身の丈以上の攻撃の戦果
「……俺にあってお前にないもの。それはすなわち! GMに認められた力! すなわち公式チートだ!」
公式チート。それは違法と合法の境界線。このゲームの創造主たる運営が認めた一手なのだから合法と言えば合法。
しかしそれを使えない残りのプレイヤーからすれば単なる脱法行為。違法でしかない。ならばこの場合はどうなるか? 相手はイカれた能力、そして人望、その他全てを持ったチートの権化。ついでに正統派主人公な感もある。
こちらはそれなりの能力にものを言わせて殴る厄介プレイヤー。チートの権化様との実力差は歴然としている。ここまでくるとチートでも何でも使っても許されるのではないかと思う。
世の中は判官贔屓の風潮が強いはず。少しくらいは俺達を擁護してくれる奴がいるはずだ。
「いけえええっ!!」
が、そんな理屈は思いついた側から消えていく。感覚で分かる自分の許容範囲、それを軽々と超える魔力が身体中を駆け回っているから。そしてそれを解放したいという欲求に駆られたから。
こんな事を考えた時にはもう《月光》は星野を包み込んでいた。
「な、何だこれは!? 君はまだこんな技を隠し持っていたのか!?」
《晦冥》の強化とGMによる強化、それはもう基本技とはもう呼べないほどのとんでもないシナジーがかかっている事だろう。
まして星野は《光》が100%だ。何の工夫のないゴリ押しでもこれならばあるいは……!
「ちょっ、アラタ! あれ……!」
「おい、冗談だろ……」
「そう簡単に……僕がやられると思ったら大間違いだ!」
俺が放った《闇》は際限なく溢れ、星野が空けた穴から外に漏れ出すほどだ。
それなのに消えない一筋の光。《皆輝剣》か何かで防いでいるにしても耐えている時間が長すぎる。一体何を使ったんだ!?
「おおおおおおっ!!!」
溢れる《闇》と抗う《光》。閃光と暗闇の陣取りゲームは《光》に軍配が上がったようだ。雄叫びと共に星野は《闇》を振り払う。
まるで払えない《闇》など存在しないというかのような自信。確固たるそれで防ぎきったのかもしれない。
「ハア……ハア……皆からポーションを預かっておいて正解だった……」
だが勝因を呟きながら誇らしく立つ勇者には称賛の声も負け惜しみの声も与えられなかった。なぜなら観客など誰もいないから。
「《月光》を止めている間にテレポートしたのか……それも仕方ないか」
いつでも機会はあるし。そう言いながら踵を返す。
「……けれどもまさかツグミが誰かと共に行動するなんて、ね」
その言葉には昔とは違う妹に喜ぶ感情、そして驚きがない交ぜとなって含まれていた。そんな妹を肯定すべきか否定すべきか。その答えは未だ出てはいないのだが。
*
「テレポートして正解だったね。あのままだったらこっちがやられてたよ」
「いくらなんでも公式チートをポーションガブ飲みで耐えるとかありえないだろ。どっちが脳筋か分かったもんじゃない」
場所は《黒都》にある小さな酒場。RPGの世界では割とお約束なそこで俺達は反省会の真っ只中だ。
どうでもいいけど未成年な主人公が酒場に入り浸るってゲーム的にはどうなんだろう。まあ、普通に戦って人やモンスターを平気で殺せる世界にそんな平和的な法整備をしろって方が難しいのかもしれない。
「結局あの人どうやって攻略する?」
「しばらくは様子見するしかないだろ……」
手札を全て晒して、ルール違反スレスレまで使ったのにこの有様だ。一朝一夕でどうにかできるレベルじゃない事は確かだ。
「おいGM。何が公式チートだ。倒しきれなかったじゃないか。詐欺だろ訴えていいか?」
「待ってください。私は必ず貴方を助けるという事は約束しました。ですが、任意の対象の即死は約束しておりません。なので詐欺と言うのは間違っているかと」
「コイツ、屁理屈を……!」
「しかし見事に逃げおおせたじゃないですか。お見事でしたよ!」
旗色が怪しいと踏んだのか急にヨイショに走り出すGM。本当になんだコイツは。
「それはそうと今日はここまでです。良い子は起きる時間ですよ?」
「俺が良い子に見えるのかよ」
まるでGMが都合よく店じまいするかのような、そんなベストなタイミングで体中が白い光に包まれる。散々下水道で見た忌々しい《光》とはまた別物の、なんというか優しい光。
「……ま、対策は明日考えようか。お疲れ様。」
「そうだな。無理難題は未来の自分がどうにかしてくれるもんな。そっちもお疲れ」
多分そのうち何かしら突破口が見出せるはず。具体的には《光芒》に修正が入るとか。頼むぜ運営。
「しかしお2人さん、仲良くなったようでなにより。結婚システムとか未実装なんですが、検討しておきましょうか?」
「「いらない」」
GMの馬鹿馬鹿しい一言で上手くオチを作りつつ意識が遠のいていく。
それにしても対極の能力だと思っていたのにこんなに性能差があるなんて。何かカラクリみたいなのがあるんじゃないのか?




