定番で絢爛な大都市
「貫け! 俺の《月光》!!」
――そんな台詞を放った先程の戦闘を俺は反芻していた。
「やっぱり技名はつけた方がいいのか……?」
正直な話、《晦冥》の効果のおかげで《月光》の威力や精度は申し分無い。実用性と派手さが両立しているという必殺技にしない方がおかしいスペックを持っている。
これならばただカッコつけて叫んで何もできないなんて醜態を晒す心配はない。というかゲーム内の記憶は現実に持っていけないし気にする必要もないのかも知れない。
「ま、良さげな名前が思いついたらその時採用すればいいよな」
そんな事を言いつつ頭の中でいくつか候補を作ってみる。漢字とカタカナのどっちが映えるか、まずこの議論に終止符を打たないとな。それにしても……
「さっきから歩けど歩けど街らしい街が見当たらないんだけど」
目に入るのは爽やかでどこまでも広がっているような――いや実際にどこまでも広がっている――草原。そして右手には木が所狭しと詰めあっている鬱蒼とした森林。
奥に何があるのか確認出来ないからこっちに進むという選択肢はない。かと言ってこのまま進むのも不毛に思える。いや、草はそこら中に広がってるけど。かくなる上は。
「なあGM。ここから一番近い街ってどこにあんの?」
「私を道案内のAIとして使わないでいただきたいですね」
そう反応したのはプレイヤー1人につき1台支給されるらしい人工知能のGM。個人的にはFAQとかに答えてくれる便利なシステムだと認識してる。
「細かい事はいいだろ。というかこのフィールド広すぎない? 全然景色が変わらないんだけど」
「そりゃあ広いのは当たり前ですよ。なんてったって、L&Dは今までのネトゲとは比べものにならないプレイ人口を持ってるんですよ。日本の全国民がアクティブなんですからね」
そういえばそうか、と思う。日本の人口は1億3000万ほどだったはず。それらが同じサーバーで一堂に会するのだ。今までのゲームと同じ規模で運営出来るはずがない。敵を倒すために行列なんてできたら目も当てられない。
「でもそれだと移動とかどうすんの。テレポートとかできたりしないの?」
「そこは言ってくだされば。大体の場所は移動できるようになってますよ」
「それ絶対始めに言うべきやつだよな」
「バタバタしてたので忘れてました」
おい。
「忘却すんな人工無能が……取り敢えず一番メジャーな街に送ってくれ」
「かしこまりました」
ポンコツみたいなAIでもそこは腐っても人工知能。暴言と要求を一度に放ってもしっかり仕事はしてくれる。なお暴言はスルーされる。まだ入力に対してしかきちんと反応できないのか?
ともあれ黒い光が俺を包み込む。先程俺が倒した奴らが白い光に包まれたのとエフェクトは似ている。恐らく配分が大きい属性の色に包まれるんだろう。そして行き先は多分配分が大きい方の街だろうな。これで《光》の本拠地に飛ばされたら目も当てられない。
これまでやってきたネトゲの中にも当然ながら大都市と言える栄えた場所はあった。実際に店などの質が良かったりするのでしばしば拠点にする事もあった。
そしてそういう都市には実用面で優れた店だけではなく、娯楽に特化した店だって存在する。これらを楽しむのもゲーマーの務めだと俺は考える。だからまずは散策すべし。そんな少しの期待を胸に俺は光に包まれた。
*
「ここが拠点なのか……?」
「そうですね。名称は《黒都》。黒の都です。どうですか。貴方達に相応しい場所をこしらえたと思いませんか?」
目の前に入ってきたのはいくつもの摩天楼。所狭しと密集するそれはまさにコンクリートジャングル。無秩序に並んでいるように見えてその実整然とした区画分けに則って立ち並び、果てしなく暗い夜空を貫くように凛とした佇まいを見せる。
背後を振り返ると広がった荒地に申し訳程度に舗装された道路が一本。都市の内と外で明確な境界線ができている。
これはあれか。少しでも自分達の領域から外れた者は相手にしない俺達の姿勢を表しているのか。まあ全員が全員そういうわけではないが。
「さっきの草原は昼だったのにここは夜なんだな。ここまで時差があるって事はかなり遠くまでワープしたのか?」
「確かに遠くまで移動してきましたが、時差はありませんよ」
解説モードのGMが答える。
「この世界には時間経過によって朝昼晩と変わらないのです。大まかに言いますと《光》の拠点、《白都》に近いほど明るく、《黒都》に近いほど暗くなるのです」
「つまりここはずっと夜のままなんだな」
ありきたりなアイディアと言えばそうだが、変によく分からない絡め手を使われるよりはいいと思う。それと個人的に夜景は好きだ。景観はかなりの好印象を俺に与えた。
「それにしても広いよな……」
L&Dは日本に住む人間全てが同時にプレイする世界だ。そして流石に《光》と《闇》の比率が片方に偏るとは考えにくい。となると単純計算で半分くらいは《闇》の属性が強く、その大部分はこの《黒都》を拠点にするというわけだ。ざっと7千万人以上。その程度のキャパはあって然るべきなのだろう。
そんな事を考えながら街を歩く。青、桃色、黄色、赤色。目に悪そうなネオンを横目に店の様子を外から伺う。
「店はまだNPCが経営しているものばかりですが、望むなら経営者にもなれますよ?」
「何でゲームの世界でも労働に勤しまなきゃならねえんだよ……」
週に1回バイトをするだけでも死にそうになるってのにそんな事をやる余裕はない。しかし昔の夢憧れた職業に就くチャンスがあると考えれば、大人には存外需要がありそうだ。
もしかするとゲームに逃げる事しか出来なくなった大人に活力を与えられるのかもしれないな。結局はゲームに逃げてるところが皮肉な話だとも思うけど。
「そういえば治安はどうなんだ。夜の街とかもうお察しな感じもするけど」
「さあ? 治安は勝手に貴方達が作るものでしょう。まあ《闇》の集団ですしそれなりの無茶はやりそうですけどね」
やっぱ力こそ正義みたいなR15くらいのレーティングの街になるのだろうか。子供の教育に悪そうな街だ。
「まあ早速問題も起きてるみたいですし、かなり荒れそうですよね」
そう言って右です、と付け加える。言われた方へ首を動かすと目に入ったのは男女の集団。数は20人は超えている気がする。派手な見た目的にもヤンキーとかチームとかチンピラそういうベクトルの人種だろう。なるほどいかにもこの街らしい。
それに相対するは何人かの小学生。そして彼らを庇うように立つ長い黒髪の少女。少女とは言え、俺と似たような背丈だが。
「なあお嬢ちゃんよ。そんな風に睨むのは止めろよ。まるで俺達が悪者みたいになっちまうじゃねえかよ」
「それな。大体そこのガキがうるさいぞって言いがかり付けてきたんだぜ? 俺らは被害者なんだよ」
「何だよ! あんなに大声で叫んで騒いでみんな迷惑してたのが分からないのかよ!」
少女を挟んで一触即発の応酬を繰り広げる2つの団体。もちろんパワーバランスは火を見るよりも明らかで、実力行使となると結果は想像するのも忍びない。
「とにかくこの人達は小学生ですよ。あなた方は大学生とかですよね。子供にムキになっていいんですか? 大人気ないとは思わないんですか?」
大人気ない。その言葉を聞いて小さく、けれども聞き取れるボリュームで男達は笑い出す。
「分かってねえなお嬢ちゃん。大人気ないのがいいんだろ? ここはゲームの世界だぜ? 法律も何も俺達を縛るものはねえんだ!」
そう言って少年達を数の暴力で囲い込みジリジリと迫っていくヤンキー達。少女は抵抗を試みようとはするがその行為に意味はないと誰もが知っていた。
「あのな。何をしたって、支配されたってそんなモン自己責任だろうが! 弱いヤツには人権なんてねえんだよ! 特にゲームの世界ではなあ!」
「本当に……本当にそう思うんだな?」
ヤンキー達が手を出すよりも早く《月光》を使用する。ネオンや電灯が発する光を塗り潰しながら数人の男達を貫く。
「おい! 何しやがる!」
万一でも顔を見られると面倒だ。慌ててパーカーのフードを被りつつ、誰だこいつは、というような視線をも塗り潰すようにさらに《月光》を手当たり次第に放ちながら俺は吠えた。
「不意打ちでやられるお前らに文句言う権利なんて無いだろ。これも自己責任ってやつじゃないのか?」




