《光》と《闇》、《リアル》と《現実》、それぞれの境界
「でもね、私もちょっとした能力は持ってるんだよね。名前は《黄昏》! いい響きでしょ?」
「……《黄昏》?」
それが自分の能力だとツグミは言い張るが正直どんな能力かピンとこない。そもそも《闇》が100%発揮できるってどういう事だよ。
「能力配分が特化していたから君達は《晦冥》や《光芒》を身につけた。確かにこれは特殊な事例に見えるよね。でもさ。もう1つ、特殊な能力配分があるとは思わない。勘のいいアラタなら気づかないかな?」
特化型以外に特殊な事例か……。そして《黄昏》という能力名。黄昏は昼と夜の間を表すんだったっけか。……となると思いつくのは1つだけ。
「《光》と《闇》の配分が丁度半分……とかか?」
「はい正解。ぴったり50%だったんだよね。そのおかげで得た特権はなんと! 自分の能力配分をいつでも変える事ができるというものだったんだよ!」
「!?」
嬉々として言うツグミの周囲には衝撃が走る。それは無理もない事だと思う。恐る恐る俺はその詳細を聞いてみる。
「……戦闘中でも? 1%単位でか?」
「勿論。《光》の比率が大きいと金髪になって《白百合》って白い日本刀を、《闇》の比率が大きいと黒髪になって《黒百合》って黒い日本刀を使えるんだよ。分かりやすいでしょ?」
「いや……そんなのチート過ぎるだろ……」
戦闘中に変えられるなら攻撃を受ける瞬間にその攻撃と同じ属性に偏らせてしまえば弱点を突かれる心配はなくなる。
それどころか相手の弱点を絶対に突けるという点でも振り切れた能力だと言える。
「そうでもないよ? 私はアラタ達みたく無効化みたいな特権は使えないからね。出力だって本家の100%には敵わないくらいには下方修正されてるし」
流石に《晦冥》と《光芒》のどちらも使わせるのはまずいと判断できるくらいには運営は頭が回るようだった。
「なるほどね……そして便利な力を手に入れた妹は憎っくき兄を倒そうとした、というところかな?」
話を聞いていた星野――会話から察するにこいつはツグミの兄なのだろう――が割り込んでくる。
「本当は、髪色変わるのを利用してこっちに馴染む。そして寝首をかこうと思ってたんだけどね。隙は見せないし、アラタを助けて2人で倒す方がやりやすそうに見えたんだよね」
あんまりこの兄妹の仲はよろしくなさそうだが、誰にだって家庭の事情というものがある。詮索するのは無粋だし何より失礼に当たる。俺でも兼ね備えてる常識だ。
「そうか……やっぱり僕はツグミを守れてなかったのか……」
「そういうのはいいよ。大人しくこっちの世界で倒されてくれればそれで満足だから。泣き寝入りしてくれればそれで私は充分だよ」
「オイオイ! 何だかんだ知らねえがユウスケさんを悪く言うのはやめろ!」
「そうよ! 《白都》で皆が楽しく過ごせるようにって頑張ってるのよ!」
そんな声が口々に周囲から上がる。
「皆の気持ちはありがたいけれど僕は……」
何かを弁解しようとする星野だが外野がそれを許さない。
「星野さん! とにかく一度ガツンとぶつかるべきですよ! この世界の事は誰も覚えていない! 思いっきり喧嘩した後で仲直りすればいいんですよ!」
「そうだ! そうだ!」
「それが正しい! 俺達もついてますよ!」
訳の分からない理由を並べて星野のいざこざが《白都》に居つく全員の闘争へと姿を変えていくのが分かる。これも星野による皆が楽しめる場所とやらの成果だろうか。
「つまりアレか。ツグミをリンチでもしようってハラなのかお前らは」
ダメ人間らしく煽ってみる。というか割と核心を突いたのではないか? これには奴らも押し黙るしかないのでは? などと、してやったり感があるのは心の中だけに留めておく。
「それは僕の望む事じゃないな……。皆、ツグミの方は捕縛してくれないか? そしてアラタだったね。彼は討伐しよう。手伝ってくれるか?」
「「「勿論!!」」」
そんなシュプレヒコールで一気に《白都》は熱を帯びる。それと同時に360度、あらゆる方向から視線を浴びる。
どうやって捕縛するか、誰が先陣を切るか、そして俺がどう動くか、様々な憶測が飛び交ってるところだろう。
「それにしても陽キャに針のむしろにされるとは思わなかったな……」
「まああの人達も人間だよ? 平和主義者だけど手を出さない弱者じゃないんだよね」
平和を、調和を望むがそのためなら多少の武力は無問題というやつか。100%悪者の俺にはそれについてはとやかく言えない。流石に言えない。
「とにかく、これでまたまた利害が一致したと思わない? ……一緒に逃げない?」
俺の背中に背中を預けながらツグミが聞いてくる。この時点でもう断る事はできないんだよなあ。断る理由もないんだけれどもさ。
「ん。……もう一度よろしく。とは言えどうしたもんか……」
完全に包囲とか、そんなレベルではない徹底的な包囲網が敷かれてると俺は思う。なんせあの様子じゃこの都市全てが敵となっているだろう。……どうすればいいんだ?
流石に俺とツグミの特権をフルに使っても《白都》の人口を0にするなんて荒業は無理があるぞ……。そう思った矢先だった。
「盛り上がっているところ、非常に申し訳ありませんがもう5時です。ログアウト処理を開始します」
そんなアナウンスが流れたのは。
「これは残念。勝負は明日、いや今夜にお預けだね」
ここで闇雲に攻撃するのは面白くないとでも言うかのように落ち着いた佇まいを見せる星野。
俺はログアウトしたと認識するまで、そんな突然の、そして拒否できない現実へと引き戻される引力にされるがままになって何も言えないでいた。
✳︎
「……まさかゲームにログインしたくないと思う日が来るとは……」
通学がてらそう思う。通学するという事はすなわち歩くという事。歩いている間は危なくて、ラノベも読めなきゃ携帯を触ったり勉強したりも叶わない。
お喋り? そんな相手は勿論いない。皆だってそうだろ? そうであると仮定して話を進めさせてもらう。
となると必然的に思索に耽るしかない、これは誰しも経験があるだろう。つまらない妄想をしてそれを元に痛い小説を書いてみたり。昨日見たアニメの続きはこんな感じになっているのではないかと勝手に話を作ったり。周回用のパーティはどうしようといった具合に。
そんな中数ある議題のうち、俺が今俎上にのせたのは昨日の《白都》での一件。確かログインするとログアウトした場所からスタートする。
つまりログインした瞬間に襲いかかられる。昨日は全員警戒していたが多分今日はそうもいかない。5分と経たずに乱闘だろうな。
……どうする? やはり星野を警戒しつつ周囲の奴らを倒して活路を作る? 開幕と同時に星野に奇襲を試みる?
いや、仮に星野を屠れたとして周りの連中をどうにかできるか? 無効化できると言ってもそれは魔力消費を伴う。
《夜叉》が数の暴力に耐えられる能力かというとどっちとも言えないがまあ耐えられるとしても限度というものがある。間違ってもその限度は大都市を1つ落とすような規模ではないと俺は思う。そこまでいったらただの兵器だろうが。
「……はあ。俺に《白都》から脱出なんてできるのか?」
「……はあ。私に《白都》から脱出なんてできるのかな?」
やべえうっかり声に出てたか。変な目で見られないかと辺りを見渡すと1つの目とぶつかる。……うん?
今の台詞ハモったような気がしなかったか。ハモる? 《白都》なんて言葉がか? そんな疑念が渦巻きながらも頭は並列に働き目の前の情報を脳に焼き付け認識する。
この感覚はついさっきゲームでも味わった。――顔と名前は一致するが髪色だけは一致しない彼女はまさか。
どうして自分がL&Dの内容を覚えているのか。ぽっと湧いた不可思議な疑問すら頭の隅に追いやって目の前の銀髪の、自分と同じ高校の制服に身を包む彼女に、少し前と全く同じ台詞を投げかけた。勿論それはたった一言。
「……ツグミ?」
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ここにきてチマチマ書き溜めていたストック、そして投稿している間に増やした追加分も底をつきました。
そういうわけで更新頻度が落ちる事になると思います。ごめんなさい。
さて、ここからは中々増えないストックと先走りして止まる事を知らないプロットと楽しく格闘しながら続きを書いていこうと思います。
インスピレーションとかボキャブラリーを一瞬で増やす課金アイテムが欲しいなと思いつつ楽しんで書いていきますので、また暇ができたときにでも読んでくださると嬉しいです。




