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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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魔女を墜とした必殺の策

「やっとってツグミ、今まで能力を使ってなかったのか!?」


「斬撃を飛ばすのは能力じゃないんですか!?」


「てかどんなのにする気なんだよ!」


 能力を習得する――それも言い方から察するに新しく追加するのではなく初めての習得だ――というツグミの発言に俺達はアルティーナの事も忘れて質問責めにする。まるで新しいパッチが公開されたゲーマーの如く騒ぎ立てた。


「一気に言われても答えられないんだけどね……。えっと、飛ばしていた斬撃は《月光》や《陽光》だよ。基本技の強化は私にもある特権だよ」


 確かに俺も《晦冥》の特権に任せて《曲射》とか名付けて多用していた。軌道をあんな簡単に変えられるのだから刀に纏わせて飛ばす事は造作もないという事か。


「でも肝心の能力はどんなのにしようか全然決まらなくてね。舐められないように能力はあるよってアピールしたくて斬撃を能力みたいに使ってたんだよね」


 ちょっとアラタのやり方に似てるかもね、と言ってツグミは笑う。


 俺は能力の秘密を守るため、ツグミは持ってないのを隠すために2人して能力詐欺を行っていたと。


 目的は違えど手段は似通ってるあたり本当、互いにろくでなしだなあなんて益体も無い感想を漏らしてしまう。


「で、私の能力だけど説明してたらやられそうな気がするんだよね」


 ガタガタと地面が悲鳴を上げる。広くどこまでも続いているはずの広大な大地が軋んでいるのがなんとなくだが感じられる、


「だから攻略法だけ伝えるよ! 私が魔女を地面に叩き落とすから2人で大ダメージ与えてね!」


「叩き落とすって……」


 言い終わらない内にツグミは行動を開始した。


 瞬間。強い風が俺達を打ちつける、地中にいるのに。否、地中にいたのか。


 見上げたそこには蒼天が広がっている。葉に遮られ、硬い地面にも遮断されていた日光が再び俺達を包み込む。


 包み込む日光とは対照的に、槍のように降っていた魔力はその鳴りを潜めている。


 ツグミは一体何をやったんだと思い視線を向ける。程なくして彼女を見つけたがその姿に絶句する。


 飛んでいる。


「今日の主役は私だよ! ――《星空(ほしぞら)(つばさ)》!」


 文字通り翼を生やした黒髪のツグミが空を翔ける。いや、翼と言っても鳥や天使が持っているようなものとは根本的に違う。


 それは細い細い光を何本も集めて、合わせて、編んだような翼だった。


 漆黒を基調として白や青の輝きを散りばめた、まさしく星空と言うに相応しい光帯。


 背中からVの字を作るように放出された《星空の翼》は過剰なまでの推進力をツグミに与えているように見えた。


「アタシ以外にも空を飛べる子がいるなんてねえ……叩き落としてあげるわよ!」


 降り注ぐ魔力に衰えない鋭さをもって突入。難なく切り裂いてどんどんアルティーナに迫っていく。


「《星空の翼》は私の魔力でできてるんだよ? 早々打ち負けないから!」


 そんな声が聞こえた時には既にアルティーナとの距離は目と鼻の先。そのまま《黒百合》と箒がぶつかり合い、空中での決闘を繰り広げる。


 彗星の如き鋭さと速さでツグミはアルティーナのアドバンテージを打ち消した。

 

「あン……! この速さ、良いわよ……! クセになりそうよ! ……けれど、こんな動きにはついてこれるかしら?」


 急にアルティーナの動きが変化する。足下に見えない床があるかのようにステップを踏みながら空を移動する。


 箒を手に踊るように位置を変えつつ、様々な角度からツグミを狙う。


 ツグミの飛翔速度は群を抜いていたが、それは直線距離を移動する場合に限られているように思える。


 新幹線が曲がりくねったレールの上を走れないのと同じように、ツグミは細かい動きにはついていけない。アルティーナの行動はそう考えてのものだろう。


 やはり即席で作った能力ではここが限界か。そう感じて《月光》でアルティーナに狙いをつけたその時だった。


「私がおばさんに翻弄されるわけないでしょ!」


 突如としてツグミの《星空の翼》に異変が起こる。純白、そして澄んだ空色とを重ねた細い光。それを何本も集めて束にしたような両翼へと変貌を遂げる。


「先輩あれって……!」


「あいつまだ何か隠してたのかよ!」


 新たな翼を得たツグミは風のように空を舞う。


 アルティーナの一歩先を行く軌道で先手を取らせず、翼で制御しているのか下から見ると大の字や逆立ちのような姿勢から剣撃を放ち続ける。


 とにかく物理法則を無視しているかのように体を好き勝手に動かし、隙あらば攻撃をしかけるといった奔放なスタイルでアルティーナを追い詰める。


「舞うように戦うっていうのはこういうことを言うんだよ! ――《快晴(かいせい)(つばさ)》!」


 ツグミが体を捻り、その空気抵抗に流されて《快晴の翼》も形を曲げる。そのまま翼がアルティーナの体を撫でるように通り過ぎる。


 しかし通り過ぎるだけでは終わらない。その翼は第二第三の刀のようにアルティーナに斬撃を浴びせる。


「やぁああ!? この……女ぁ……!」


 虚を突かれ手痛い攻撃を受けたアルティーナは悪びれもせずに悪態を吐く。化けの皮が剥がれたその姿を見てツグミがさらに煽る。


「今をときめく乙女にはやっぱり敵わないんだね。あれでしょ? 何千年と生きてるとかそんな年寄りなんでしょ、実際」


 同じ女性だから言われて腹立つ事が分かるのか、これまでの借りを返すように一息にまくし立てていく。


「黙って聞いていればああぁ!! もう許さないわよおおぉ!!」


 これまでの鬱憤もあるせいかツグミに対してこれ以上ない敵意をアルティーナは浴びせる。


 絶叫し、体全体に魔力が満ちる。その様子が、オーラが地面からでも視認できた。


 深くかぶったとんがり帽子はその魔力の流れに煽られて飛んでいく。そこから現れたのはまさに怒髪天を突いている乱れた赤髪。そして血走った目。


 最初に見た妖艶な印象はたちどころに消え失せ執念や怒りで化粧をしたようだ。


「アナタは蘇生なんてさせないわあ!! もうこの世界にいられなくしてあげるわよおお!」


 そのまま手にした箒を手当たり次第に振り回す。ツグミの《快晴の翼》、《陽光》、《白百合》に力だけで打ち勝っていく。


「これはちょっと乗せすぎたかも……!」


 受け止めきれない衝撃は翼の揚力を利用し上手くいなしているがそれだけで精一杯だというのがこちらからでも窺える。


「ああああああああっっ!!」


 さらに半狂乱になったアルティーナは止まらない。箒の描く軌跡からは魔法陣がいくつも生まれ、繰り出される《月光》や《陽光》がツグミを追尾する。


「でもね、弾幕ゲームも遊んでる私を撃ち墜とすなんて無理だよ!」


 そんな《光》と《闇》の作り出す隙間をツグミは見逃さない。習得して間もないというのに完全に能力を使いこなしている。


 背中の《快晴の翼》で飛行機雲のような軌跡を描き回避する。それを目で追うので俺は精一杯だった。


「チェックメイトだよ!」


 何度目かの弾幕を突き抜けて正面に躍り出るツグミ。その眩しく光る刃でアルティーナの不可視の翼を斬り落とそうとしたその時だった。


「それを待っていたわぁ……! 仕留めなさい! 《スナイプウルフ》!」


 先程の荒々しい気性は霧消し、そこには狡猾な笑みを浮かべた魔女がいた。


 アルティーナのその号令に呼応するように森の茂みから一体の狼が文字通り弾丸となって空へと発射される。


 《バレットウルフ》が数で制圧するタイプなら、こちらは一撃必殺の隠し玉といったところだろう。


「先輩、狙撃です! 防いでください!」


「ダメだ、《月光》が追いつかない!」


 ユウハに言われるまでもなく俺は《月光》で撃墜を試みた。だがそれでもツグミを狙撃するという唯一の命を背負った弾丸には届かない。


 基本的な速度が違いすぎる。さらに高度が上がるにつれて《月光》の勢いが燃料を使い尽くしたかのように失われていく。


 魔女のスペックはやはり1プレイヤーのそれとは比べ物にならないというのか。


 ――そもそも大人数で倒すのが前提で俺達3人では無理だったのか? 《バベルの長城》での戦いは単なる偶然だったのか?


 そんな思いを胸にツグミが撃ち抜かれるのを眺めていたその時だ。戦況は再び逆転した。


「……やっぱりまだ何か手札があったんだ。まあそうだよね、ボスのギミックなんていくつあってもおかしくないもんね」


 ツグミの余裕は消え失せない。この狙撃すらも対応可能だといった様子でアルティーナを見る。


「強がりは止めなさい? 下手に動けばアタシが仕留め、動かないなら間もなく撃ち抜かれる……つまり! もう! アナタに! 勝ち目はないのよおお!」


 ダメ押しのように魔法陣を展開しツグミを囲む。これはもうハッタリとかブラフでどうにかなるものではない。


 逃げ道を完全に封鎖された状態で何ができるのか、俺もユウハも不安ではあるがただただ眺めている事しかできないのが歯がゆかった。


「自慢の翼のスピードも! テクニックも! 何もかも役に立たないと思い知って散りなさい!!!」


 ヒステリックな絶叫が耳をつんざく中、ツグミの反論はシンプルなものだった。


「確かに《快晴》も《星空》もこれじゃ使えないよね。……じゃあ、新しい翼を使おっかな!」


 声が漏れたのはその刹那の後だった。


「え……!? な、何が!? どうして!?」


 それは刹那の出来事だった。ツグミの体が一瞬にしてアルティーナの背後に移動し、刀がその華奢な体を貫いていた。


「し、瞬間移動じゃないですか!?」


「ツグミ、いくつ能力を作ったんだよ!?」


 《星空の翼》はあたかも瞬間移動かと見間違うような神速で突き進む翼だった。


 しかし今のは違う。どこからどう見ても瞬間移動そのものだった。


「これが私の最後の翼! その名も《黄昏(たそがれ)(つばさ)》だよ!」


 叫ぶツグミの髪はいつのまにか元々の色である銀色に、そして背中にはそれと対をなす金の翼がはためいていた。


 《光》を100%にした状態の髪はプラチナブロンドと言うべき薄く、繊細なものだった。


 新たな翼はそんなプラチナではなく純粋な金色。まるで黄金色の夕焼けをその背に宿したかのようだった。黄昏の名を背負うのにこの上なく相応しかった。


「い……あああああッッッ!!!」


 どちらが上手だったか、それは見れば明らかだった。勝者たるツグミはそのまま地面にアルティーナを叩き落とす。


「アラタ、ユウちゃん! 最後は派手に決めてね!」


 見ればツグミの翼は少しずつ小さくなっているように思える。かなりの魔力を消費したのだろう。トドメを刺すだけの火力はもう残っていないらしい。


「おのれ……! あの、女ああ! まだよ! まだ……負けてないわよおお!!」


 対して落下するアルティーナは満身創痍ではあるがまだ消滅していない。執念の炎も未だ消えずといったところか。


 下手に野放しにすると、もしくは逃走されると凄まじい逆襲が飛んでくるのは必至。とくればツグミの言う通り俺達で引導を渡すしかない。


 だが、俺の能力は《光》の無効化に劣化コピーの量産だ。ユウハに関しては相手と同じ動きしか再現できない完全カウンター型の能力。


 これだけ見れば無防備に降ってくる敵を仕留めるのは不可能なように思える。


 が、俺だってただツグミの戦いをぼんやり見ていたわけではない。決め技の一つくらいは考えていたのだ。


「ユウハ! 俺から離れて俺の動きを模倣しろ! 早く!」


「え!? あ、は、はい!」


 俺に急かされ、ユウハは俺と距離を取る。俺達2人の直線距離、その中心にはアルティーナが降ってくるように調整して、だ。


「飛ばされないように気をつけろよ……!」


 そのまま《蝶舞剣》を右手に握る。ユウハも合点がいったように俺の動きとリンクさせる。


「アナタ達ぃ! 何のつもりかしらあ!? 止めなさい! 止めなさいよお!!」


 俺達が手ぐすね引いて待っている様子を見て飽きもせずにアルティーナはがなりつづける。が、たとえ優しい正義の味方でもその要求には答えないだろう。


「これからどうされるかなんて……自分で分かりきってるくせに!」


 アルティーナと大地との距離がぐんぐんと近づく。そのタイミングを見計らい俺は一気に地面を蹴る。


 VR上の俺の体は現実ではありえないほどの瞬発力でもってボスの前まで肉薄する。


「はああっ!!」


 その瞬発力にさらに頼り、蝶舞剣でアルティーナを手当たり次第にザクザクと切り裂いていく。


「ああああっ! 止めて……! 止めなさいよおおっ!!」


 アルティーナは痛みに悶え苦しんでいるが当然だと思う。今、ナイフを狂ったように振り回しているのは俺だけではないのだから。


「……やあっ!」


 アルティーナを正面から斬り込む俺と背後から斬るユウハ。俺が右手を動かせばユウハは左手を、左足で蹴りを入れればユウハからは右足が伸びる。


 アルティーナを鏡に見立てて俺達は動き続ける。


 ユウハの《流麗模倣》は対象の動きを完全に真似る事ができる。それを俺に使えば実質俺の火力が2倍になりようなものだろう。


「もう少しギリギリまで溜めるぞ!」


 幾度となく斬撃を繰り返し、《蝶舞剣》が熱を帯びていくのを感じる。


 唯一オリジナルと同じ能力を使える《蝶舞剣》。効果は流した魔力、同じ場所への攻撃回数に応じて《蝶旋風》の威力が上がるというもの。


 強化された魔力と筋力、それを持つ者が2人もいるのだ。フィニッシュはどうなるのかもう想像はつくだろう。


「これで終わりだ!」


「決めます……!」


 バックステップで距離を取り、そのまま助走をつけて疾駆する。


「「《蝶旋風》!!」」


 駆け抜けながら、俺とユウハがすれ違いざまに居合斬りの要領でアルティーナを一太刀に伏せる。


 その2つの斬り口から堰を切ったように暴風が吹き荒れる。1つだけでも制御が効かないその嵐が今は2つだ。


「あああああっっ!!? ぁぁぁぁぁ……!」


 左に体が捻れたかと思うと今度は右に思い切り振り回される。アルティーナはもはやされるがまま。反撃も脱出も実現不可能だ。


 周囲に生えた木を雑草を抜くかのようにあっさりと吹き飛ばしながらアルティーナを苦しめる様は一種の魔女裁判のようだった。


「やべえ、立ってられないなこれ……!」


 当然俺みたいなもやしっ子が踏ん張れる道理などなく二転三転、森を転げ回る。


 そして嵐が過ぎ去り、体を地面から起こした時には既にアルティーナの姿は見えなかった。嵐が運び去っていったかなような静まりようだった。


「……捨て台詞の1つでも吐き捨ててくれても良かったのにな」


「多分それ、聞こえなかっただけかもですよ」


「まあ喋ってもこれで終わったと思うなよー、とかだろうけどな」


 どかっと腰を下ろしてそんな会話をする。苦労して勝ったというよりおいしいところを持っていっただけなので喜ぶにもあまり喜べない、複雑な心境だ。


「やっと……終わったね……」


「お疲れ様です。正真正銘のMVPでしたよ!」


「お疲れ。すげえ強かったな。これなら星野もやれるんじゃないのか?」


 とにかく祝いの言葉は一番の功労者にかけるものだ。そう思って2人して地面に降りてきたツグミの元へと集まる。


「あっ……」


「んっと」


 着地しようとした瞬間に霞のように翼が消える。そのままバランスを崩して落下しそうになるのを何とか体で受け止める。


「んんん――! 何ですかそれ凄くいいです! エモいです! こんなの見たら疲れも吹き飛びますよー! もう少しそのままでお願いできます!?」


「無理……重たい……」


「それ、普通の女性に言っちゃいけない事だって分かってるの……? ……そんな事よりポーション欲しいよ……。目が霞んで動けないんだけど……」


「俺からしたら1キロ超えたら全部重い物なんだけどな……。ん、飲みな」


 そう言いながらツグミの口元にポーションを持っていく。ユウハがうるさいがそこは無視する事にする。


 というか女子に体重の話をしてはいけないというのは、いくら陰キャだと言っても知ってる。しかし俺は体力に自信どころか不安要素しかない引きこもり予備軍なのもまた事実。人間を抱えるだけの筋力などないんだよな。


「筋力強化のポーションもう少し飲んだらいいと思うよ……。はあ、それにしてもこの翼、燃費が悪いね。ポーション5つじゃ全く足りないよ」


「あれだけの性能が出るんなら妥当ではあるか。けどそうなると下手に使えないな、それ」


「数分くらいしか持ってませんでしたもんね」


 実際、アルティーナとの斬り合いは短時間に何回も斬り結んだようなもので、時間はそんなに経ってはいなかった。


 それでも魔力を全て持っていくのだ。魔力運用が厳しそうだと頭を捻っていると、


「そう思うでしょ。でもね、こんなものがあるんだよね!」


 ポーションをあおって元気を取り戻したツグミがインベントリから何かを実体化させる。


 そうして出てきたのは装備品の一種だろうか。アルティーナの真紅の髪を思わせる宝石がついたペンダントだった。


「ボス討伐の報酬だよ! 一時的に魔力量を引き上げられるんだって!」


「いいじゃんか。俺としてはツグミが使えばいいと思うけど、ユウハはそれでいいか?」


「そりゃああれだけ華麗な戦闘を見せられちゃダメだなんて言えるわけないじゃないですか! ぜひぜひつけてくださいよ!」


「そう言ってくれると思ってたよ。ありがとね!」


「他に装備が取れる場所とかあんのかな?」


「やっぱり人脈とか使って口コミみたいなの調べないと分かんないんじゃないですか? 欲張りすぎはダメですよ」


「お店で買ったりはできないのかな?」


「《白都》のマーケットに行くとか自殺行為だろ……」


 また1つ、コンテンツをクリアしたんだと余韻に浸りながらそんな雑談をしばらく続ける。


 こんな場所でしか日本語の発声練習できないからな……という理由もやはり捨てられないが、このメンバーでうだうだ喋っているのが何だかんだ言って楽しいと思っている、というのも今では理由の一つだと断言できる気がする。


 気づいたら長い時間チャットをしていて寝る時間が遅くなった、なんて経験は俺にはない。


 けれども今なら分かる。ゲームでも現実でもそんな事が思えるのはかなり恵まれてるんだと。


「……ん? メッセージ? フレンドいないのに?」


 ふとメッセージを受信したという通知が届く。心当たりなんてないんだけどなあ……。


「スパムですか」


「スパムだね」


「だよなあ……。現実の迷惑機能なんてわざわざ入れなくてもいいのになあ……」


 満場一致で嫌がらせだと斬り捨てる。スパムメールの送り方なんて存在するのかとどこか感心しながらメッセージを表示する。


 とりあえず文面が面白ければネタにしてやるか、そんな気持ちでいたからか。


「……は? どういう事だよ?」


 そんな間の抜けたコメントしかできなかった。いや、スパムだと思わなくても同じ感想を返しただろう。


 差出人は蝶野。《白都》陣営の人間で何とも言えない関係を築いた数少ない知り合い。


 その文面はこういうものだった。


「《白都》が陥落しました。《黒都》側のプレイヤーを倒すために力を貸してくれませんか?」

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