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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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場所も思考も閉鎖的

 GMは基本技は誰でも使用可能だと言っていた。その使用方法は至って簡単。ただどちらの属性を使うか、そしてどこへ飛ばすかと念じるだけ。それだけで自動的に魔力を消費して飛んでいくとの事だ。威力調整も軌道も何もかも感覚だと言われた。


 ついでに魔力は時間経過で回復し、それまでは魔力を使った行動は全て不可。回復速度も感覚らしい。解析班が死ねるな。


 ゲームってのは魔力以外にも射程や威力とかを考えながら立ち回りを工夫したりするものが普通だと思っていた。そう考えるとなんて常識外れな、そして適当なゲームなんだ。ポジティブに捉えればそれはそれで奥が深いと言えなくもないが。


「ん」


 とりあえず目の前の岩に狙いを定めて右手を前に出す。別に手を突きだしたりそれらしい中二病全開の名前を叫んだりする必要は無いんだが、何となく手は出してしまう。イメージ的には手の平からエネルギー波が出る感じだろうか。


 そんな謎のイメージを込められた右手はやはり魔法陣を描き、そこから黒と紫の混ざり合った如何にも《闇》といったオーラが一直線に小さな岩を目がけてどす黒い軌跡を描きながら飛んでゆく。


 ズドン!! ガガン!! と音を響かせ岩は砕け散る。その小さな破片がいくつも宙に舞う。


「ああいうのを全弾撃ち落とせればかっこいいよな。細いレーザーを何本を発射する感じのアレで」


 ロボットアニメとかであるじゃん。大量の赤いビームを乱射する感じのやつ。そんなものを頭に描いた瞬間だった。ピーという高めの音を奏でながらさっきのものに比べるとかなり細くなった何本もの黒いレーザーが石を1つ残らず塵に変えた。


 恐るべき忖度。その様子と先程のチンピラ紛いの男を撃退したリプレイを脳内再生しながらしみじみ思う。


「……俺の《月光》、ヤバすぎるだろ」



 *



「なあ。プレイ時間1時間弱なんだぞ俺。結構ヤバそうな技出来てたんだけどアレは本当に基本技かよ。対人戦でワンパンできる威力ってどうなんだよ?」


 今までプレイしたゲームでは初心者応援みたいなサポートは嫌という程見てきた。というかむしろそれがあるのが普通というような風潮さえあった気がする。


 だいたい初心者に美味しい思いをさせて沼に引き込むのがソシャゲ系の定石な気がするし。しかしこれはどう見ても初心者応援ではない気がした。そんな訳でGMに即座に聞く事にした。


 分からない事は人に聞く。これはたとえコミュ障であっても必須スキルだ。むしろこれさえあればいい気すらしてくる。


「確かにそれは基本攻撃にこそ分類されますが、かなり強化されてます。まあ、あれですよ。ゲーム内でただ1人だけの《闇》しか操れない特殊能力、その名も《晦冥(かいめい)》の特典の1つです。基本攻撃の超強化。楽しいでしょう?」


「《晦冥》?」


 また難しい単語が出てきた。暗闇とかそんな感じの言葉だったか。


「《光》の属性が使えないのは確かに痛手です。バレてしまえばひたすら弱点突かれる事になりますから。どんなゲームでも大体そうでしょう?」


 それは正しい。その方が効率いいもんな。となると俺もうっかり《晦冥》がバレるとカモられてしまうという事か。


「しかしそれでは余りにも不公平。かといって1つの属性しか使えないというキャラも面白そう。そこで運営は特典をいくつか用意してくれたのです」


「いくつか? じゃあまだいくつかアドバンテージがあると」


「ええ。まず身体能力が高く設定されていますね。おまけに各ステータスの伸びが周りよりも少しいいです。成長すれば結構な無茶ができますよ」


 身体能力が高いなら立ち回り次第ではどうにかなるのかもしれない。悪くない効果だ。


「さらにさらに魔力量がかなり多いです! 無尽蔵とは言えませんが派手な技を乱発するには充分でしょうね。どうです、楽しいでしょう?」


 ここはかなり破格の能力なのか伝えるテンションが上がっているように思う。確かにこれは楽しそうだ。ただ、引っかかる事がある。


「おいGM。お前楽しいとかかなり適当にゲーム作ってんだろ。ゲームバランスとか考えてないだろ」


 そもそもこいつ礼儀正しく喋れば何言ってもいいとか勘違いしてないだろうなとか思ってたら、


「私達はバランスなんてそこまで真剣には考えてないですよ」


 さらっととんでもない事を口にした。


「おいクソ運営」


 俺がついた悪態はどこ吹く風でGMは続ける。


「そもそもどれだけバランスを調整しようとしたってプレイヤーに差異は出てきます。人それぞれのプレイスタイルがあるんですもん。レベルや能力は当然のこと、フレンドとのつながりとかも千差万別ですね。それこそいちいち調整なんてしてたら縛りが多くなって面白みが消えちゃいます。となれば逆転の発想です。いっそ全部縛らなきゃいいんですよ」


 これは驚いた。正直また適当な事を言って上手く逃げるのかと思っていたらこいつらはこいつらで考えてこのゲームを作っているらしい。この考えが絶対正しいとは言うつもりはないが1つの考え方としては理にかなったものな気がする。


「実はこれだけが理由ではないんですけどね。実際には情報を不確定にする事でゲーム内で攻略wikiを作られるのを防いでるってのが主な目的なんですが」


「ああ、解析班対策ね」


 過去にそういった集団にお世話になった事はあるが、その情報が回るのはそれはそれで不快だという何とも言えない矛盾した思いを俺は抱いていた。ほら、周囲だけ知ってて俺だけが知らないのは不公平というか勝ち目が薄くなった気がするじゃん。


 ただ全員が知らないのならば特に言う事はない。全員が手探りなら《晦冥》の俺が有利な状況になる。そういうのは悪い気がしない。自分が好き放題できるなら環境自体に文句はない。むしろ環境に文句をつけるのはいつだって不遇な奴らなのだから。


 ……あれ、今なにか引っかかる事を言わなかったか?


「ゲーム内で作られたくないって事はゲーム外なら全く問題無いような言い方だな。その辺どうなんだよ。というかむしろゲーム外を対策しろよ」


「ゲーム外は大丈夫ですよ? そもそも()()()()()()()()()()()()()()


「は?」


「そう言えばまっ先に説明すべき部分を忘れていました。ゲームの中で起こった記憶は現実世界には持っていけません。なぜならば、ゲームの世界では周囲の人間関係を一切気にすることなく新たな人間関係の構築を楽しんで頂きたいからです!」


 大事な説明を忘れるのはAIとして欠陥品じゃなかろうか。……しかしこっちではなにをやっても現実の人間関係には影響がない。それは確かにおいしい要素ではあるよな。


「それは絶対バレないんだよな?」


 姿こそ見えないGMだが、その姿を射抜くように目を鋭くさせて念を押すためにもう一度聞く。


「保証します。それにしてもえらい食いつきようですね。もしかして《晦冥》を自慢して女の子を侍らせようとか考えてます? やだ、変態!」


「うるさい黙れポンコツAI」


 そういう煽りも入れられるようにプログラムされてんのか。酷いシステムだ。


「そんな無茶はしない。そもそも友達作るのすら難易度が高えよ」


「……そうですか。ではどうしてそこまで興味を?」


 人間関係の構築に難色を示した俺にGMは問いかけてくる。さしものAIも《晦冥》としての俺の思考までは読めないようだった。


「愚問だな。クラスの有名人や高いヒエラルキーにいる人間を晒し者にしてボコボコにできるんだぜ? 楽しみだとは思わないのか?」


「……どうしてあなたが《晦冥》の能力を得たのか理解できた気がします……」


 AIのクセに呆れた様な様子で言う。待て、能力を得たのが理解できたって?


「なんで理解できるんだよ。属性の配分は人によってランダムじゃないのか?」


「違います。《光》と《闇》の配分はこれまでの人生を楽しめていたかどうか、そしてプレイヤー個人の性格が影響します」


 あー、なんで理解できたなんて口走ったのか分かったぞ。GMがそれなりにオブラートに包んで説明したのを当てつけのように身もふたもない説明で要約してやる。


「つまり、陽キャほど《光》の割合が高く、陰キャほど《闇》の割合が高くなるって事か。それなら納得だ。つまり俺の事を真性の陰キャだって言いたいんだよな」


「…………」


 それに対してGMは切断という方法でもって返答してきた。ゲーマー相手に切断とはやるじゃないか。仕返しの方法を一瞬だけ考えようとしたがあまりにも無為な行為なので中断する。不快感をため息にして一気に吐き出す。


「まあ別に理解してくれとは言わないけどさ……」


 と、そんな時だった。


「……音?」


 微かに聞こえたのは音だ。それも爆発音に近いというか何かが起きているような音。ロクに勉強してない高1の知識じゃ音の正確な知識なんてものはない。とりあえず遮蔽物が無いからよく聞こえるんだろという雰囲気だけでこの周辺で何かが起きていると断定する。


 恐らく何かがいる。そしてきっとそれは俺が求めているものに違いない。すなわちモンスターかプレイヤー。ここでの蛮行は現実世界の誰にも咎められない。つい先ほど仕入れた知識が推進力となって、音の震源へと俺をずんずんと向かわせた。


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