気まぐれな蹂躙 前編
「いきなり出てきて勝手な事言いやがって……お前ら! コイツから始末しろ!」
「やれるもんならやってみろっての!」
「逃げやがったぞ! 追え! そこのガキなんかに構ってんな!」
そんな怒号と共に、何人もの男が俺に狙いをつけた事を確信して走り出す。
「なるほど。注意を引きつけてあの子達を逃がそうという魂胆ですか」
聞きたい事がある訳でもないのに勝手にGMは喋り出す。
「まあヘイト管理は基本だから」
「しかし名前と顔を出さないのはいただけませんね。ヒーローになりたくないんですか?」
「そんな願望があったら《晦冥》なんて手にしてないっての。それより相手の数とか体力とかなんか分からないのかよ?」
「前にも言いましたが、この世界ではレベル等の情報は秘匿されます。現実と同じですよ。実際に使って初めて分かるのです」
ちょっとふざけたと思うとすぐこれだ。キャラが本当にブレてる気がする。やはり欠陥品だよな。
「ちっ!」
そんな思考は背後から迫る《月光》に中断される。
「いいか! 数で押せ! まだ全員が同レベルのハズだ! それなら多い方が勝つと決まってんだよ!」
そう言って《月光》がさながら黒い雨のように降り注ぐ。威力はそこまで致命的なものではないと思う。が、数が本当に多い。俺は《黒都》に来る前に《月光》のレーザーを発射したが、その数よりも多い。はっきり言って迎撃は仕切れない。
――ならば。
「あの野郎、街灯に飛び乗ったぞ!」
「丁度いい、撃ち落とせ! 晒し者にしてやんな!」
街灯から街灯を一気に飛び移っていく俺を見てゲーム性でも感じたのだろうか。そんな事を言っているのが聞こえる。
周囲の人間は何が何だか分からないといった様子の奴もいるがイベントと勘違いしたのか取り敢えず俺を狙おうとする輩もおり、かなり混沌を極めている。
とにかくここから離れつつ戦おうか。そう思い空を見上げる。相変わらず頂の見えない摩天楼が目に入るがそれと共に周囲には5、6階建てのビルが目に入る。
流石にそれらの屋上までひとっ飛びなんて離れ業はできないだろうが壁を使えばどうだろう。
「はっ!」
そう考えた俺は街灯の柱をジャンプ台代わりに跳躍する。みるみるビルの壁と俺との距離が縮んでいく。
間も無く壁とぶつかるというところで足を前に出し、跳んだ衝撃を受け止める。そのまま体を捻って、道路の反対側のビル。そちら目掛けて跳躍する。
反動がついていることもあってか、容易に反対側へは辿り着けた。そのまま更に体を反転。さっき張り付いたビルへと飛び移る。
「よ……っと」
さらに間髪入れずに反対側へ。これを繰り返していく。ただしジャンプの方向は斜め上を意識して。
「あの野郎……ッ! 上だ! 上に逃げやがった!」
「落ち着け。身体強化の能力でも持ってるんだろうさ。C区、D区の奴らにも連絡を入れろ。囲い込むぞ」
そんな話が終わる頃には俺はビルの屋上へと到達し、男達の視界から外れていた。
屋上を飛び移って移動しながら考える。勢いでここまでやってしまったがここからどうするか? 恐らくさっきの子供は無事だろう。となると懸念事項は俺の安全か。
できれば警察のような組織に逃げ込みたいがサービス開始当日にそんなものは用意されてないだろうな。自分達で治安維持をしろとGMに言われた事を思い出す。となると選択肢は1つ。
「まあ、あそこまでやっといて有耶無耶にもできないよな」
立ち止まって周囲を見渡す。いくつものビルが続いており、それはつまり屋上が水平線のようにどこまでも続いているという事だ。周りに人はいない。そしてここはかなり拓けている。つまり誰かがやってきたら即座に気づける。
「ぐあああっ!!」
――こんな風に。
目に入った瞬間に速度をとにかく重視とイメージした《月光》を放った。すると小さな針のような形状になり、先の男を葬った。威力はあまり高くないだろうが脳天を狙えば話は別だろう。これなら魔力の消費も抑えられる。
ここで一度深呼吸を入れる。そしてコントローラーを握り直すかのように拳を握る。俺だって伊達にこの時代でゲームに揉まれてきた訳じゃない。多人数戦くらい平気でこなしてみせないとな。




