今日の議題は樹海について
「《ブルーウッドプレーン》ねえ……」
《黒都》入り口で蘇生した俺とユウハはなんやかんやで降りかかってきた火の粉を払い、図書館内にいるツグミと合流した。
現在《黒都》と《白都》の全面戦争、その前哨戦が始まっており、ほとんどの連中が《白都》に出払っている。その反対に《白都》の連中が押し寄せて来ないあたりは倒した敵の人数で勝敗が決まるシステムだからとかそんな理由なのかもしれない。
まあそんなわけで図書館だけに限らず《黒都》はゴーストタウンと化している。ぼっち系プレイヤーにはおあつらえ向きだとも言える。そんな図書館でダラダラと俺達は作戦会議の真っ最中なのだ。
「アラタ、行く前からため息ってどうかしたの?」
「いや……ただ安直だなあと思って……」
《ブルーウッドプレーン》とか言ってたが要するにモチーフは青木ヶ原樹海だろう。《バベルの長城》といい、地名は現実からとってきているのだろうが、もう少しうまい使い方はなかったのかGMよ。
「だいたいどんな場所か説明が省けて便利なんですけどね」
まあ運営にもこんな風に考える奴がいるって事なんだろうな、などと考える。
「けれどそれじゃあ割と難易度高そうだよね。生きて出られない、みたいなキャッチフレーズなかったっけ?」
確かにそんな風に言われたり自殺の名所だのなんだのと言われている。しかし実際はそうでもない。
「言うほど方位磁針もズレないし、あれはただの噂らしいですよ。しかも自衛隊があそこで訓練してるらしいですし」
俺より早くユウハが説明する。もしかしたらこの図書館で本でも引っ張り出して得た知識なのかもしれない。
「ま、ゲーム内補正がかかってとんでもない森になってるかもしれないけどな」
「初イベントの《バベルの塔》ですらやりたい放題だったもんね……」
苦笑するツグミを見ながらあのイベントを振り返る。
物理法則を無視した硬さと動きを実現した謎のゴーレムに会話禁止ギミック。果ては単体に即死級のダメージを放つ技を全体にぶっ放すバグまでやってのけた。
ゲーム内の自由度が高いのはいい事だが別にエネミー相手にそこまでの自由を求めていたわけではないんだけどな。
「つまり最深部だと何が起きても文句言えないんですねー」
陽キャがやたらと悪役にされた俺達の武勇伝を聞きながらユウハがそんなコメントを漏らす。
初めて声をかけた時のオドオドした様子はもう感じられない。まあゲーム内で性格変わるやつはさして珍しくもない。そういう類の人間なのかと思いながら例の樹海について聞く。
「それで? 《ブルーウッズプレーン》で何をどうすりゃ魔力が上がるんだ?」
さっきの口ぶりから察するに最深部とやらにはまだ行っていないと考えられる。それなのにあそこまで魔力強化できていたのはどういう事なんだ?
「ざっくり言うと森のモンスターを倒してドロップするポーションを飲めばステータス強化ができる、そんな感じでしょうか。ソシャゲによくある規定値まで強化できる系のあれです」
「なるほどな」
~系だのあれだのと本当にざっくりした説明だがそれとは裏腹によく分かる。ちょいレアキャラとかを合成して攻撃とかHPを上げるソシャゲには不可欠のあの要素。
覇権握ってるキャラに駄目押しで強化するもよし、愛のままに推しキャラを最強にするもよしという、プレイスタイルで地味に差が出るコンテンツだ。
「この強化もどこまでできるのか、とかはさっぱり分かりませんが限界はあると思います。で、そのためのアイテムは比較的すぐに手に入るんですよね」
そう言って何本かインベントリから出して机に置く。栄養ドリンクみたいな瓶にはポーションとは違い、薄い緑色の液体を湛えていた。
「飲めばラベルに書かれたステータスが強化されるらしいですよ」
見ると左から順に《火力》、《体力》、《敏捷》、《魔力》と書かれている。STRとかDEXみたいな略称にされてないからとっつきやすい感じはする。
「じゃあ他のプレイヤーもすぐ集められるって事か」
もちろん星野も含めて、そんな意味を込めてツグミへと向き直る。当のツグミも肩をすくめて、
「兄さんがこれに気づく前にサッと強化して強引に押し切ろうか?」
確かに全ステータスを強化して戦うなら多少は有利にはなる気もするが、それだけでアイツに勝てるのかどうかは不安が残る。
公式チートを防がれた衝撃はそれほどまでに大きかった。いやらしく俺の脳裏にくっついたまま離れない。
「……ま、あれだよ。戦闘経験も同時に積んでそれで圧倒すればいいよ! 兄さんと私達には決定的な違いもあるし」
無言の俺にそんな事をぽつりと言う。そのまま軽く手を叩いて注目を集める。
「とにかく。《ブルーウッズプレーン》に行って強化アイテムを大量入手。あわよくば他プレイヤーに売りつけるって方針でいいよね?」
「ついでに入手場所は嘘でも流して混乱させても楽しそうだな」
「あ、いいね!」
wikiもなく注目度の低いコンテンツならデマを流し放題だ。星野が強化されるまで時間も稼げるし、相対的にではあるが俺達が多数のプレイヤーに対して優位を保てる。最高じゃないか。
「私は構いませんけどそんな小細工してる暇はないと思いますよ。本命が残ってるんですから」
俺達の発案を肯定しつつそうつけ加えるユウハ。……《黒都》に集まってるプレイヤーという時点で察すべきだろうが良心というものを全員捨てているのではないだろうか。
「本命? 雑魚狩りがメインじゃないのか?」
「や、私1人じゃ行けないので放置してたんですけど実はダンジョンが続いているらしいんですよ。何でもそこには世界に1つしかないアイテムが封印されてるんだとか」
《バベルの長城》の高額賞金みたいなシステムがここにも出てくるのか。
「にしてもNPCみたいな事を言うなあ」
「NPCから聞いた情報ですので」
ペロリと舌を出してそんな事を言う。NPCが時たま重要な情報をくれるというのはこのゲームでもセオリーらしい。
「それにしてもNPCには人見知りしないんだね」
「そんなわけないじゃないですか! ボソボソなんとか頑張ったんですよ! 背に腹は変えられないって言いますし」
やだなーと手をひらひらさせながら切り返す。本当、よく分からない奴だよな。俺は人の事言えないんだけど。
「じゃあ強化アイテム回収とダンジョン攻略が目標だね」
「他の人に知られてない今のうちに攻め落としちゃいましょうか」
そう言って話が落ち着いたタイミングを見計らったかのように世界が白く発光する。包み込まれた者を現実へと返す光。
俺達からすればおもちゃを取り上げる忌々しい親のような存在なのだが、陽キャの奴らはどう思っているのだろう。
「ではまた今晩お会いしましょう。お疲れ様でした」
「「お疲れ」」
「あ、ハモりましたー!やっぱり息ぴったりじゃないですか!」
姿が消える最後までそんな事を言っているあたり、ブレないなあと若干呆れつつログアウトを見送る。
「楽しい子だったね」
「まあ退屈はしないよな」
「それにしてもこうやって雑談してダラダラするの、久しぶりだったけど楽しかったよ」
「ぐう分かる。陰キャ同士の雑談は楽しいよな」
波長さえ合えば俺でも雑談を楽しむ程度の能力は備えている。社会不適合者予備軍と言えども国語力は人並みのつもりだからな。
問題は波長を合わせられる人間がいるのかいないのか分からないレベルで少ないという事か。ちなみに画面上の女の子は凄く波長が合いやすいのはここだけの話である。
「あーあ、起きたら学校が始まるんだね……」
「……頑張って耐え抜くんだ……」
ツグミに言ったようで自分をも鼓舞している、全体バフみたいな台詞と同時に視界が明滅する。そのまま俺は2次元から3次元の世界へと強制送還されてしまう。
とは言え学校での出来事などそうそう記憶しておこうとは思わない。現実でも図書館で時間を潰してみた、くらいは覚えておいてもいいかもしれない。学校の図書館も人が少なくて悪くない雰囲気だったし。
他はもう無味乾燥を極めたような生活だ。ただ行って帰ってくるだけ。他人に語れるようなものじゃない。や、本当に何もなさすぎて語れないんだ。他意はない。
そんな俺の記憶は改変される。具体的に言うとログアウトしたと思ったら次の瞬間にはログインしている、ソシャゲとか好きに呟くSNSを閉じた先から1分と経たずに開き直す感覚に近いか。
え? そんな事しないって? これを経験してないゲーマーとかオタクはモグリだと思うんだがどうだろう。意見があるなら聞こうじゃないか。話が逸れた。
とにかく、そんなわけで俺達は樹海攻略へと乗り出したのだった。




