独り立ち
「ちょっと、何でアラタがいらないの? そこらの《白都》のプレイヤーと比べてもずっと強いよ。私と《バベルの長城》を攻略した実力を認めないって言うの?」
あからさまに不機嫌な様子でツグミが問い詰める。……わざわざそんな怒ったりする必要はないのにな。
「いえいえ。口惜しいですがその実力は認めざるを得ないですねえ。が、しかし! 貴方がいらない理由! それがあるのも事実なんですよねえ!」
そのメガネは大袈裟に手を振って歩き回りながらネチネチと俺を批判する。
「まずその能力! 相手は《闇》が得意なプレイヤーばかり! 《光》を無効化する能力なんて一体どこで役立つと言うのでしょうねえ!? ボクらを裏切る時くらいでしか役に立たないと思いますねえ!」
「っ、先輩の能力は、それだけじゃ……」
と、ユウハが口を挟もうとするもそれを許さない大声で佐久間はさらにまくし立てる。
「さらにさらに! 能力コピーという異端な能力に加えて先日の《白都》襲撃! まさか忘れたとは言いませんよねえ!?」
「……この点があるから僕もサクシの意見は蔑ろにはできないんだ。チーム内の不和に繋がる可能性はどうしても否定できない」
《白都》襲撃。《黒都》の連中が動くよりも前に調子に乗って俺が単身でカチコミをかけたあの出来事。確かに一騒動起こしたがまさかここまで尾を引くとは。
「だったらさっきの話はなかった事にするよ。行こ、2人とも。私達は私達で好きなように動こうよ」
「おやおやぁ? 本当にそれでいいんですか?」
踵を返したツグミを煽るように嫌らしく佐久間が声をかける。
「いいですかあ? ここで言う事を聞かなければ貴方達はボク達の敵になりますねえ。……しかも《黒都》からも良い印象は受けてないでしょう!? そうなった時、街中でもどこにいても貴方達は襲われる可能性があるのです! ポーションの入手すら危うくなりますよねえ!?」
「なんだよ。《白都》だって《黒都》と変わらないゲスい事考えられるじゃねえか。そこまで頭が回るのに敗北とかお笑いだよな」
「それがどうかしたんですかねえ! ボクはサクシ! 仲間のためならどんな作戦だって考えつく天才ですよお! 天才的手法ですぐさま奪い返してみせますよお!」
つまらない中傷にも耳を貸さない。これはこれで天才的な部分なのかもしれない、と自暴自棄になりつつある頭で思考する。
こちらが圧倒的不利なのは聞いた通りだ。いくらこちらの能力が優れていようと物資の供給が断たれたうえに全員敵のバトルロイヤルなんて生き残れるわけがない。
精一杯の反撃が煽り返すだけというのは無力感を味あわせるには十分だ。それだけで奴らの勝ちと言ってもいいかもしれない。
「こんなになりふり構わないなんて兄さんも本当に変わったよね……」
ツグミにも反撃できるカードはないらしい。非戦闘エリアなんてものもなければ不可侵条約すら存在しないこの世界では繋がりと統制はかなりの威力を有するという事か。
正直なところ、この広い繋がりを舐めていた。これは完全に自分の読み違いだ。となるとこれからの動きは決まってる。
「じゃあ俺だけがここから離脱すればそれで満足なのか?」
「ええ、ええ! そうなりますねえ! そうすれば貴方達に実力行使はしないと約束しましょう!」
「…………」
だったらこうするのが手っ取り早くて合理的だ。何も言わずに俺は振り向いて歩き出す。
「ア、アラタ! それでいいの? ねえ!」
「先輩! 私も一緒に……!」
「アンタらならまあなんだかんだでどこでもやれるだろ。ここにいた方が最善なんじゃないのか」
そう言いながらも早足な歩行速度は一向に落ちる事はない。
人数が多いなら何だって分けあえる。負担もダメージも危険度だって。その方が効率がいいだろうし、何よりつまらない邪魔が入らないならこっちの方がいいだろう。
「…………」
そのまま何も言わずに歩き続ける。振り返る事もしない。そんなのしたって意味無いし。
それにそうだ。辛くもないしなんて事ない。今までと変わらない。知り合いから他人になるなんて俺からすれば普通だそんなの。
というか知り合ってそんなに間もないからな。感傷に浸れるような間柄じゃないだろう。
……けれどやっぱりこうなるか。現実にしろゲームにしろ、本当に俺は人間関係で上手く立ち回れない。
歩みを止めずにそんな事ばかり考えていた。ふと我に返った時にはもう《シティ・オフホワイト》なんてものは影も形も見えなかった。
「さて……ここからどうすべきか……」
そう口に出したところで何か提案をしてくれる相手はもういない。
それに何をすべきかなんて何か言われなくてももう決まってるしな。
「……ゲームする以外に、選択肢なんてないよな?」
どうせゲーム以外に逃げ場も居場所もないんだし。L&Dを始める前のプレイスタイルに戻せばそれで万事オーケー。
すなわち拗れに拗れた観客も審判もいない独り相撲、それが再び幕を開けるのだ。




