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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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踊る大逃走劇

 ユウちゃんの手を引いて出鱈目に路地から路地へ、時には道路を突っ切って逃走は続く。途中でいろんな障害物に出会いながら。


「オメエらが暗夜さんの言ってた女か! 中々悪かねー見た目をしてんじゃねーか! ちょっと大人しくしてくれれば悪いようにはしな」


「邪魔しないで」


 うるさく動く喉に《白百合》を突き立て、そこから流れるように体を切り裂いていく。


 VRだけあってリアルな重さを刀は感じさせない。だからこそ達人でもない私でもこんな真似ができる。


「あの……ツグミ先輩、これってどういう……? 何で……?」


 人の気配が消えたあたりでユウちゃんが抽象的な問いかけをしてくる。国語の授業なら真っ赤に直されそうな質問文だけれど言いたい事はすぐ分かった。


「えっとね、これからアラタと合流しようと思うんだけど……ついてくるよね?」


 私から無理矢理連れ出したようなものだし聞くのが遅すぎる気はする。けれどもまあ、通過儀礼みたいなものだよね、と思いながら問いかける。


「それは……もちろん! 断る理由はないですよ!」


 逃げ出す前とはうってかわって声に張りが出たような気がする。こんな風に元気に話すユウちゃんも中々可愛いなあ、なんて思ったり。


「でも先輩。アラタ先輩がどこにいるか、とか分かるんですか?」


「うん。リアルで作戦も練ったからね。この後の動き方ももう決めてあって……」


「まさか! リアルで2人とも知り合いだったんですか!?」


 言葉を続けようとするも突如として跳ね上がったユウちゃんの声量には敵わない。


「L&Dを始めてから偶然知り合って……」


「その話! 詳しく! 聞いて! いいですよね!!」


「無事に合流できたらしてもいいよ」


 リアルで何したのって聞かれても作戦会議としか答えられないのは内緒だけどね。


「本当ですか! ……じゃあ私も頑張って絶対に合流しなきゃですね!」


 私よりも属性の変わり方が著しいのでは、なんて思う反面、頼もしくもあって何とも言葉に表しにくい。


 ただ、これまでのパーティみたいな雰囲気は戻ってきたような気がする。1人、大事なのが欠けているけれどね。


「あっ……先輩!」


 私よりも小さい体なのに、ユウちゃんは私を庇うように覆い被さってくる。手には拳銃を握り真っ直ぐに伸ばしながら。


 ダンダンと音を鳴らしながら握られた白い得物はその銃口を上下させる。それはこちらへと凶弾を飛ばした銃口と全く同じ運動をしてみせた。


「弾丸を残らず撃ち落とせるなんて、とんでもないガンマンもいたもんだ」


 現れたのは白い銃を手に持った青年。白い弾丸やその銃の色からなんとなく察しがつく。


「《白都》側の追っ手だね……」


「そういう事になるかな。君達には特に恨みも何もないんだけど、」


 嫌味を言うわけでもなく、必要以上に騒ぐでもなく。温厚に話を進めつつもそれでも、


「全員の勝利のために君達が必要なんだ。手荒な真似をしてでも連れて行かせてもらうよ」


 根っこはやはり《白都》という感じで揺るぎない信念を感じさせる。


 その決意でもって自分から暗夜に挑めばいいのに、とも思うけれども黙っておく。問答してもいい事なさそうだしね。


「他の追っ手が来る前に仕留めないと……」


 髪と刀を黒く染めて臨戦態勢に入る。そしていつものように斬撃を飛ばそうとするけれども、それを知っているかのように先手を打たれる。


「うっ……!」


「君の戦い方は知っているよ、弱点もね。刀を振り切らないと斬撃は飛ばせない。違うかな?」


 言いながら刀を振ってできた隙を狙って、針に糸を通すかのような精密さで弾丸を放り込んでくる。


 振り切るのをやめて刀身を回転させて射線に割り込ませる。そうすれば決して防げないわけじゃない。


 けれどもそれを防げば斬撃を放てない。……上手く私を封じ込めたと賞賛すべき場面かもしれない。


「人が集まるまでに移動したいのに……!」


「……なら、私が、やります……!」


「ちょっと!?」


 私の傍から滑るようにして前面に躍り出るユウちゃん。そちらへも弾丸は正確に飛んでいくけれども、それは《流麗模倣》で軽々と相殺させる。


 けれども駄目。それだけだと不十分。それはユウちゃんもしっかり理解してるはずなのに……!


「無論、君の事も知っているよ。他人の能力をそっくりそのままコピーできるんだろ?能力としては破格だけど自分から攻撃できない受け身のタイプだね」


「…………!」


 その言葉には何も返さずに猪突猛進を止めないユウちゃん。


 ならばと私に銃を向けたまま青年が構えるのが見えた。きっと自分に勝機しかない肉弾戦を受けて立つつもりなのだろう。


「――《流麗舞踏(レコードダンス)》」


 けれどもその小さな言葉は私の下馬評をあっという間に覆した。


「――えっ?」


 その驚きが青年のものだったか、それとも私のものだったかは分からない。そんな事は些末だと流せるような衝撃が私を襲った。


「私だって……先輩達と一緒に、前線に……出られるんです……!」


 私の瞳に映ったのは、高速で接近し殴打に蹴り、そして手でひっかくような動作を流れるように繰り出すユウちゃんの姿だった。


 その動きは《夜叉》の爪を纏って所狭しと暴れるアラタのようでいて――。


「がはっ……データと違うじゃないか……」


 気づくと青年は光に包まれて、負け惜しみを漏らしていた。つまりはユウちゃんのストレート勝ち。


「でも……どうやって? ……何で?」


「さっきの私と同じ事、言ってますよ」


 青年に向けての言葉とは違う、笑いながら流れるように言葉を紡いでいくユウちゃん。


 ウインクまでして、これまでで一番弾けたような笑顔を見せながらこう語った。


「先輩達をくっつけていちゃいちゃさせるためなら私、こんな風に一肌だって二肌だって脱げちゃうんですよ!」


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