《黄昏》の脱出
――午後10時過ぎ。L&Dが解放されてすぐの事だった。
「さあさあ! ボクらも戦うとしましょうかねえ!」
既に戦乱に乗じて《白都》に乗り込んでいた本隊は再び行動を開始した。
兄さんが正面に立ち、《闇》を無効化する。そこを残りのメンバーで攻撃する。捻りはないけど純粋に力押しで勝ててしまう戦法。
「あいつが《光芒》! 倒せば大手柄だぜお前ら!」
そんな中、突如背後から兄さんを狙う銃弾が飛来する。
矢面に立つスーパースターを狙いたくなるのは当然だけど、対策も一応立てられていると考えて欲しい。
「さあツグミさん! アナタの出番ですよお!」
「あっそ……」
一応こっちにいるだけではなくちゃんと動いて貢献もしないと何を言われるか分からない。だから不承不承ながらも私は動く。
「《白百合》」
白い日本刀を無造作に振るう。視界は私の射程圏内。だから、斬撃は飛ばせば当たる。
ましてや私だって特権がある。そう簡単に防がれるほど甘くはない。
「あぁっ……!」
「ガッ……!」
銃弾を容易く弾いてそのまま斬撃は胸を引き裂く。そんな体のいい盾役に甘んじてしばらく経つ。けれどもそれももうすぐ終わりなんだ。
「やはり星野さん、ツグミさん、ユウハさんの3人をメインにしてボクらが補助をする! 最高のパーティですよねえ!? これは!!」
士気を上げるためなのかそれとも本心なのかは分からないけれども口々に歓声が上がる。や、この人達は《光》が強いからきっと本心なんだろうなあ……。
私はそんな事は少しも思わないし、早いとこお暇しようと思うけれど中々タイミングが掴めない。
さっきの奇襲部隊みたいなのじゃなくて、本気でこちらを倒そうとするくらいの大規模な勢力が来てくれれば……と、そう思った時だった。
「性懲りも無く戻ってきやがって!《晦冥》のお友達まで引っ張ってくるたあ、なりふり構ってねえなあそっちもよォ!」
虚空へと弾丸を撃ち込み、否が応でもそちらへと振り向かされる。
果たしてそこにいたのは私が一度斬り伏せた相手だった。
「あの人、知ってる……」
「ハッ! 誰かと思えば俺を背後から殺った女じゃねえか。テメェもあの男みたいにやられに来たってか!」
あの男と言われて思い浮かぶのは1人しかいない。……アラタもこの人とぶつかったんだ。無事だといいな。
今にして思えば、そんなガラでもないのにヒーローぶって好き放題やって最後にまんまとやられる、なんて笑えない騒ぎを起こしたんだっけ。
一応の恩返しのつもりで助けた時はここまで関わる事になるなんて考えなかった。
「……まさか。私が返り討ちにするに決まってるでしょ」
「そうですよねえツグミさん! さあさあ! ではでは! その力、存分に発揮してくださいよお!」
やんややんやと囃し立ててくるけれどそれには応じられない。
「悪いけど、それはもうちょっと先になると思うよ」
誰かがそれに答える前に私は動く。《白百合》を構えて抜刀。《光》の斬撃を飛ばせるだけあたりに撒き散らす。
「何の真似か知らねえが、その程度じゃ足止めにもなんねえなァ!」
《黒都》のボス格、確かアラタが暗夜とか言ってたっけ。聞いていた通り《万蝕銃》という名のマシンガンを私に向けてくる。
バララララララ――――!
高速でごく短い間隔で射出された弾丸は途切れ途切れの音というよりは、連続的な長い銃声を奏でる。
私の飛ばした斬撃はあっさりと撃ち抜かれ、あまつさえ残りの弾丸が私めがけて押し寄せる。
「ユウちゃんこっち!」
いきなりどうしたんだと戸惑うユウちゃんの手を無理に引いて移動する。狙いは射線を合わせるため。
ゲームのボス戦でも割と出てくるギミックだと思う。ボスと自分と何かしらのギミックを同一直線上に配置するよう動くというのは。
そしてここでのギミックは――。
「《皆輝剣》!」
暴れ飛ぶ弾丸をまとめて溶かしたのは太陽のような膨大な熱量だった。
そしてそんな熱量を出せるのは《闇》に対して圧倒的な防御力を誇る《光芒》の特権に他ならない。
もちろんそれは《闇》に対する絶対的な耐性の無さでもあるけれど、その特権の持ち主は簡単にそんな弱みは見せないと思う。
「チッ、やっぱ面倒だな。その特権ってやつは」
「皆を守るために与えられた力だからね。強くて当然さ」
「ハッ! そうは言うがテメェ、守るべき存在に逃げられてるぜ?」
「――なっ!」
「ユウちゃん! 走って!」
「は……はい!」
暗夜と兄さんの応酬を背中に受けて走り出す。逃走のタイミングは今しかない。だって、
「ツグミさん! どこに行くんですかねえ! こっちに戻って嫌でも戦ってもらいますからねえ!」
そう言ってこちらへと走り出そうとするメガネの人。けれども私達の追撃は硝煙によって阻まれる。
「オイオイ、テメェらを見逃すわけねえだろ? 《光芒》一味も逃げた女も全員蝕み尽くす! それがオレのやり方なんだよ!」
そんな弾丸と剣とかぶつかり合う中、私達の逃走劇は始まった。




