陽キャにそぐわぬ交渉術
「少し気になる人がいるんですけど、その人について相談に乗ってもらえませんか?」
「は? 人間関係を陰キャに相談するとか馬鹿かアンタは」
「私もそういうのはちょっとね……」
目の前の陽キャは陰キャに対してまさかの話題を投げてきた。相談や助けというのは自分よりもその事に上手く対処できるような奴に頼むものだ。少なくとも俺はそう思う。その点で言えば愚策も愚策だと一刀両断するしかない。
「いやいや、貴方達じゃないと頼めないような内容なんですって! ……とりあえず話を聞いてもらえませんか?」
「まあ形としては助けられたようにも思えるし、聞くぐらいなら……」
コイツの一言が無かったら今頃教会を破壊していた可能性が高い。あまりそんな目立つ事はすべきじゃない。そういう点でも助けられたのは事実。あまり無下にはしたくない。
「えっと……私と同じクラスに汐月ユウハさんって女の子がいるんですよ。どちらかというと、というよりかなり大人しい子で皆と話そうとしないんですよね。だから私が馴染めるようにそれなりに声をかけてるんですよ」
それはやられる方は堪ったものではないのでは。そうは思うが口には出さない。実際汐月さんとやらがどう思ってるかも分からないし、決めつけて話すのは良くない。
俺にはウザいとしか思えないが他の見方もあるのかもしれない。まあどうでもいいんだけどさ。
「それで私達に何させたいの?」
いつも通り人当たりの良さそうな顔こそ浮かべるツグミだが何となく分かる。面倒事はやめて欲しい、みたいなニュアンスを言葉に込めてる……。
《黄昏》とか言ってもアレなのか。人懐っこそうな見た目した《晦冥》みたいなものなんじゃないのか。何だこれ俺より厄介じゃないか。
「やっぱりこのゲームで何をしているのか気になるんですよ。多分《黒都》にいる気がするので様子を見てきて欲しいんですよね」
そんな提案を俺はにべもなく一刀両断する。
「却下。MMOの主人公じゃあるまいしそんなおつかいクエストはやらない。第一、1人で見に行けばいいじゃん。陽キャのくせにそんなのもできないのかよ」
「私に無駄に当たりが強いですね……。所謂陽キャの事なんだと思ってるんですか?」
「何でもできる、誰とでも打ち解けられる別次元の存在」
即答する。これは何年もかけて熟成された俺の答えだ。多分これは変わらないし変えられない固定観念というやつだ。ところで固定観念ってこんな意味だったっけか。
とにかくそんなヤバい奴を合法的に相手できるのがこのゲーム、そう認識してるんだよなあ。
「確かにそんな人もいますが全員が全員そんな訳ないじゃないですか……。知らない人とほどよく、身内では元気になるような人だっているんですから」
「あっそ」
だからなんだと言うんだ。陽キャとは何かの議論をするためにここにいるわけじゃないんだけどなあ……。
「つまり何が言いたいかと言うと、《白都》の人間の中にも《黒都》の人を良く思ってない人は一定数いるって事なんです」
「ついさっきさらに《黒都》のイメージを悪くするようなプレイヤーも現れたんだしその数は増えそうだよね」
「うるさいぞ共犯者」
ツグミがケラケラ笑いながら付け足してくる。こいつの場合はどっち側と見られるんだろう。やってる事は完全にコウモリ男だし。いやコウモリ女か。
「だから《黒都》に行くと私もあんまり良く思われなくなる可能性があるのでちょっと……」
「風評被害とか陽キャの世界も面倒くさいな。いっそ《黒都》で身を固めればいいのに。現実ではどうも思われないんだし」
「それはちょっと……」
歯切れが悪い。面倒くさい。さっさと会話を終わらせた方が賢明な気がする。忘れかけてはいたが俺達はまだ脱出ミッションの途中なのだ。
「そもそも《黒都》は広いし、名前しか分からない奴を探すのは無理だしやらない。タダ働きなんて割に合わないしな。はい、これで話は終わりだ」
言いながら《夜叉》を右手に纏う。お決まりのパターンであり俺の必勝法である。横のツグミはいつのまにか背後へと移動して逃げ場を塞ぐ。
手に持った《黒百合》という銘の刀はおびただしい殺気を放ち、その迫力は《夜叉》を軽く超えるもののようにも思われる。
「見た感じ絶体絶命な気がしますけど、実際はそうでもないですよね」
だからブラフでもなんでも、そんな風に堂々と言い放ったのには驚いた。
「ふーん、つまり私の刀から逃げられるって言いたいんだ?」
挑発に乗ってやったという様子で蝶野の首元で《黒百合》をカチャカチャと動かすツグミ。しかし決して隙を見せる事はない。
正直、前にいる俺の方がその様子にビビっていたかもしれない。ほら、俺ヘタレなので……。
「そうじゃないんです。戦えば私は負けます。絶対に。でも戦わなくていいんです、私」
「戦う前に終わるもんな」
正直言ってる意味もよく分からないし動揺して隙を見せそうなのはツグミじゃなく俺だ。
そんなつまらないミスで計画をオシャカにするわけにはいかない。ぶっきらぼうに腕を上げる。
その手に握られたのは蝶野が作り出せる短剣。奪った相手の能力で倒すのはそれなりにかっこいいんじゃないかと思った俺の演出だ。まあ持ちやすいっていう実用的な理由もあるけど。
「本当にコピーできるんですね。ところで《晦冥》さん、」
名前は覚えられてないのか、能力名で俺を呼ぶ。まあなんとでも呼べばいいさ。そう思いながら落ち着き払った彼女へと短剣を振り下ろす。
「――私のその能力を教えます。それを報酬とするのはどうですか?」
「――!」
戦わなくていい。そう言い放った彼女の言う通りに動くのは癪だった。しかしこの話は、この話だけはどうしても無視する訳にはいかなかった。
「……詳しく聞かせろ」




