真性仮性が不明の《光》
「クックッ……やるじゃねえか」
「まさか兄さんが待ち伏せさせていたの!?」
《白都》の連携は恐らく強い。ろくに知らない俺でも雰囲気からなんとなく察せられる。少なくとも《黒都》の連携とは次元が違うだろう。だからこそ待ち伏せの指示を受けたと考えられるが……。
「クッ、そんな指示は受けてねえよ。あいつらにとっても想定外だろ、こんなところを通るなんてよぉ」
「そうか」
これ以上話を聞くつもりはない。その意思を言葉ではなく《月光》で伝える。言葉も使えるか怪しいのだ。肉体言語も使えるかというと不安しかないが拒絶の意は示せるのではないだろうか。
ついでに倒してしまえば会話を強制的に打ち切る事も可能だ。あれ? 肉体言語って実は最強ではないのか。なんてそう思ったのだが――。
「クッ、甘えぜ。《ルミナ・ミラー》!」
使い手同様上空から降ってくる透明な板。よく見ると黄色い《光》のオーラを纏っている。イメージとしては妙な輝きを放つ窓ガラスといったところか。だがそれはあくまでイメージだ。能力である以上ガラスみたいに簡単に砕け散るとは思いにくい。
などと思っているうちに例の窓ガラスに《月光》が衝突し――《月光》が飲み込まれた。
「!?」
何が起こった? 今までいくつもの《光》を飲み込んできた《月光》が逆に飲まれるなんて。
「打ち消したってわけじゃないよな……」
言いながら頭の中で否定する。能力を掻き消せるのは2人だけのはず。ツグミの例外をもってしてもそれは変わらなかった。なら一体これは?
「クッ、ほらよ! お返しだぜ!」
「っあ!」
原因究明に精を出しすぎた、想定外の事が起きたとか言い訳自体はいくらでもできるが後悔先に立たずというやつだ。
例の板から飛んできた《月光》を避ける事はできなかった。
「アラタっ!」
俺の前に立ち塞がりターゲットを肩代わりしてくれるツグミ。ガラスごとき一刀両断せんと刀を大きく振り抜いて斬撃を飛ばす。
ツグミは俺の左側から刀を振り抜き、右側に到達するほどの大振りを見せる。会心の振りだったのだろう。それに呼応して空を駆ける斬撃もいつもより速く、大きくなっていたように思う。
が、その板よりも大きな斬撃もその壁に阻まれる事となる。
「クッ、《ルミナ・ミラー》にはどんな攻撃だろうと効かねえんだよ!」
男は宙に掲げた両手を左右に大きく移動させる。それに従って板も拡大していき、最後には斬撃を飲み込めるサイズにまで変貌を遂げる。そして先と同様に斬撃を飲み込む。
「クッ、返しな」
その後も同様に、板から飛び出した斬撃がツグミ目掛けて飛来する。
「《黒百合》!」
「《夜叉》!」
襲いかかる斬撃を2人で迎え撃つ。
「返されたくらいじゃ……負けないよ!」
《晦冥》と《黄昏》、2人の特別。そんな俺達がこんな捻りのないカウンターで倒されるわけがない。それを証明するように正面から斬撃を打ち砕く。
「クッ、やるじゃねえか。ま、この程度で終わるたあ思ってねえがな」
「カウンター使いか……それにしても待ち伏せとか、いつから監視してたんだよ」
もしかして蝶野がチクったのかと思ったが、能力を明かしてまで俺を嵌める理由がない。デメリットが大きすぎる。となると情報の出所は一体……。
「クッ、俺の事はコウとでも呼んでろ。俺はただお前らみたいなのが動きそうなところを予想したまでだ。お前らは日陰が好きそうだもんなあ。こんな所だろうと思ったぜ」
「口悪いねえ。どちらかというと《闇》が得意なんじゃない? ルミナなんて名前のついた技を使わずに本気でやりなよ」
確かにそうだ。《ルミナ・ミラー》とかいうのも厄介だが口ぶり的には《闇》の割合が高そうだ。となると本命の能力は別にあるのか。
「クッ、俺は《光》の配分が90%だ。大人しく《ルミナ・ミラー》に倒されてりゃいいんだよお前らは」
安い挑発には乗らないといった感じでコウは言った。だが気になったのはそんな冷静さなんかではない。
「「《光》90%!? これが!?」」
どう考えても配分ミスに見える《光》と《闇》の配分。ただ一点だけだった。
「ククッ、俺は現実ではムードメーカーの会社員でな。社内の和の中心にいるんだぜ?」
「それならまあ分かるけど、その立ち振る舞いからはブラフとしか言えないんだよなあ……」
こんなのがムードメーカーなら俺でもムードメーカーになれるわ。ざけんなっての。
「……違うよアラタ。多分この人、この世界だからこそこんな風になってるんだと思う」
「はい?」
事情を察したツグミと違って的を得ない俺を見てコウがやれやれといった様子で説明を始める。
「クッ、そっちの女は分かってんじゃねえか。俺は確かにムードメーカーさ。苦しい時や辛い時だって大勢の人間を励ましてきたさ。それが嫌だとは思わねえしこれからも続けていくつもりだ。だがな、思うんだよ。……もしも違う振る舞いをすればどうなるのかってな」
「だけど現実でそんな事をすれば信頼を失うし好奇心だけでやるにはちょっとね……」
「クッ、お前の言う通りだ。だからこそのこの世界だ。乱暴に振る舞ったって現実に影響はねえからな。《白都》の連中も俺を受け入れてくれたし好き放題できるぜ」
「つまりロールプレイしてるって感じでいいのか。で、結局は俺達を捕獲して星野に突き出すつもりだと」
《夜叉》を纏って邪魔をするなら始末するといった意思表示をしつつ断定する。
「クッ、そんなのするかよ。お前らと同じだ。お前らが《光》を狩るんなら俺は――《闇》を狩る、それだけなんだよ」
が、返答は《白都》にたむろするプレイヤーらしくはないものだった。ロールプレイとしては百点満点なのかもしれないが。
とまあなんだかんだ言っても根底には俺みたいな思考がある以上否定はしない。同族は嫌悪するより擁護するタイプだから。
「じゃあアラタはこのまま大人しくやられるの?」
「アホか。下水道まで使って逃走してる最中にやられたなんて情報を《白都》に流させてたまるかっての」
《夜叉》によって作り出した俺の爪を一回り大きくさせ臨戦態勢を整える俺。それに同調して刀の柄に手を添えるツグミ。
「そりゃそうだよね。じゃ、サクッとやろうか!」
「ククッ、そうこなくっちゃあなあ!」
俺達の臨戦態勢に反応して《ルミナ・ミラー》を再び展開するコウ。その光量は不意打ちの時よりも増しており、暗い下水道を明るく照らすランタンのようだ。
そのおかげで赤髪の青年がはっきりと捉えられた。あくまで待ちの姿勢を崩さない相手を睨みつつ俺は足を動かす。駆け出すと同時に雫が宙を舞う。それが小さな水溜まりとなり着水してポチャンという音を立てる。
図らずもそれはゲーム開始を告げるコイントスのようだった。




