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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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魔法のかかった敵の手札

「行くよ! 私のGMに認められた力! すなわち公式チートだよ!」


 そう言って近くにいるだけでも熱を感じるくらい強い、桁違いの《陽光》をツグミは放った。


 バアアアアン!! という花火が上がったかのような音と共に、日光を遮断していた薄暗い木の葉を吹き飛ばす。


 暗い葉に覆われていた森の天井は円状に穴を開けられて一変する。


 果たして、まだ地面に届かないのかと燻っていた日光が堰を切ったように溢れ込んだ。


「――!――!――――!!」


 《エクストリームウッド》は自慢の健脚で逃走を図ろうとするも、光速を超えるなどできるはずもない。


 一歩目を踏み出そうとするよりも早く体全てで光を受け止め、その光量に押し潰される。


「な、なんですか、今の……」


「ユウちゃんには話してなかったね。これは過去にやったイベントの補填だよ」


 流石に度肝を抜かれたらしいユウハが腰を抜かしてへたり込みながら聞くが、ツグミはそれにあっけらかんと答えていく。


「い、いや、待て。星野に向かって俺が使っただろ。あれでストックは無くなったんじゃないのか?」


「何言ってるの? 2人でMVPを取ったのならその報酬は当然2人共に渡されるものでしょ。アラタの攻撃を兄さんは普通に受け切ったから私は敢えて使わなかったんだよね。それよりもこんな感じの状況で役立つかもしれないって思ったし」


「はあ……さいですか……」


 無茶苦茶なように見えて筋は通っている。それにまあ助かったんだし異議を唱える理由もないか。


「アタシの可愛い下僕を一掃だなんて……。うふふ、いいわねえ。アナタ達、とっても魅力的だわ……。さあ、もっと痺れるような体験をさせてちょうだい!」


 突如として魔法陣が地面に描かれる。赤雷が乱れ飛んだかと思うと衝撃波が続いて押し寄せる。


 程なくしてそこに立っていたのはいかにも魔女といった風体の女性。


 目深にかぶった、ハロウィンのコスプレで見かけそうなつばの広い大きな帽子と真紅の髪がその顔を隠している。それでも息を呑むような美貌が隠されている事は明白だった。


「こそこそ隠れて攻撃するだけかと思ってたのにまさか姿を見せるなんてな」


 挨拶代わりと言ってはなんだが軽く挑発を試みる。


 《エクストリームウッド》はそんな悠長にしている俺達を襲いにはこない。


 なぜなら日光が差し込み、周囲の地面を円状に照らしているから。光を知らない森と陽を浴びる大地。この境界は決して消える事のない防衛線だ。


「このアタシ、アルティーナが直々に戦ってあげるというのよ? もっと喜びなさい?」


 安い挑発など意に返さず、ふとアルティーナと名乗った魔女は周囲を見渡す。光の当たる舞台に立つのは俺達3人とアルティーナのみ。


「だけど、これじゃあ寂しいわよね。もっと面白い下僕でも呼ぼうかしら」


 そう言って指を鳴らして魔法陣を展開する。《月光》を放つ黒色や《陽光》を放つ白色とは明らかに違う、俺達からすれば異質な赤い魔法陣。


 異質な点は他にもある。俺達は基本的に空中に魔法陣を描き、そこから魔力を放つ。


 しかしアルティーナが展開させた場所は地面だった。当然そこから魔力を放っても俺達には当たるはずもない。程なくして彼女は違う使い方を見せる。


「来なさい! アタシの下僕! 《バレットウルフ》!」


 複数の魔法陣から、まず太い前足が生えてくる。それは地面にがっしりとしがみつき、魔法陣に隠れていた頭部、体、後ろ足をゆっくりと引っ張り上げていく。


 茶色い体毛に覆われた獣が5体。四足歩行のくせに二足歩行の俺達を軽く見下ろすとはどういう了見か、と憤りたくなるような体躯。


 見た目だけで分かる。単体でも中ボスとして扱えそうな巨大な狼が横一列に並んで俺達を見据えていた。


「さあ、思う存分踊りなさい?」


 宣言と同時にさらに魔法陣を展開。これは親の顔よりも見た純白。牛が赤色を見て興奮するように、俺も本能で狩らねばと奮い立たせられる、そんな色だ。


「あはははっ!!」


 《陽光》が撃たれた時には既に前に躍り出て《夜叉》で掻き消していた。ワンパターンにして対策の立てられない最善手。しかしそれだけで済むほどボス戦は甘くない。


「グルワアッッ!」


 咆哮は背後から聞こえた。つまり《陽光》を掻き消した隙を突いて背後に狼が回り込んだという事。


「大人しく喰われると思うなよ」


 体を捻り振り向きざまに《夜叉》で切り裂く。《晦冥》たる俺のメインウェポンだ。相手が《光》でなくともかなりの火力を出してくれる。


「ガ……アオオン……!」


 飛びかかろうとする俺より遥かに勝る巨体を右腕1本で吹き飛ばす。雑魚を大量召喚するとは言え、着実に対処すればやれない事はない。そう思った矢先だった。


「――爆ぜなさい」


 そのアルティーナの一言と共に《バレットウルフ》の体が光る。光ると言ってもそれは属性で言うところの《光》ではない。かと言って日光のような自然光でもない。


 それは目を眩ませ、その後に致命傷を叩き込むための布石としての光。魔女は爆ぜなさいと言っていた。なら次の行動は予想できる。予想できるが――、


「これは防げないだろ……!」


 直後、爆発に飲まれた俺の体は投げ出されて地面を二転三転する。体中の痛覚が消えたような錯覚を覚えながら地面に打ち伏してしまう。


「先輩!」


「本体近くで戦え……!」


 爆破攻撃もアルティーナ自身を巻き込む可能性があるなら早々撃ってはこないはず。2人が俺の二の舞にならないよう指示を出す。


「ユウちゃん、アラタにポーション飲ませといて! 攻撃は私がやるから!」


 そう言って日本刀を水平に何回も薙ぎながらツグミは進む。乱舞する《光》の刃は《バレットウルフ》を寄せ付けず、アルティーナの《陽光》をも打ち払い、ツグミの突破口を作り出す。


「や……あああっ!」


 素早く刀を振り、迫るたびに激しくなる弾幕を斬り捨てながら跳躍。そのままアルティーナの喉元に鋭い刃が届こうとしたその刹那の事だった。


 《エクストリームウッド》、《バレットウルフ》に続いてさらに驚くべき事態が起きた。


「嘘、消えたの……?」


 まずアルティーナの体が瞬間移動した。速く動いただけなのかそれとも魔法か何かを使ったのか分からない。それでも一瞬で空へ、ツグミの跳躍でも届かない高度まで移動していた。


「先輩、後ろ!」


 ユウハが叫んだ時にはもう手遅れだった。


「ダメよ、そんなに弱点を無防備にしちゃ……。襲いたくなるじゃない?」


 そしてアルティーナは魔法陣を展開する。その色は、この森の葉よりもどす黒いまさに漆黒。


「あれは《月光》!? マズいツグミ! 属性を変えろ!」


「遅いわよぉ!」


 《光》を穿つ漆黒の魔弾は無防備なツグミの背中をあっさりと撃ち抜いた。


「きゃああっ!?」


 金髪になった今のツグミは《光》の属性配分が100%だ。ましてや攻撃したのは魔女。魔法攻撃に優れていないわけがない。


「あははははは!! あははははははぁ!!」


 ツグミに痛撃を喰らわせただけでは飽き足らず、《光》と《闇》のコントラストを描き続ける。


「私が防ぎます……!」


 咄嗟に《流麗模倣》で撃ち合いに応じるユウハ。しかし、


「あっ……!?」


 後方の《バレットウルフ》、その体がバラバラになったかと思うと小さな玉のようにその1つ1つの形が作り変えられる。その姿はまるで散弾のよう。そして我先にと全弾がユウハに襲いかかる。


「そん……な!」


 ユウハの《流麗模倣》は1人の動きを魔力が続く限りコピーし続ける。俺達と戦った時は器用に使い分けていたが、味方がダウンしている状態で、しかも全方位を警戒して使い分けるというのは如何にゲームの世界と言えども可能にはしてくれないようだった。


 各々が立て直せない状況まで追い込まれ、地面を穿ちながら迫るいくつもの《月光》と《陽光》に塗り潰される。


 恐らくはここでゲームオーバーだろう。だからせめて蘇生した後の事を考えようと思考を切り替える。


 ――取り巻きをどう潰す?誰かに引きつけさせてその間に残り2人で本体を狙うか?奇襲をかけるか?どこからなら死角を狙えそうだ?


 いくつかやり口は浮かびはするが、いずれにせよ蘇生してから2人と相談する事になるか……。そんな諦観と共に俺の意識は再び無に溶けていく――。



 *



「ん……眩しいな……」


 そう言って瞼を開ける。流石に3回目ともなると蘇生する感覚というのも慣れてきた。眠りから覚めるようなそんな感覚に似ているな、と思う。


「やられちゃったね。とりあえず今度は奇襲でも狙ってみる?」


「やっぱツグミもその方針か。まあ、俺達の基本戦術だしなあ」


「んー! やっぱり通じ合ってるっていいですよね! ずっとついてきて正解でした! はあ……たまんないです……」


 物事を偏見の目で見る事は誰しもある。それは普通の事だし俺もするからそれについてはなんとも思わない。しかしこれは偏見というか全く別のものを見ているような気がするのだが。


「アホな事言ってないでユウハも知恵を出せ。正面からゴリ押しされたら勝てない……ぞ……」


 毒を吐きつつ体を伸ばしたその瞬間だった。声が枯れる。


 そんな、馬鹿な。ありえない。だってさっきは違っただろ。反論する相手も同情する相手もいないまま虚しく抗議は頭の中を抜けていく。


 この光景は他の奴が見れば偶然だと一蹴するかもしれない。それでも俺は偶然じゃないと、理由は説明できないがそんな気がしてやまない。


 とにかくおかしい。頭の中ではそればかりがシュプレヒコールを起こしている。だってそうだろ。


 蘇生地点がボスの目の前なんて、偶然で起こっていいものではないからだ。


「うふふ……。アタシはまだ踊り足りないの。まだまだ付き合ってくれるでしょう?」


 アルティーナの獲物を捕らえるような、蠱惑的な笑みとその視線が俺達を睨め付け雁字搦めにしているようだった。

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