疑われる2人の関係性
おつかいクエストは面倒だ。異論は認める。しかし俺は面倒くさいとどうしても思ってしまう。
わざわざ何回も街を行ったり来たりするのが本当に面倒なんだよ。シナリオに関係のあるおつかいならまだ分かる。
けれど雑用系もあるじゃん。あれは本当になんなの。嫌がらせだろ絶対。他にもアイテムを集めさせた後に足りないアイテムに気づいたからこれも集めてね! みたいなのもしんどい。足りないのが分かってるのなら即連絡してくれ。使えない子だと思われてしまうぞ。
まあ今進めているおつかいクエストはそういう意味ではつまらない、という事はないのだが。
「ゲームの中でリアルの本を読めるなんて驚いたな」
「国会図書館にある書籍全てにアクセスできるようにしてるらしいよ。国が運営だとこういうのが強いよね」
本棚を物色しながらそんな事を話す。イベントのせいで大半のプレイヤーが《白都》に攻め込んだか《黒都》から避難した状況だ。騒がしくしても誰も責めない。
ところでL&Dの運営費は国の税金から出ているらしい。それも睡眠不足は国の死活問題なだけあって結構な額が注ぎ込まれたらしい。
多分そこらのゲーム会社の予算とは比べものにならないだろう。本をデータ化して公開するなんて手間と金がいくらかかるのか分かったもんじゃないし。
おまけに電子書籍みたいに閲覧するのではなく、ご丁寧に本の形を保っているのだ。制作サイドに紙の本の良さが分かる人がいるんだろうか。なんにせよ神仕様だと言わざるをえない。
今の政権が変わったらサービス終了の可能性とかあるのだろうか。そんな事をふと思う。それともかなりの数を占めるゲーマーの票を根こそぎ集めるためにこんな政策を打ち出したのか?
まあ政治はよく分からないしゲームができれば俺は何でもいいんだけど。
「漫画が充実してるな、ここ……」
と言ってフラフラと漫画コーナーの本棚を上から下へ眺める。最近アニメ化されたラブコメの新刊までもが存在するのを確認する。
休憩のつもりでこれでも読もうかと手を伸ばした時だった。
「あっ……すみません……」
「いや、こちらこそ……ってお前は……!」
「? 私がどうかしましたか?」
伸ばした手が触れたのは単行本ではなく誰かの手。すぐ謝ってきたからこちらも謝り返す。軽く会釈して顔を上げるとそこには写真と瓜二つの少女がいた。
「アラタ、どうしたの? ……あっ!」
ツグミもおつかいクエストが即刻終了した事に気づいたらしい。しかしどう話を切り出せばいいんだ。
ストーカー系の女子があなたの動向を気にしています、と言えばいいのか 初対面の俺が?
馬鹿だろ。あるのかどうか不明だがブラックリストに放り込まれるのがオチな気がする。ど、どうする。どうすればいい?
これまでもどう動けばいいか悩んだ場面はいくつもあった。が、ここまで悩んだ事はないと思う。そもそも今回は選択肢が皆無に等しいし。自動で3つくらい台詞の選択肢が出てくる機能はまだ実装されないのかよ。
そんな感じで悶々として不審者予備軍になっていると、
「こんにちは。汐月さんだよね? 蝶野って子がゲーム内であなたが何をしているのか知りたがっているんだけど教えてくれない?」
ツグミが一気に斬り込んだ。戦闘、非戦闘お構いなく肉薄するなあこいつ。
「いや……急にそんな事言われても困るんですけど……」
「そりゃそうだよな……」
いきなり個人情報を教えろなんてゲーマーが承諾するはずがない。よっぽど阿呆でない限りそう答えるのが普通だろうな。
「やっぱりダメだね。《白都》の人間っぽく振る舞ってみようとしたけど全然上手くいかないね」
「《光》50%で無茶するなよ」
「……《光》が50%って、もしかして噂の《黄昏》ってやつですか?」
あまり誰かと一緒に行動しなさそうなイメージを与える女子でもそれについては知っているらしい。どうやら《黒都》や《白都》といった場所を問わず俺達の能力が知れ渡ったという事か。
「あ、そうだよ。気になる? そっちの情報と引き換えに多少は能力を教えてもいいよ?」
俺と蝶野のやりとりから能力の情報が価値を持っていると判断したのかそんな取引を吹っかけるツグミ。確かに能力も一種の個人情報だし取引材料として、ありと言えばありだと思う。
「いえ……そこまでして聞きたくはないです……」
もっともこの人にどんなメリットがあるのかは全く想像できないが。
想像通りあっさりと断りを入れる。ツグミに引いているのか元々こういう性格なのかボソボソと不安げに話す姿はこっちまで不安になってくる。
背丈は俺達よりも少し小さい……中学生くらいか? 下手なスクショでも撮られようもんなら事案寸前の絵面の出来上がりだ。
スクショ機能があるのか知らないが不安を煽るには十分すぎる。
「……となると貴方は《晦冥》さんでいいんですよね……?」
「そうだけど……」
「2人の噂は聞いています……。協力してボスを倒したり、してるって……」
こちらに指を指しながらそう聞いてくる。能力がバレるのは痛手ではあるが、こんな風に注目される経験もないから少し面はゆくはあるが悪い気はしないでもなかった。
そんな事を考えて少し好感度が上がったその時だった。
「……という事は! やっぱり! お二人は付き合ってるんですよね!?」
「「……はい?」」
突如豹変した少女が頭のネジが飛んだような内容を爆音のような咆哮でもって図書館内に響かせた。




