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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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脱正攻法

「……なんでこんなに速く駆けつけるんだよ。正義の味方か何かのつもりかよ」


 そう言って背後にいる《白都》の地面をブチ抜いて下水道に侵入してきた、俺にとってはラスボスのような正義の味方に向き直る。


「はは。皆の力を借りれば瞬間移動だって僕はできるさ。それに座標はコウが教えてくれた。ここまでしてくれた皆の期待には応えないといけないだろ?」


「つまりお前は皆の期待のために俺達を捕まえると」


「いやいや、何を言ってるんだい。僕はPKに然るべき罰を与えて妹と話をしたいだけさ。それに皆が協力してくれている、その期待に応えないとって思っただけさ。これは自分の意思だね。ところで、君こそ誰かの期待のために生きてそうな気がするけれどどうかな?」


 自分には信念があるし誰かの操り人形になる気はさらさらない。そんな生き方を思わせるように星野は堂々と答えてくる。隣ではツグミが顔をしかめており兄妹の相性の悪さが何となく分かる。


「誰かのために? ……まさか。俺は自分のやりたいように生きてるに決まってるだろ。そうじゃなきゃ《晦冥》なんて身につけないだろ」


 俺は自分のために生きてる。心の中で暗示をかけるかのように反芻しつつ《月光》を放つ。コウにも使った煙幕代りの《闇》。


 放つと同時に星野の背後へと移動する。手に握っているのは《蝶舞剣》。大量の魔力を流し込んで一撃を加えればワンパンまではいかずとも嵐を起こして足止めくらいはできるはず。そう考えての行動だった。


「僕に《闇》の目くらましなんて聞かないよ」


 さっきまで星野が立っていた位置から声がする。先ほどの位置から全く動いていないのかという分析をすると同時にその落ち着きようからなんとなく嫌な予感がした。


「僕らの《光》は《闇》を打ち払うために存在するんだ!」


 急に何を言い出すんだと思ったのも束の間、声がした方向が急に明るく光り出す。そう、星野の周りから《光》が漏れ出しているのだ。


 徐々に侵食域を広げていくその《光》は《闇》とぶつかり相殺される。しかし漏れ出る《光》は蛇口から出る水のように止まらない。その《光》はあっという間に辺りを覆う《闇》を宣言通り打ち払ってしまった。


「僕はコウのように相手を待つというよりは自分から動く方が性に合っているのさ!」


 星野は視界を確保したかと思うと即座に反転攻勢の構えを見せる。まだ《白都》の連中から受け取った魔力が残っているのか、大剣と呼ぶに相応しいサイズとなった《皆輝剣》を軽々と片手で持ち上げながら突進してくる。


「クソ……! でもな、視界を奪えなかったぐらいでいい気になるなよ!」


 我ながらもう悪役らしさが増したなあとか余計な事を考えながら《蝶舞剣》で迎え撃つ。


 多くのプレイヤーの魔力で編まれた大剣と1人のプレイヤーからコピーした紛い物のナイフ。そのぱっと見ただけでも分かるスペック差を埋められるとしたらそれは《蝶旋風》しかない。


 その嵐で《皆輝剣》を吹き飛ばし、得物を失った星野を惨殺する。有効打と言えばこれくらいか。


 これしかないのかと悲観しそうになるが、蝶野との取り引きが無ければ有効打が一切ない状態で戦う羽目になっていた。となると今の俺はかなり恵まれている立ち位置じゃないのか? ……これなら、いけるよな。


「……らあっ!」


 俺が《蝶舞剣》を振り下ろす。星野が避ける。そのまま一歩引いて反撃しようとした瞬間にツグミが割り込む。


「兄妹喧嘩がご所望なんでしょ!」


 既にツグミの髪は黄金に染まっており臨戦態勢は万全。無効化されない《光》で戦うようだ。


「くっ……!」


 ツグミが《白百合》を振るうと数コンマ遅れて《皆輝剣》が《白百合》を捉える。そんな風に見えたのは数回斬り結んだあたりまでだった。


 違う。よく見ると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()


「攻められたくない場所に《白百合》を持っていくと自動的に攻撃が防げるなんてね。兄さんは単純で助かるよ」


 煽る余地まであるのか鍔迫り合いの最中そんな事まで口走る。


「なるほど。思ったよりはやるみたいだ。……それなら!」


 懲りずにといった様子で星野は剣を振り回す。しかしただ振り回したからと言って無策で戦っているわけでは勿論なかった。


「やっ……!?」


 《皆輝剣》の刀身は金に輝き、その刀身を真っ向から受けたツグミと《白百合》は踏ん張る事も出来ずに軽々と押し切られる。


「自分で言っていただろう? 《黄昏》の出力は《光芒》や《晦冥》に劣ると!」


「それなら前みたいに弱点を突いて終わらせるから!」


「ツグミやめろ! 危険すぎる!」


 途端にツグミの髪が、刀身が黒く染まる。星野に強力な一撃を与えたあの時の姿だ。しかしあれは《黄昏》のギミックがバレてなかったが故のラッキーパンチだ。今となっては恐らく……。


「そこだ!」


 欲を出して攻撃に回ったツグミの刀を星野は正面からあっさりと砕きそのまま一太刀にしてしまう。


「え……あっ……」


「僕の能力は《闇》を無効化する事だって忘れたのかい? それに今のツグミは《闇》が100%。なら僕の《光》だって弱点になってるはずだろ?」


 カランと地面に刀が落ちる音がする。そして傷を押さえてうずくまるツグミを見下ろしながらお得意の解説を披露する。


「星野先生の授業はもういいから」


 星野がこうする事は読めていた。だから俺はそれを見越して行動する。まあ何だかんだ言ってシンプルな奇襲しかできないのだが。


「おっと。そう固い事言わずに課外授業と洒落込もうじゃないか!」


 この奇襲までもが想定内であるかのように軽く《蝶舞剣》をいなされる。そのまま矛先は新たに俺へと向いた。


「ああ! くそ!」


 とにかくがむしゃらに剣を振る。同じ箇所に連打するように小刻みに振るうが、星野の受ける時は受ける、そして時には剣そのものが触れ合わないようにする動きについていけなかった。


「そんなデタラメな斬り込み、怖くないね!」


「くっ……!」


 受けて、いなして、また受けて。波のように変幻自在な剣術で俺を翻弄しつつ、時折荒れ狂うように攻め立てる。こんなのどう対処しろってんだよ。


 ……待て、落ち着け。陰キャとしての俺の武器は何だ? それは痛々しいまでの冷静さではなかったか?


 思えばこれは面白くない、とか思ったクソゲーの対人程上手く立ち回れた。そうだ。冷静に確実に、機械的に処理をしろ。


 間合いを空けるために後方に下がりつつ息を吐く。体の重りを口から外に出すように。そして体の力を抜く。少しジト目になっていると思うが気のせいだろう。


「……よし」


 もう一度星野に向かって突き進む。


「何回やっても同じさ!」


 そう言って振り下ろされた《皆輝剣》を紙一重で避けながら反撃する。そうだ。撃ち合う必要はない。俺は俺らしく逃げればいい。ヒットアンドアウェイのチキンプレイを極めていけ。


「……ここ」


「ッ!?」


 不思議と星野の剣筋が見えてくる。 始めは高速で閃いた後の線しか見えなかったが、剣の形が、その進路が見える。


「へえ……。やるじゃないか。この戦闘中も経験値を貯めてレベルを上げているのかい? 動きが良くなっているよ」


 避けて、ナイフを入れて、また避けて。星野が星野のリズムで戦うなら俺も自分のリズムで撃ち合えばいい。


 と、そう思った時だった。


「けれどそこまでだ」


「があっ!?」


 突如として《皆輝剣》が狂乱する。踊るように回避する俺に追いすがり、鞭のように軌道を自在に変えて完璧に捉えてくる。


 右下、左上、果ては真横から一閃と様々に軌道を変える無限にも思えるコンボ。それを全て身に受け、フィニッシュの蹴りがクリーンヒットしてツグミの方へと飛ばされる。


「が……やってくれるな……」


「確かに成長速度も能力も申し分ないと思うよ。けれど、君のそれはただ効率的にナイフを振り回しているだけだ。僕がリアルで磨いた剣術とは全く違う。……ゲームらしいといえばゲームらしいけれどね」


「《晦冥》、《黄昏》、《夜叉》、全部効かないとかインチキだよね……。どうする? 逃げる?」


「こいつが逃してくれると思うか?」


 星野はどこからともなく高速で現れるストーカーも真っ青のスーパーマンだ。普通にやったって逃げられるわけがない。


「別に逃げる必要はないだろう。僕はただツグミと話をしたいだけなんだ。これ以上の危害は加えたくないんだ」


「話す事なんてないって言ってるでしょ。しつこい」


「俺は倒すとか言ってるくせに何を今更……」


 ポーションを飲みながらそう反撃する。少なくともこいつの思い通りになるのは癪だ。絶対そうはさせない。


「君には罪を償って貰わないとダメだからね……まだやる気かい?」


「当たり前」


 啖呵は切ったものの普通にやったって勝ち目は無い。……普通にやったのなら。だったら……!


「アラタ、それって……!」


「もうこれに縋るしかないだろ。それにお行儀のいいルールに縛られてないこの世界なら合法だって……星野が俺とタメを張れない唯一のものを見せてやるよ」


 そう言いながら手を伸ばす。その所作はいつもの無責任な感じではいけない、と個人的に思う。しゃんと伸ばして胸を張って。堂々とぶちかましてやる。


「……これは驚いた……」


 膨大な魔力が周囲にバチバチと音を立てて暴れようとする。まだかまだかと声をあげているみたいだ。それを必死に抑え込む。沸騰寸前の鍋を無理矢理押しとどめる、そんなイメージ。これには流石の星野も立ち尽くすのみだ。


「……俺にあってお前にないもの。それはすなわち! GMに認められた力! すなわち公式チートだ!」


 自前の魔力ではどうあがいても捻出できない魔力。恐らく最初で最後の最高の一撃。それに震えて俺は、テンションが上がるままとにかく叫び、そのチートを《白都》に解き放った――!


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