《闇》をも阻むカウンター
「《曲射》!」
コウの背後へ回り込むように、円を描くように走る俺がそう命じるといくつもの《月光》がコウの元へと伸びてゆく。
上空から攻めるものもあれば、大きなカーブを描くもの、小刻みに震えつつ例の板のギリギリを掠めるようにとんでいくものまで、様々なパターンを一気にお見舞いする。
「クッ、数で押し切れると思うんじゃねえぜェッ!!」
戦闘が始まって昂ぶったのか、コウは声を荒げる。すると同時にいくつもの《ルミナ・ミラー》が生成され、それらを触ることもせずに自在に動かしていく。
そしてそれらは捻くれた俺の性格同様曲がりくねった軌道を描く《月光》を容易く吸収する。
「来るよ!」
「クッ、ほらよ! お望み通りのものだぜ!」
そう言って予想通りに《月光》をはね返してくる。ただ一直線に飛んでくるだけなら面白みのない技だとかレビューして一蹴できるだろう。
しかし今回は違う。カウンターとして返された《月光》は当然、《ルミナ・ミラー》から発射されているのだが、その鏡自身が吸収した時と同様に位置を変えているのだ。
それは、《晦冥》により強化された《月光》――言ってしまえば強力なレーザーなのだが――の発射口を自在に操る事ができると言っている事になる。つまり、
「クッ、薙ぎ払いな!」
威力はお墨付きのビームサーベルを、なんと複数も所持しているという事になる。
「やっ!?」
ツグミの《黒百合》は俺の《月光》と互角に渡り合う事はできる。まして彼女は《黄昏》の特権を利用しているのかスピードにモノを言わせた剣技を使う。
そんなツグミでも全てを斬り払えずにダメージを受ける。それはただ跳ね返すだけではできない芸当だ。
「はね返すタイミングや効果的な位置も見極めてるんだ……やるね」
そう賞賛しつつもこちらの方を向くツグミ。分かってる。ここは俺の能力が特段に相性がいい。
「それなら……これはどうだよ!」
今度は《月光》を飛ばす事はせずに愚直にコウに正面から突っ込んでいく。ただし右手は黒く染めた状態で。
「クッ、何をしようと返すだけだぜ!」
またもコウは鏡を盾にして待ちの姿勢を見せる。当たり前だ。そうすれば勝てる。無敵の安全行動なのだろう。俺だってそんな能力を持っていたら同じように使う。自分で攻撃する手段もこれといって思いつかないし。
しかしそんな手が何回も何回も、未来永劫続くわけがない。その事を身をもって教えてやる。触れさえすればあらゆる攻撃を弾き返す鏡。それは起動の時を待って動かない。そんな見た目だけは障害物にもなりえないような物体へと思い切り闇の爪を立てる。
キキイイイッ!というような耳障りな音を奏でるとコウは予想しただろうか。しかしそんな事は起こらない。ただただその物体が無に帰すだけだ。
俺にとっては日常茶飯事でもこいつにとっては非日常、想像の埒外の世界。その世界を体験している間隙を縫って俺は追撃を加える。
「んじゃトドメだな」
鏡に突き刺した爪を引き戻し体を使って今度はコウ本体に爪を立てる。そのように行動したのだが――。
「クッ、やはりそうきたか」
「は――」
爪を立てようとした。目線は完全にコウの左胸。多分急所になると思ったから。が、その目線は一気に下降する。いや、目線だけではない。頭が一気に地面へと下降したんだ。
そう認識した後に遅れてやってくる痛み。首に細長い何かをぶつけられたようなそんな感覚。多分手刀でもまともに喰らったんだろうか。
「クッ、これで終わりじゃあねえぜッ!」
ダメージが抜けきらず動けないところに炸裂する回し蹴り。みぞおちを的確に射抜いたあたり、格闘技にでも精通しているようだ。
「アラタ!?」
「な……んで《夜叉》、が……?」
ゲホゲホとむせながらそんな疑問が湧き上がる。これに対しコウは、陽キャらしい手札を切ったと説明した。曰く、
「クッ、お前の能力はもうとっくに知れ渡っちまったんだよ。ここの人間はお前らなんかよりも繋がりが強え。一瞬で伝達されるに決まってんだろ。後は《光》を掻き消される瞬間を狙ってカウンターを入れればいい」
「能力だけじゃなくて体術でもカウンターを使いこなせる……こういう事だね」
そのツグミの指摘に対しコウは高らかに宣言する。
「ククッ。そうだ! その通りだ! 相手の攻撃を受けずにこちらは手痛い一撃をお見舞いする! カウンターってのは守りのように見えて効率のいい最強の攻撃の型なんだよ!」
「……だってさ。どうしようね、アラタ」
カウンターは効率のいい戦い方。それはそれで一理あると思う。相手のHPだけ削れていくなんてシチュエーションは確かにいい気分がするだろう。だが、
「……そんなの知るか。《夜叉》が知られてようが何だろうが脱走しなきゃならないんだよ。だからこれで速攻で倒してやる」
再び手に《闇》を纏わせる。しかし今までのようにそれは爪の形をとってはいなかった。
「それ、使うんだね」
「まさに今が使い時だろ、こいつ」
そう言った俺の手には蝶の模様を刻印した刀身を持つナイフが握られていた――。




