れないとなると……。


「……活かすならこの場所だね」


 走りながらさっきのサクシのように周囲を眺める。噴水、コンクリートでできた建物の壁、窓ガラス、投げ捨てられたポーションの瓶。


 ……如何せん、《光》を反射させるものが多いね。斬撃で粉々にしてもそれこそ反射のパターンが増えるだけだし……。


 反射、反射……あれ? もしかして……!


「そこですよねえ!!」


「っ!」


 走る私の進路を予測した《闇》が再び足を撃ち抜いて動きを止めにかかる。体のバランスを崩した私はそのまま中央の噴水に全身で飛び込んでしまう。


「ふふふ、ここまで頑張りましたねえ!」


 そう勝利宣言するサクシは私の両足の上に馬乗りになり、野生動物のように捕食の体勢にはいったかのようだった。


「……気持ち悪いよ」


「まあまあそんな事言わなくてもいいじゃあないですかねえ!」


 流れ落ちる噴水を浴びてサクシの顔はグニャグニャに見える。その水のベールの先には想像したくもないしできないような顔が待っている事だろう。


「これでボクの勝ちですかねえ。あんな《晦冥》じゃなく、ボクと仲良くすれば良いのに。分からない人ですよねえ!」


「分かんなくても良いよ、別に。君の事が嫌いって言っても聞いてくれなさそうだしね」


「なぜボクと組めないのか、疑問は解決しませんが……仕方ないですねえ! 貴女を倒して《晦冥》も倒す! ボクが強いと証明して貴女から組みたいと言い出すように仕向けましょうかねえ!」


「……ふふっ」


「何がおかしいんですかねえ!?」


「いやだってさ……サクシって名乗るわりには単純なやり方だなって思って」


 わざわざ私に固執しなくても《白都》を奪還する方法は探せばあるんじょないかなと思う。


 それに士気の高い味方もいるんだし、彼らを頼った方が信用もおける気がするんだよね。私みたいに裏切らないだろうし。


「……うん、やっぱり策士だなんて称号は似合わないと思うよ?」


「調子に乗りすぎですよねえ!! いくらツグミさんでもそれは聞き捨てならないですよ!!」


 声量が一段と増す。垂直に広がる水面の奥で、丸くて大きな瞳が黒く染まる。


 私の足は動かない。動けない。だからその黒い閃光を見つめるだけ。


「すぐに終わりますよ! 苦しくもないですからねえ!! 《裏・燗反射》ァッ!」


 動かない。動けない。


 ――でも大丈夫。動かなくたって、私は負けないはず。きっとね。


「ガッ……ガフぁっ!?」


 放たれた《闇》は私には届かずサクシの体へと反転する。私と彼の眼鏡は短い距離しかない。撃ち抜かれれば大ダメージは必至。


 けれども彼本体と彼の眼鏡。こちらの方がより至近距離にある。ならば跳ね返ればどれだけ大きなダメージが出るのか、想像は簡単にできる。


「そ……そんなはずはないですよねえ!? どうして……どうしてツグミさんに当たらず、このボクに跳ね返るんですかねえ!?」


「全反射って聞いた事はない?」


 ここからは私の種明かしタイム。何が起きたかじっくりと説明しないとね。


「水とかガラスに光を当てると空気中に光が反射できないってやつだよ。多彩な色の噴水のイルミネーションとかあるでしょ?ああいうのに使われてるらしいよ」


 私はリア充みたいなのが多そうなイルミネーションとかは遠慮したいけれどね。


「で、私は考えたんだよ。もし噴水を浴びたまま、《陽光》や《月光》とはちょっと違うその《燗反射》を撃たせれは似たような状況を起こせるんじゃないかってね」


 反射するという特性は私達の基本技にはなかった。そもそも自力で曲げればいいだけの話だし。


 つまり《燗反射》の特性は普通の光のように反射させて軌道を読ませなくする能力という事。


 サクシ本人は反射の計算でもして帳尻を合わせてたのかもしれないけれど、そこは今となってはたいした問題にはならないかな。


「け、けれど……! 全反射の条件は正確には満たせていないと思うんですよねえ!」


 異議ありと高らかに叫びながらサクシが異論を唱えてくる。


「水中を通る光が水中から出られない。だから流れ落ちる水に《裏・燗反射》が閉じ込められてボクを襲った。これはしてやられたと思いますよお! ですが! ですが納得できないんですよねえッッ!!」


 手を大きく振りかざし役者のように大仰な動きで不平不満を表現しているかのような立ち振る舞い。


 私から見れば探偵が推理で追い詰めるラストのシーンのようだった。


「《裏・燗反射》を使った時! 正確にはボクと水の間には隙間があったはずですよねえ! それに厳密な条件を全て満たしているとは考えられないですよねえ!!」


 私の理論の穴を次々と見つけてはほじくり返そうとしてくるサクシ。確かに光の入る角度がどうこうって問題もあった気がする。


 でも、そんな理屈で倒せるのは卒業研究を行なっている大学生であってゲーマーじゃない。むしろゲーマーだからこそそんな理屈では倒せない。


「私もそんなに頭がいいわけじゃないからね。理屈で考えれば失敗すると思ったよ。でも実際には華麗に成功したよね。なんでか分かる?」


 理屈の上では不可能とは言うものの実験は成功した。それを身をもって証明してしまったサクシは無言のまま私に続きを促してくる。


「簡単だよ。()()()()()()()()()()()()。もしもGMが全反射の理屈じゃなく性質に可能性を見出していたらどうする?」


 例えば。銃のような能力を持っていないプレイヤーが水鉄砲を持参して基本技を流したら? 即興の銃火器能力が作れないかな?


 水中戦で、水面に基本技なりを発射した時に、全反射で基本技をあらゆる方向に反射できれば?


 こんな風にゲームとして盛り上がる要素になり得るのならば進んで取り入れる気がするんだよね、ここのGMは。


「それでさ、余計な理屈が入ってたら使えるものも使えなくなっちゃう。じゃあどうすればいいかな?」


「……前提条件は考慮せず、その性質だけを採用したとでも……?」


「大正解。ふふ、上手くいって良かったよ。ギャンブル要素が強かったからね、これ」


「いや、中々いい判断だったぜ。やるじゃねえか《黄昏》。そこの眼鏡よりも策士の名が似合うぜ」


「そうかな? ありがと」


「そ、そんな……デタラメな方法で負けるなんて許せないですよねえ!!」


 自らの名前、アイデンティティを否定されたからか激昂しながら反撃に出ようとするサクシ。


 本当の策士ならこういう時にこそ策を練るものじゃないのかな。


「遅いよ!」


 なんにせよ破れかぶれな方法でやられるほど私は間の抜けた子じゃない。


 眼鏡のレンズとレンズを繋ぐ、ブリッジという部分を《黒百合》で掬い上げて眼鏡をそのまま遠くへと放り投げる。


「ああっ!」


「あれが無いと《燗反射》は使えないんじゃないかな……!」


 返す刀で一閃二閃三閃と攻撃を重ねていく。どこを斬れば動きが止まって、どこを狙えば一番ダメージが大きくなるのか、それが直感的に分かるような全能感と共に《黒百合》を振るう。


「ああ……がっ……! そんな! そんな !認めないですよねえ! こんなのってええ!」


「君の言い分は聞かないよ!」


 《黒百合》を水平に構えて一息に押し出す。一点集中の突きを受けてサクシの体はムーンウォークのように後ずさる。


 そうしてできた距離を埋めるように走り込んで、最後の一撃のために《黒百合》を鞘に戻す。


「これで……私の勝ちだよ!!」


 助走は充分。その勢いをしっかり乗せて強く踏み込む。柄を握る。力は不必要に込めないように優しく。


 そして抜き放つ。ここまでの動作が保証してくれる最高の威力でもって彼を一刀に伏せる。


ゲーム(ここ)を現実世界と同じように考えてる時点で私には勝てないよ!」


「ああああぁぁぁ…………」


 完全にHPがなくなり、敗北者の証である光に包まれていく陽キャのプレイヤー。


 ……多分こんな嫌な人だとしても現実世界では私よりも楽しく過ごしてたんだと思う。


 なんだかんだで上手く馴染めたり、周りから歓迎されているのかもしれない。違う人種の私には理解できないけれど。


 その経験を活かして《白都》の人は強くなった。純粋に人間力で私達よりリードできるからね。


 だからといってこの世界で最強かと言うとそうではない。だってそもそもの土俵が違うから。


 少なからず彼らもゲームをしていると言っても私達とはその濃度が違う。そのため私達ゲーマーの思考についていけずに彼は敗北を喫した。


 ……もしかして兄さんにもそんなつけ入る隙があったりするのかな? アラタが狙っているのはそんな謎の隙なのかな?


 そう考える私に突如として女の人が突進してくる。そうは言っても女の人が意思を持って突進してきたわけではなさそうだけど。


「何よ! こんな力を隠してたなんて反則じゃない……!」


 飛んできた方向には拳を突き出すユウちゃんの姿があった。


「私は……足手まといになるわけには、いかないので……!」


 《流麗舞踏》を使っているんだろうけれど、やはり別人のような戦いぶりだった。


「やっ……と!」


 飛んでくる女の人にすかさず《黒百合》を突き立てる。流血やグロテスクな表現は採用されていないのであまり気にせず攻撃する。


「ナイス、ユウちゃん!」


「当然です!」


 ハイタッチを交わす私達を邪魔しようとするプレイヤーは1人もいない。いるのは純粋な《光》と《闇》をぶつけ合うプレイヤーだけ。


「以前より強くなったっていうのは本当らしいな! PKの件もあるし遠慮はしないぞ!」


「くそっ! まだそんなの覚えてんのかよ! 時効だろそんなの……!」


「1か月も経ってないんだ。処罰しても何の問題も無いだろう?」


「ああ、喜び合うのもいいがそろそろ《晦冥》を手伝ってやれ。思いの外耐えちゃいるが、いつまで保つかは分かんねえからな」


 フレンドの救援要請みたいな事をアラタがGMと呼ぶそれに告げられる。あの人工知能とは似ても似つかない口調だけれどアラタが言うなら今は信じるしかない。


「じゃあユウちゃん、行くよ! 私とアラタのラスボスを倒しに!」


「つまりあの人を倒せば2人は結ばれるんですね! おおー! 俄然燃えてきましたよー!」


 人数差は3対1。いや、4対1かな? いずれにしても陽キャの皆で勝つ理論は封じた形になる。


 加えて私達には以前よりもしっかりした連携という武器も持っている。


 ――これなら今度こそは。


 そんな確信を胸に抱いて新たな戦いの場に身を投じる。


 《白都》陣営との、そして私の仇敵との雌雄を決するために。

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