増えるコピーのバリエーション
「とおっ!」
高いテンションと共に勢いよく汐月が迫り殴打を繰り出す――力任せに。
「当たるかそんなの」
ここはゲームの世界。へなちょこでもなんでも勢いよく殴ればある程度はHPを減らせるようになっているはずだ。そうじゃなければヤクザが無双するリアル格闘ゲームにしかならないしな。
だから下手に受け止めるよりは躱した方が安全だと俺は考える。威力には補正が掛かっていても身のこなしや戦闘技術までには流石に補正はないだろう。
なら、能力か何かでバフでも守られない限り躱すことは割と楽なはずだ。それもこんな少女相手ならなおさらだ。
「《夜叉》」
飛んで距離を取りながらボウガンを片手に構える。片手に《蝶舞剣》、そして空いた手にはボウガン。遠近両用の構えだと言える。
このまま牽制射撃をしつつ本命の《月光》で捉えるつもりだった。
――汐月が俺と同じようにボウガンを構えるまでは。
「!?」
驚きのあまり力が入って引き金を引いてしまう。パシュッというような音を響かせ一直線にボウガンは飛んでいく。
それに合わせて汐月もボウガンを引き、矢と矢が見事にぶつかり合う。物の見事に勢いを相殺されて2本の矢は地面に落ちた。その矢がカランと音を立てた時には既に汐月は行動を開始していた。
「ほっ!」
またも愚直な突撃。しかし俺も突撃をしつつ様々な手で隙を狙う事はよくやった。今もしている。だから油断はできないな。
そう戒めつつ《蝶舞剣》を高速で水平に一閃。当たらなくとも速さと間合いを警戒させる。そのつもりだったのだが、
「甘いですよ!」
余計な力を抜いた自分ですら手元が見えないくらいのまさに会心の一撃だった。それなのに向こうはその剣筋を捉えているかのように《蝶舞剣》と何かを打ち合わせる。
「はあ!?」
当たるかもしくは避けられるだろうとは予想していた。しかしまさか打ち合うとは思わなかった。
ボウガンで応戦していたから、離れすぎずに動き回りながらボウガンを撃ちまくるのだと勝手に決めつけていたのだが当てが外れたらしい。
「隙ありです!」
言いつつまたも芸のないパンチ。先程の剣速とは比べものにならないほどへなちょこだったが、そう思うのはもう少し先だ。
弱かろうが何だろうが意表を突かれれば動きは止まる。そこを狙われた。
「あはは!」
システムの補助を受けたパンチは星野ほどではないにせよ俺を仰け反らせ、ダメージを与える事に成功する。
「ちっ、この借りは倍にして返してやる……!」
言うと同時に倍返しを試みる。……まあそれは俺じゃないんだけど。
「返すのは私なんだけどね」
ツグミは金髪の長髪をなびかせながら本棚を足場にして宙を舞う。
汐月は《黒都》に居着いたプレイヤー。ならば《闇》の配分が高いのは道理。
そこを突くべく《白百合》を携えて華麗に斬り込む。俺の文字通り、取ってつけたようなナイフ術よりもよっぽど強力な剣術だ。倍返しどころか3倍返しくらいにはなるんじゃないかと期待したのだが、
「さっすが想い合っている2人は連携が違いますね! 凄く萌えます! でも、それとこれとは別ですよ!」
勘違いを暴走させたまま汐月の口は止まらない。と思っているといつのまにか汐月の手に日本刀が握られているのが目に入る。
それだけならまだよかった。汐だが月はそれでツグミの斬撃を1つ残らず受け止める。とてもにわか仕込みとは思えない。
「何でよ!?」
全て捌いてさらにはカウンターを返す。弾かれたツグミは本棚の方へと吹き飛ばされる。
「……まだだよ!」
本棚に両足をついて衝撃を殺す。その勢いを受けて本棚がバタバタとドミノ倒しのように崩れていくが、ツグミはお構いなしに斬撃を飛ばす。
「それなら私もできますよ!」
そう言ってツグミが放ったのと同じような斬撃を飛ばし、俺の《月光》と同様に相殺させる。
「……まさかこいつも他人の能力を奪えるのか?」
能力はプレイヤー自身が好きに作る事ができる。日本人のほとんどが遊んでいるこの状況では細かい部分は違ってもある程度似通った能力ができる可能性は割とよくありそうな気がする。
攻略wikiのオススメ編成を丸コピする輩だって一定数いるんだ。そんな奴らが戦いやすい能力の情報を見つけて似たようなのを身につけるのは普通だろう。
それ以前に全員が全員違う能力なんて無理だ。十人十色とか千差万別とかいう言葉はあるが1億人以上を対象としたそんな熟語は存在しない。すなわちそこまで多様性に富ませる事は不可能だと認めている事に等しい。
話が逸れた。とにかくこいつの能力を当てないと話にならない。どうすれば……と悩んでいると、ツグミが口を挟む。
「でもさ、能力を奪えるとしてもこんなクオリティで使えるの? はっきり言ってアラタよりコピーの精度高くない?」
「そこだよなあ……」
《晦冥》みたいな特殊な例ですらこのコピーの精度なのだ。それをあっさり上まわられるのは納得いかないと同時に怪しい。
「……となると多分コピーはコピーでもこういうコピーなんだろうな」
そう言って走り出す。右手に握ったのは《蝶舞剣》。そして走りながら黒い石板を空中に浮かばせる。
足場を増やした三次元攻撃。もはやお決まりのコンボとなりつつある。
「それくらい見切れますよ!」
しかしそれすらも余裕綽々で捌いていく汐月。高速で閃く手元は俺と同様、目で追いきれない。
……しかしこう何度も見せられれば驚きは薄れていくし、ネタだって見当がつくものだ。
「違うだろ。お前は見切ってなんかいないだろ」
途端に俺は斬撃を汐月と自分の中間あたりで止める。
「え……?」
ツグミは恐らく、無防備になった俺の《蝶舞剣》が弾かれるとでも予想したのだろうか。だからこそこの結果には驚く事になる。
剣が止まってるのは汐月も同じ。当の汐月は驚いたというよりはしまったというような自身の失態を惜しむ表情だが。
「……これがお前の能力の正体だな」
そのまま止まった汐月の手首を強引に掴む。その刹那、俺の手首も汐月に掴まれる。予想はしていたがそれでも驚きは消えなかった。
まあ、人の体を掴むのも掴まれるのも、ついでに言うと声をかけたりかけられたりするのも慣れてないから過剰反応してしまうのは仕方ない。
そんな余計な事を思いながら汐月の手をじっと睨む。
果たしてその華奢な手には黒い短剣が握られていた。それも刀身に蝶の刻印つきで。




