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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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異変と異質な組み合わせ

「《白都》が陥落したって……そんな事がありえるの?」


 俺達が魔女アルティーナを倒した直後、いきなり送られてきたメッセージが物議を醸す。


「確か今ってイベントやってましたよね? 《白都》対《黒都》の攻城戦みたいなの」


「けどあれはベータ版みたいなものじゃなかったか。後日色々調整して改めて本戦をやるんじゃなかったか、GM?」


 いくらGMがいい加減と言ってもイベントスケジュールはきちんと管理しているはずだ。確認のために呼び出そうとしたのだが、


「応答しないね……」


「いつもなら煽りの1つでも突っ込みながら説明してくれるはずなんだけどな……」


 アルティーナの脅威は去った。だからこの森でもGMと通信はできるはず。そう考えたのだが、当てが外れたらしい。


「《ブルーウッドプレーン》から出ないとやっぱり何もできないんでしょうか?」


「メッセージを受信できたのはおかしくないか? ボスを倒さない限りは外部と通信ができなくて、倒せばそれが解除されると思ったんだけどな」


「んー、よく分かんないけどテレポートは使えるみたいだよ? とりあえず場所も指定されてるし行ってみない?」


「まあ、行ってみないと何も分からないよな……」


 正直不安要素は山ほどある。


 何で《白都》の連中が迷惑かけ放題の俺達に声をかけたのか。


 実は罠で袋叩きにするつもりではないのか? けれども《白都》の人間がそんな真似するとは思えない。何か別の理由があるのか。


 そもそも陥落したからと言ってわざわざ連絡を寄越すような状況になるのか?《白都》らしくみんなで仲良く取り返せばいいだけの話ではないのか。


 しかしたった数行のメッセージから真相を推理できるほど俺は探偵の素質があるわけでもない。


 となるとやはり問い詰めた方が手っ取り早いのだが……。


「あんまり行きたくないよね……」


「心象最悪だろうし協力も何もあったもんじゃないだろうしなあ……」


 脳裏に浮かんだのは単独で《白都》に攻め込み、ツグミに助けられて撤退したあの出来事だ。


「でも行かなかったらどこかで見つかると思います。情報網が凄そうですし」


「ド正論だな……」


 陽キャ様はあれだからな。友達の友達はマブダチだし、なんなら目が合っただけで友達認定してるところがありそうだしな。


 彼らの人脈はけして途切れない。徐々に徐々に細くなってはいくのだが、それがどんなに細かいところにも入り込んでくる。今回の蝶野からの連絡がいい例だ。


 だからまあ多分、この手の抵抗は無意味なのだろうな。


「俺はしょうがないし行くけど……2人はどうする?」


 ツグミもユウハも能力のバレている俺に比べて遥かに貴重な戦力を持っている。知られていない切り札ほど強力なものはないからな。


 それにまあわざわざこんな、


「こんなよく分からないイベントに巻き込むのはなあ……とか思ってるでしょ、どうせ」


 大体ネガティブな思考しかしてないよね、と付け加えたうえで続ける。


「アラタが行くなら私も行くよ。何かあったら飛んで逃げればいいし」


「本当は2人っきりで行って欲しいですけど、盾役は必要ですよね。なので私もついてっちゃいます。お2人の恋路もしっかり守り切ってみせますよ!」


「翼はできればまだ使わないで欲しいけどな……。それとユウハは少し黙って?」


 いつも通りのグダグダしたやり取りを交わす。馬鹿な事を口にするたびに頭に溜まった憂鬱な思考も吐き出されるような感覚を覚える。


 自分ならやれる、とまでは言えなくても《白都》に正面から乗り込むくらいの覚悟は決まった。


「じゃあ誘いに乗るのは確定だな」


 そうして俺達は招かれてるのか招かれてないのかよく分からない客になりながらも招待に乗っかる事となった。





 そして翌日。指定の場所に俺達はやって来た。


 中途半端な時間に向かって微妙なタイミングでログアウトするのもアレだし、なんだかんだで猶予が欲しかったというのもある。


 いざ実行するとなると尻込みするのはヘタレ陰キャのパッシブスキルだと思う。


「ここは……《白都》じゃないっぽいね」


「んー、地図を見てると《白都》から結構離れた都市みたいですよ。規模としては少し小さくなった感じでしょうか」


「東京から名古屋や大阪に移動したとかいう感じでいいのか」


「不躾な輩ですねえ。ここは《シティ・オフホワイト》。《白都》の次に発展した都市ですよ。もしやそんな事も知らずにここへ?」


「いや、どうでもいいしそんなの……」


 俺達3人を出迎えたのは髪を短く整え、大きな眼鏡をかけた男だった。


 細い目で俺を軽蔑するように睨め付けつつ、嫌味を飛ばすが一々そんなのを気にしてはいられない。不意打ちを喰らわないだけまだ良心的だとも思う。


「ああ、紹介が遅れましたねえ。ボクは佐久間シュウト。略してサクシとでも呼んで欲しいねえ」


 どちらかといえば勉強ばかりしてそうな見た目で、こっち側の人間かと思ったがどうやらそうではないらしい。


 ギャハハと下品な笑い声をあげる奴らと軽い挨拶を交わしてるあたり《白都》の人間確定だろう。


「帰りたいな……」


 ぼそりと誰にも聞こえない声で呟く。周りを見渡せば笑って叫んで馬鹿騒ぎする奴らがうじゃうじゃといるのだ。


 避難してきたというような悲壮感は微塵も感じられず、自分達が場違いだと感じてしまうのも無理はないと思う。


 横目で蝶野を探すも姿は見当たらない。俺と繋がりがあるのを隠しておきたいのだろうか。扱いがもう暴力団みたいだな……。


「ところで、ここに来たという事は《白都》が陥落したのを知ってるんですねえ?」


「一応それだけはな……」


「それなら僕が詳しく語るとしようか」


「っ、お前……!」


「兄さん……!」


「星野さんに向かってお前とは……これだから《黒都》の人間は不躾で嫌なんですよねえ」


 インテリ風陽キャの嫌味も途端に耳に入らなくなる。先程とはまた違った緊張感が2人の間を駆け巡る。


「やあ。先日はうまく逃げてみせたね。本当はここで借りを返したいところだけれども、そういう訳にもいかないんだ」


「借りを返すなんてよく言えるね。《白都》を失なってもっと弱気になってると思ったんだけどね」


 周囲の喧騒の中、この一点だけ空気が凍てつく。まさに一触即発といった状況で睨み合いを続けていたが、星野は年長者の余裕を見せるようにため息混じりに警戒を解いた。


「……やめだ。今はそんな事をしている場合じゃないんだ。何かがおかしいんだ」


「ふうん。じゃあ聞かせてよ、《白都》で何があったのか」


「分かった。君達は全面戦争に参加してないんだろ? だったらルールから説明しよう。といってもシンプルで各都市に設置された旗を攻撃して倒せばそれで終了なんだけど」


「攻撃と防衛に割く人員の比率が重要そうだな。そんなの《白都》は負けないんじゃねえの? お得意のチームワークで楽勝だっただろうに」


 ついつい《白都》側の人間と喋ると言葉に棘をつけてしまう。こうやって俺は地道に好感度を落としていくのだなと感じる。


「……いや、結果だけで言うと《黒都》側のプレイヤーの使い方の方が上だったね」


 苦虫を噛み潰したような表情で星野は言う。


「しかしあいつらも卑怯だと思うんですよねえ。あれだから《黒都》の人間は野蛮で不躾で嫌なんですよねえ」


「負けは負けさ、しょうがない……。彼らのボスみたいなプレイヤーがいたんだけれど、拳銃を使って毒を浴びせていたよ。そうして動けなくなった彼らを人質に取りつつ一気に攻め込まれたんだ」


「拳銃を使うリーダー格……」


 ちらりとツグミの方を見る。そちらにはこちらに向かって軽く頷くツグミがいた。


 俺とツグミが初めて会った――その時は名前も何も知らなかったが――原因となった不良グループ、そのリーダーだろう。それにしても《黒都》をまとめ上げるまでに至ったのかあいつは。


「さらに《黒都》内には多数の罠や足止めの策が多く、攻撃部隊は時間稼ぎをさせられたんですよねえ……!」


「これは《黒都》の作戦勝ちだな……」


 正直な話仲良しな繋がりを上手くついた攻撃だと思う。星野を封じるくらいなのだからよほど徹底してやったのだろう。かなりの下準備があったに違いないと考えられる。……待てよ。


「ねえ。いくら相手が《白都》と言っても《黒都》のプレイヤーがそんな連携を取れるものなの?」


「……私の、見てきた印象なら、無理だと……思います。好き勝手に、動いてる人ばっかり、なので……」


 やっと喋ったと思うと今までとはうってかわって言葉がたどたどしくなるユウハ。俺達だけといるのが平気で、他に誰かがいると萎縮するということか?


「それに《白都》が負けたなら負けたでそれで終わりじゃないの? どうしてこんな所にいるの?」


「僕がおかしいと感じたのはこの後の事だ。……彼らは《白都》の旗を倒した後も攻撃の手を緩めなかった。そうして《白都》を実効支配。僕らがそこに留まるのは困難となったんだ」


「《白都》を強奪ね……何が目的なんだろうね?」


「要求も何もなく、ただ出て行けとだけ言われたんだ。本当におかしな話だよ」


「単純にお前らが気に食わなかったにしても上手くいきすぎてるな……」


 陽キャに痛い目を見せてやりたい。それ自体は俺達からすれば自然な欲求ではある。


 だからそれを動機だと考えても違和感はない。しかしその信念だけでこんなパフォーマンスが出せるというのか?


「GMからはアナウンスも何もないんだ。だからこそ僕らでこの問題を解決しないといけない。そうは思わないか?」


「さすが星野さん! その通りですよ!」


「このまま放置していい問題じゃないもんな!」


「これはもうみんなで解決するしかないでしょ!」


「…………」


 話を聞いていた周りの奴らが口々に賛同のシュプレヒコールを上げるが、対照的に俺は沈黙を貫く。


 俺だって学習はするし最低限、空気を読む事くらいはできる。ここで反対して必要以上にヘイトを稼いだっていいことはない。そんな損得勘定はできるのだ。


「《黒都》と戦うにしろ話を聞くにしろ、戦力は多い方がいいんだ。だから僕らに協力してくれないか?」


 そう言われてちらりとツグミとユウハの方を見る。2人はどう思ってるのだろうか。


「私は……先輩達についていきたいので……それで……」


 好きに動けばそれに付き合うとユウハが言い、


「少しくらいの間ならいいんじゃないかな?」


 その代わり基本的には陽キャ勢の戦力分析がメインだけど、という裏の魂胆が透けて見えるが、ツグミも首肯する。


 どいつもこいつも《白都》の事を1ミリも考えず、動機が不純だなあと思うがむしろそうでないとな。


 まあこんな口実でもないと《白都》のプレイヤーについて調べる事なんてできないし丁度いいかもしれない。


 そう思ってじゃあよろしく、とでも言おうとしたその時だった。それを遮る声が1つ。


「あ、そうそう。言い忘れてましたが《晦冥》の貴方はいらないですねえ。なのでそこのお2人だけ協力していただきますねえ」


「は……?」


 その直後、俺は何を言われているのかが理解できなかった。


 そしてこの宣告から間もなく、俺の運命は大幅に予期せぬ方向へと歪曲していくのだった。

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