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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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蝶のように舞い

「クッ、それが悪名高いコピー能力かよ」


「まだこの能力で悪さはしたことないんだけどな……」


 悪さをしようとする前に完全にボロを出してしまった。認めよう、それは俺の失態。けれども、だからこそ悪名として広められるのはなんとなく釈然としない。


「ところでそのナイフは能力までちゃんとコピーできてんのか? 一応武器を持ちました、なんてそんな理由で使う気じゃねえだろうな」


「心配しなくても能力までばっちり完コピできてるから」


 そう言って刀身に蝶の模様が刻まれたナイフ――《蝶舞剣(バタフライナイフ)》というらしい――を軽く振って応えてみせる。


「クッ、そいつは驚いた。《晦冥》のお前に《光》の協力者がいるなんてな」


「勘違いするなよ。近くにいた奴を取っちめて脅して能力を吐かせたんだよ。俺にそんな仲間が作れるかっての」


 蝶野は《黒都》と《白都》に住み着いたプレイヤー同士にも確執があるとか言っていた。つまりここで俺に協力者がいるだとか口走ると彼女共々面倒事に巻き込まれそうな気がした。だからそれらしく誤魔化しては見たがどうだろうか。


 正直に名指しで暴露する手段もあった。《白都》に所謂裏切り者がいる、なんて疑惑を残して引っ掻き回す手段ももしかしたら有効な一手になったかもしれない。


 しかし能力を教えてもらった手前、取引相手を無碍にするのも気が引けた。こういうところで《晦冥》らしく無慈悲になれれば良かったのかもな、と思う。


 けれどもそんな風になれない、おまけにコウみたいなロールプレイで無慈悲なプレイヤーらしく振舞う事もできない俺がどうして《晦冥》なんて能力を手に入れたんだ? 《黒都》で会ったチンピラの親玉の方がよっぽど似合いそうだと思うんだけどな……。


「クッ、何ボサッとしてんだよ!」


 俺を隙だらけだと判断したのかコウが一気に攻めの姿勢を見せる。勢いと迫力、ぼんやりとしか姿の見えない下水道でも分かるその気迫で俺に急接近して、至近距離で《陽光》を放つ。


「が……ッ!」


 《闇》の魔力しかない俺は《闇》の攻撃はある程度耐える事ができる。L&Dには同属性の攻撃には耐性がつくというシステムが存在するからだ。


 だが逆もまた然り。《光》の攻撃は俺にとって完全に弱点。忌避すべきはリア充の致命的な一撃という感じだ。それを正面から受けた。ダメージは人一倍、いや、もっと高い倍率の攻撃となって俺に降り注いでいるはずだ。悲鳴を上げる全身から分かる。


「アラタから離れて!」


 俺を吸血鬼のように蒸発させてやるとでも言いそうな勢いで《陽光》を振りまくコウに背後からツグミが斬りかかる。空中で刀を水平に構えたその様子からは抜刀技で首を斬り飛ばすツグミの姿がありありと想像できた。


 ――コウの能力を知るまでは。


「クッ、馬鹿か。お前はカウンターのカモなんだよ!」


 俺が妙な行動を起こさないかを監視するためかツグミには目もくれずに対処に当たる。舐めているようにしか見えないが、ツグミの斬撃位置を正確に予測し、《ルミナ・ミラー》を展開しているその様子はまるで周回をこなし体が勝手に操作を覚えた、そんな境地を切り開いたかのようだった。


「やあっ!? ……まだまだっ!」


 跳ね返される自身の斬撃で吹き飛ばされるツグミだがそのままでは終わらなかった。下水道に投げ出されつつも魔法陣を展開して《月光》を放つ。


「クッ、どこを狙ってるんだよ。基本技もろくに使えねえのか?」


 コウの言う通りツグミの弾道は俺とコウの頭上の遥か上を飛んでいくものだった。ノーコンと言われても差し支えないレベル。……ところで今のツグミは黒いロングヘアーをしている。つまり《闇》の配分を100%にしているはずだ。それなのに《月光》でこんなヘマを打つのか?そう思った矢先だった。


「そっちこそ甘いよ!」


 突如として《月光》がUターンを見せる。見せると同時に急加速。一気に向かってくる。……俺の方へ。


「ツグミ、お前まさか……!」


「ま、アラタなら耐えられるでしょ?」


 そう言ってウインクしたのは決め台詞か何かのつもりか。そうツッコむ前に俺の体を《月光》が飲み込む。さらにそのままコウも飲み込み大爆発を見せる。


「がっ! …………《陽光》喰らって弱ってる奴にする仕打ちじゃないだろ……これ……」


 爆風の中からよろよろと何とか立ち上がる。ポーションを咥えてなんとか継戦の姿勢を見せる。これは向こうもかわらないようだ。


「クッ……ククッ……味方もろとも攻撃するたあ《闇》を使う連中はおっかねえなあ。頭がイカれてやがるぜ、全く」


 ポーションを口に含みそんな感想を漏らしながら心底面白いものを見るように俺達を眺めている。


「《月光》を喰らった時はヤバいと思ったけど、1つ収穫があったな。アンタのカウンターは万全じゃないんだ。ずっと展開させてないって事はあの鏡は使用中に魔力が減るとかそんな感じの能力なんだろ。そして、それを出すより早く叩けばそれで俺達の勝ちだ」


 さっきの不意打ちを防げずに俺と共に被弾したのは多分そういう事だ。ニヤニヤしたまま何も言わないのは俺に能力の情報を与えないためか。全く抜け目のないようで。


「クッ、それだけ言うんならやってみろよ! 俺より速く攻撃を通してみなッ!」


「ああ、やってやるよ!」


 《蝶舞剣》を片手に再び疾駆する。そんな俺を迎え撃つかの如く《陽光》の乱れ撃ちで進路を妨害してくるコウ。だがその程度では止められない。


「……らあっ!」


 《蝶舞剣》を閃かせて次から次へと迫りくる《陽光》を切り裂いていく。俺はゼリーのようなものを刃物で切り裂くように難なくギミック処理をこなしていく。


「クッ、その切れ味がそのナイフの効果ってところか?おもしれえじゃねえか!」


 俺とコウの距離はぐんぐん縮まっていく。手を伸ばせばコウに触れられる距離。そこまで来たところで急停止。その反動による勢いを利用しながら《蝶舞剣》を一気に横に薙ぐ。


 それを見越したコウが《ルミナ・ミラー》を展開させて迎え撃つが、《蝶舞剣》はそれすら一刀両断する。


「な……に……!?」


 コウの自慢のカウンターを突破した俺はそのままナイフを突き立てる。後はこのままコンボ攻撃の要領で倒れるまで斬り続ける――!


「……クッ、何だよこの威力は……?」


 一撃をコウの胸に突き立てた俺はすぐさまダメ押しを加えようとナイフを引いた。そしてもう一度突き立てようとしたその瞬間だった。前のめりになった俺の体に突如として巨大な壁が立ちふさがった。


 そう間違えるような程の衝撃が俺の体に走る。見るとそこには拳を俺の腹部にめり込ませているコウの姿があった。


「《ルミナ・ミラー》を切り裂いたんだ。たいそうな業物なんだろうと思ってたが胸に突き立てられてみりゃさっきの《月光》に遠く及ばねえ」


 そう言って動きの止まった俺にラッシュを浴びせにかかる。激しいパンチを乱打したと思うと次の瞬間には蹴りが、認識する頃にはチョップだのなんだのとバラエティー豊かなフルコースを俺にお見舞いする。


「ハア……ハアッ……くそ!」


 体を動かすたびに痛みが走るがそれに必死に耐えながら《蝶舞剣》を懲りずに振るう。即座に展開される《ルミナ・ミラー》を切り裂きコウの胸に突き立てる。しかしダメージは軽いようで即座にカウンターを受ける。


「クッ、なんとなく分かってきたぞ。そのナイフ、物体を切り裂く際には強力な補正がかかるな? 《陽光》や《ルミナ・ミラー》を防いだのはそのせいだ。しかしプレイヤーにはそこまでのダメージが入らない。例の無効化を使わないのは燃費の問題か? その安っぽいナイフの威力から察するに燃費はよさそうだもんなあ!」


 正拳突きでコウと俺の距離をまたも空けさせながらそう分析する。分析された俺はというと《蝶舞剣》を投げナイフとしてコウの元へと飛ばしていく。それは確かに分析通りに《陽光》、《ルミナ・ミラー》の迎撃をするにと突破して胸に一直線に進んでいく。


「アラタ、大丈夫なの? どう考えても与えてるダメージはあっちの方が上だよ。他の作戦考えた方が……」


「大丈夫。いけるって」


 ツグミの制止すらも耳に入っていない。そんな風に映るだろうか。まあ何と言われたっていい。ここで踏ん張れば俺の勝ちなんだ。ここさえ上手くすれば……!


「クッ、そろそろお仲間に助けでも求めたらどうなんだよ? 何人いようと俺は倒せねえだろうがなあ!」


「……!」


 それには返答せずに無言で下水道を駆けまわる。さっき正拳突きでコウから離れた時に俺はポーションを飲んでおいた。つまり魔力量は最大。そしてここは薄暗い、光の届かない下水道。ならばこんな真似は効果的ではないのか?


「覆え! 《月光》!」


 周囲全域にいくつもの魔法陣を張り巡らせて《月光》を放つ。特にコウ本体を狙ったわけではない。狙いなんて滅茶滅茶だ。しかしその適当に《月光》を乱射した意図を掴んだのか、それとも本能的にこうした方がいいと悟ったのか、ツグミも俺に倣って 《月光》を乱射する。


 曲がりなりにも今の彼女は《闇》が100%。俺に負けず劣らずの規模で《月光》を展開する。


「クッ、一体なにがしてえんだ……まさか!」


 一瞬遅れて俺達の工作の意図に気づいたようだがもう遅い。そう、彼の周囲は《闇》で完全に囲まれたのだ。


「クッ、カモフラージュとは如何にも陰キャらしい手段だな」


「人目につくのは極力避けたいからな」


 ただでさえ薄暗い空間を《月光》で満たした今、俺の姿はコウにもツグミにも視認されていないだろう。そしてコウ本人は恐らく動かない。


 カウンターを至上とするあいつが今不用意に動けば不可視の一撃を受けてダウンする事は容易に想像するはずだ。それならばきっと俺の奇襲をカウンターで返した方が現実的だと踏むはずだ。


「ククッ、さあ来いよ。これに乗じて奇襲をかけるんだろ? 上か? 背後か? なんにせよそんなモン、華麗に返してやるからよ!」


 こちらも視認できないがどうやらコウも準備万端の様子だと。……ならお望みどおりやってやろうじゃないか。ここで俺はようやく本命の名前を口にする。ただこの瞬間のためだけに隠してきた虎の子の名前を。


「喰らえ! 《蝶旋風(バタフライエフェクト)》!!」

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