ダブルブッキング
星野相手に手段を選ばず持てる手札を全て切りまくって何だかんだ逃げ切ったその翌日。
日記をつけろと言われたら白紙で出すしかないレベルで何事もなく平凡に、そして無為に過ごして1日が終わる。
どうでもいいけど日記はリア充のためにあるのだと俺は思う。友達もろくにいなければ学校と家を往復する、よくてゲーセンに立ち寄る程度で毎日が過ぎるはずだ。
こんな状態で何を書けばいいんだよ。日記帳のシステムもあれだよな。ツイッターみたいに短文を書こうものなら凄まじく貧相なノートになってしまう。というよりただの1行使われたメモ帳にしか見えない。
こう言って屁理屈をこねて敵前逃亡みたいな真似をし続けてるのがまずいのかもしれないがもう直しようはない。麻薬ばりに中毒性を帯びてきたこのサボり癖、克服するのは無理だろうなあ……。
だからこそゲームは捨てないでいようと思う。唯一必死になれて楽しめるものだし。のめり込んだとしても何も楽しみを持たない植物人間になるよりはマシだと思う。
一応言っておくとPK上等、他人の能力無法コピーの歩く海賊版と植物人間。どちらがマシかの議論はしない。どちらがいいかは、言うまでもないよな……?
*
「……しばらくは《黒都》に引きこもるかな」
《黒都》内にある喫茶店でコーヒーを飲みながらそんな事を呟く。それにしても《黒都》だからか知らないがブラックコーヒーしか無いのは欠陥じゃないのか。早々にパッチを入れて欲しい。
「自分から何かアクションを起こさないと何も得られないよ? ソースは私」
「そんなの誰でも知ってるっての。俺は分かった上で何もしないだけなんだよなあ」
そもそも俺のできる事なんてたかがしれている。それならばアクションを起こしても見返りは微々たるものだろう。そんなもののために必死になる理由などどこにもない。
「というかなんでここにいんの?」
当然のように向かい側に座るツグミに尋ねる。長い銀髪を結びもせずに好き勝手に放置している。《光》と《闇》の配分をいじっていないときは現実と同じ髪色になるらしい。
どうでもいいが兄を討伐するためにレベリングに励むとかそういう事はしないのか。
「だってアラタ、探し人がいるんでしょ。私もあの子には助けてもらったし手伝おうと思ってね」
「……あっ」
完全に忘れてた。《白都》脱出と能力を俺にコピーさせる代償として汐月ユウハとかいう女子を探す。蝶野と交わした約束だ。
「恩を忘れるとか蝶野さんのアテは完全に外れてるんじゃないかな……」
「それは俺も思う」
まあ何だかんだ言って思い出したうえですっぽかすのは寝覚めが悪い。
「……探しに行くか」
そう言って蝶野から送られてきたメールを開く。添付されているのは、目当ての汐月ユウハと思われる写真。
薄い茶髪は肩にかかるかどうかという長さ。《白都》にいるような髪を染めていかにもリア充してます! という雰囲気はなく、地毛がこういう色なんだろうと思う。
「結構可愛いね。上手く立ち回れば《白都》でもやっていけそうな感じがするね」
と、写真を覗き込みながらツグミが言う。
確かに《白都》の連中は美男美女が多いように感じる。ああいう空間で過ごすうちにあんな風になるのか、それとも元からそんな奴らばっかなのかよく分からないが。
なんにしろ《白都》にいても遜色ないルックスではある。人によってはこいつが1人でいるのはもったいなく感じるのかもしれない。
「ところでさ、《黒都》ってすごく広いよね。そもそも違う街にいるかもしれないのにどうやって探そう?」
「違う街にいる事はないと思うぞ」
そこだけは断言できる。
「その根拠は?」
「引きこもり予備軍のインドア派なら分かるだろ。1人でいるのに田舎と都会、どっちが過ごしやすい?」
「言うまでもなく都会だよね」
「その通り」
何かと暇つぶしのネタに困らない都会の方が1人には都合がいい。田舎にはネカフェみたいな施設すらあるかどうか怪しいからな。
加えて言うと、田舎みたいな小さなコミュニティでは人と接触する機会は避けにくい。エンカウントしまくって互いに無視する都会とは違うのだ。
つまり人目を避けるには逆に人の多いところに行く必要がある。ならば《黒都》のどこかにいるに決まってる。なんというジレンマか。
「じゃあ《黒都》のなおかつ人の少なそうなところを探せばいいんだね」
「ま、一番可能性が高そうなのはそこだよな。大人しい性格らしいし、図書館みたいなとこでも回ればすぐ見つかるんじゃないか?」
図書館にいれば無限に時間は潰せる。しかもここはゲームの世界。テストが近いから~とかほざいて馬鹿騒ぎする学生も来ない。最強じゃないだろうか。
「そうだね。それで行こうか」
「ん。じゃあGM、図書館の座標を全て教えろ」
そして俺は口を聞くマップ機能を呼び出した。
「また私を道案内に利用して……しかしいいのですか? 今からイベント第2弾が始まりますが」
「またやるのかよ。……ペース早くないか?」
ソシャゲのイベントでももう少し虚無期間があると思う。虚無期間を次のイベントまでの準備期間とするともう少し長くてもいいかと思ったんだが。
「確かに早いと思う方が多いかもしれませんね。ただ、これは次回以降のイベントの参考にするデータ集めも兼ねてますので」
「と言うと?」
「《白都》と《黒都》の2陣営でぶつかっていただきます」
「つまりサービス開始1週間と経たずに全面戦争ごっこをしようって事?」
「そうなりますね」
「「何言ってんの」」
何の前触れもなしにじゃあ戦争してね! とか無茶にもほどがあるだろ。
「ご心配なく。これはあくまでプレテストです。参加率、能力を含めた総合的な戦闘力の差を観測して次回のイベントで調整するつもりですので」
「なるほどな……」
一方的なPvPほどつまらないものはない。劣勢の方が萎えてさらに劣勢になって萎える奴が増えて……の負のスパイラルしか見えないもんな。それを防ぐために調整を入れて本戦を行うという事か。
「じゃあなおさら今回の参加は見送るか」
「おや、いいんですか? 貴方の標的が一挙に集まるんですよ。まとめて屠るいい機会だと思うのですが」
「何言ってんだ。どうせ星野が無双するだろ。それなら調整が入って星野が弱体化したところにつけいった方が確実だ。何より気持ちいい」
「あ、いいね。攻略する目処も立ったし安心して汐月さんを探せるね」
「私はイベント参加を強制する事はできないのでそれでも構いませんけどね。しかし気をつけてくださいよ。勝利条件は相手都市の陥落です。もうここも戦場ですので」
「襲われた時は反撃すればいい。多分俺達ならどうにかなるだろ」
いつも通りこちらに関心があるのかないのか分からない態度で応対するGM。それに対していつも通りの淡々とした返しをして外に出る。
するとそこには驚きの光景が広がっていた。
「……すごいね。こんなに人通りのない街だったっけ」
いつもはあちらこちらで人が騒ぎ、喧騒から逃れられない眠らない街と化している《黒都》が見る影もない。
人通りが全く無いというわけではないが歩いているのは俺みたいな陰キャ側の人間。不良の溜まり場みたいな《黒都》のイメージが払拭されるようだ。
「もしかして大部分のプレイヤーが《白都》を攻めにいったのか……?」
「そのようですね。実際、《白都》側のプレイヤーは防御に手を焼いていてしばらく攻めてこられない状況です。貴方達には好都合かと」
イベント開始と共に速攻で参加する。もちろん俺も《バベルの長城》でやった事だからとやかく言わない。とにかく流石だなあと思う。
しかも今回はその方が俺が動きやすい。ナイスだ、廃ゲーマー達よ。
「……それにしてもプレイヤーサーチ的な機能もあれば良かったのに」
そうして俺は適度に愚痴をこぼしつつ抽象的なおつかいクエストを開始したのだった。




