人のふり見て我がふりは―― 後編
「《蝶旋風》!」
その言葉と共に起動した嵐は予想以上に大規模なものとなっていた。
それもそのはず。汐月は俺の《蝶舞剣》を全て受け止めてみせたから。それも同じナイフで。
《蝶舞剣》は斬った際に流す魔力と同じ場所を斬った回数によって威力が上がっていく。
さらに汐月相手にこの能力を使用した場合は目を瞑って振るったとしても、攻撃はコピーしたナイフの位置に収束する。
つまり攻撃位置の縛りはなくなったも同然だ。そして魔力については《晦冥》の補助でカバーできる。お膳立ては完璧。まさに理想的な状況。今現在出せる火力の限界値が出るのではないか。
そんな期待に応えるかのような嵐は汐月を取り込み、なおも激しく荒れ狂う。
「あわわっ!?」
体の小さな汐月では支えきれないほどの力に揺られ右へ左へ。どっしりと構えた重厚な本棚、派手な装飾のついた辞典のような分厚い本、などなど辺り一面が凶器に変わる。
しかしそんな風に体の自由を奪われてもただでは倒れない。そんな執念を汐月は見せる。
「死ぬくらいなら道連れですよ!」
そう言って手を伸ばす。風に揺られて向けられた方向が千変万化するが、対象が俺だという事は察せられる。と、その時だった。
「なっ……!? お前……っ……!」
向けられると同時に新たな嵐が生み出される。《蝶旋風》をぶつけてからここまでわずか数秒の事だった。
理由は考えるもなくコピー一択だ。だからといって能力全てをそのまま突き返すのは反則ではないか。
そんなルールへの異議申し立てをしているうちにその嵐は汐月を閉じ込めていたものと合体し、勢力を拡大させていく。
暴風域は拡大するも、図書館の外にまで領土を広げるつもりはないようだ。しかしそれは裏を返せば図書館の中一帯は苛烈な竜巻渦巻く地獄。
とはいえ永遠に俺達を苦しめるほどのスタミナは持っていない。
「きゃああっ!」
「ぐっ!」
しばらく全員を縛り付けていた嵐は突如として消え去る。オリジナルの能力じゃないので分からないが一定時間吹き荒れるパターンじゃないだろうか。
威力の高さは折り紙つきだがそれでも地面に叩きつけられた俺達の体は光らない。死亡判定はされず。つまりまだ戦える。
「この威力までコピーできるなんて規格外だよね」
「それにしてもポーション全部飲まされるとは思ってなかったな……」
コウという強敵すらも圧倒した嵐の中で俺達が生き残れたのはポーションをずっと握っていたから。
うっかり未知の能力にハメられて即死しないようにインベントリから出しておいたのが偶然に役立った。チキンプレイ精神はやはり大切という事だろうか。
しかし《蝶旋風》が来るまでに何本か飲んだのもあり、手持ちの回復アイテムは尽きてしまった事になる。
それはツグミも同じらしく、空のポーションの瓶をふるふると持ち上げる。
「ついにポーションが尽きましたか。しかし私は後2本も残っていますよ!ふふ、中々のハードモードになってきたんじゃないですか?」
愛の力が試されますねーとか言いながら実体化させたポーションを左右の腰に1本ずつ吊るしていく。狙って破壊したいところだが攻撃を相殺する以上、それは難しい。
「まだ2本も持ってやがるのか……」
「ねえアラタ。ちょっと妙じゃない?」
「妙?」
「うん。あの子はコピーするのに魔力を使うって言っていたのに減りが遅くない? 少なくとも私達と同じくらいのペースで減るものじゃないかな?」
確かにそう言われればひっかかる。仮に対象と同じだけの魔力を消費すると考えても俺とツグミの二人がかりで攻撃しているのだ。魔力が枯渇しないわけがない。
――じゃあ魔力消費と威力を控えめにしているのか?
否だ。そんなスペックで俺達の火力を相殺できるはずがない。
考察がないない尽くしで埋め尽くされる中、汐月が得意げに口を開く。
「私はこの2日間、ただカップルの様子をこそこそと追っかけ回していただけじゃないんですよ。つまんないカップルだと思ったら秘密の場所で特訓してたんですよ。おかげで魔力量だけはかなり多いんですよ!」
「秘密の場所ねえ……」
L&Dがサービス開始してからまだだったの2日だ。そのくせアホみたいに広いフィールドを作ってるんだ。
まだまだ知らない要素があるには違いないが、ここまでステータスを上げるシステムが存在するのか?
「なあ。もしも俺達が勝ったらそのインチキな場所を教えてくれないか?」
「いいですよ! その代わり私が勝ったらお2人はカップルだって認めてもらいますよ? 違うのならこの場でカップル認定して広めちゃいますが」
「陰キャ側のくせに舐めた事言いやがって……。やれるもんならやってみろよ」
「ちょっアラタ!? 勝手に話を進めないでよ!?」
目を剥いて何口走ってんの!? と騒ぐツグミにこう諭す。さっきまで自分も似たような事を言ってたくせに。
「勝っても何もこうするのが最善だろ」
「カップル認定されるのが?」
「アホか。死んでもゴメンだ。……けどな、魔力増幅は星野攻略には必須だと思う」
星野と正面からぶつかるのに有利な手札は現状存在しない。公式チートすら耐え抜く相手に普通にレベルを上げただけで勝てるとは思えない。そもそもあっちだってレベルは上がる。
しかし汐月ばりの無尽蔵の魔力があったら? 高威力の能力を乱発させれば、もしくは魔力にモノを言わせた戦法を開発すれば、あるいは。
「確かにそうだね……分かったよ!」
俺の説得に納得し、そして意を決したのか刀を握り直してツグミが前に出る。それと対象の像を作りながら汐月も構えを見せる。
しかし正面から斬り合われても困る。わけのわからないうちにカップル認定されるのがオチだ。だから、
「ちょっとツグミは退がって。俺、必勝法を思いついたから」
と言って俺が前に出るようにする。今度は周囲を巻き込まないように《夜叉》を右腕に纏いながら。
「必勝法ですか……。本当にそんなのあるんですか? 私的にはそんなの思いつかないんですけどね」
「攻略法があるのがゲームだろ。だったらなんの弱点も無しにGMが能力を認めるとは思えない。つまり全ての能力には必ずどこか穴があるんだよな」
「そこを突くと。ではではお手並み拝見といきましょうか!」
言って俺と同じように《闇》を纏う。他人に能力を真似られるのは少し不愉快なのだが、俺が日常的にやっている事なので強く言う事もできない。
「見せてやる! こうすりゃ絶対に勝てるんだよ……!」
跳躍とともに叫ぶ。そうして側から見れば奇天烈な一手を打つ。そう文字通り一手だ。
それだけあれば絶対に勝てる。その確信と共に、俺はそれを貫いた――。




