板についてきた通り魔
「ここが《白都》……」
《黒都》の時と同じように都市の入り口まで一気に飛ばされたらしい。しかしこの入り口の時点で2つの都市の違いが克明となっていた。
「すげえ、道路が舗装されてる……」
《白都》からは舗装された濃い灰色のアスファルトが地平線の果てまで延々と伸びている。それもいくつも。全方位に。
これはプレイヤーがここまで作り上げたのか、それともそもそもこんな風にデザインされていたのか。
もしも後者だとするとデザイナーを小一時間問い詰めたくなるな。……まあ、《黒都》も大雑把に作られているのはそれはそれで味が出ていると言えなくもないがなんだかなあ……。
「しかも超眩しいな」
確か初期にGMが言ってたっけか。《黒都》は万年夜で《白都》は万年昼だとかなんとかって。その言葉通り今まさに俺は太陽に照りつけられている。
眩しい事には眩しいが夏の暑さのような不快感は感じさせない。ゲームの仕様なのかそれとも《白都》の雰囲気を体現しているのだろうか。
ほら、暑苦しいウザい陽キャじゃなくて誰に対してもフレンドリーですよー、みたいなそういう感じをイメージしてるとかか?
「とにかく中に入ってみないとな」
ロクに見てもないのにレビューを書く事はできない。偏見だけで物事を判断してはいけないのだ。ただし陽キャは除くけど。
そんな思いからとりあえず足を踏み入れたが一歩目から違う。《黒都》と全く違う。
《光》の使い手が集まる最大の都市と言うだけあって建物は多い。発展はしている。《黒都》に比べれば建物の大きさや数は見劣りするが。
しかし至る所に草花が生えており、その中の一部は建物に絡みついたりしている。あれだ。何とかカーテンってやつだ。環境になんか優しい感じのあれだ。自分の知識量に絶望しながらも《白都》を歩き回る。
「おお、市場なんてのもあるのか」
ふと右を見渡すとマーケット街みたいなものが目に入る。左右に出店を広げる人間が規則正しく並び、中央は買い物客で溢れかえっている。
太陽の沈まない街に相応しい生活ぶりだ。こりゃ確かに栄えるなあ。《黒都》は何というか弱肉強食なイメージが強いから今後こっちに人が流れてもおかしくないな……。
などと考えたところで本来の目的を思い出す。そうだ、能力の収集。観光するのも悪くないがこういう活気のいい場所はあまり得意ではない。趣味に関する場なら大人数だろうと問題は無いんだけどなあ。うわあ面倒くさい体質。
って、観光のレビューをしに来たわけではなかった。狙うは良さげな能力。それとその詳細。詳細については正直望み薄だとは思うけどな。
さてどうやって奪うか?そんなのわけない。こうすればいい。
誰に諭すわけでもないのにそんな事を言いながら手近な女子に狙いをつける。細い腕につけた時計を眺めながら茶色のポニーテールを左右に揺らして壁に佇む少女。
待ち合わせか何かでもしてるのだろうか。ひょっとして彼氏とかか?《白都》だしその確率は高いだろうな、なんて偏見100%の考えと共に彼女に迫る。
待ち合わせの彼氏には悪いがこっちも楽しく生きるためだ。悪く思わないで欲しい。
「えっ!? ひゃっ!?」
堪らず彼女は自身の《光》の能力を発動させる。護身用にするなら自分の得意属性、そしてこの街ならそれが《光》である確率は非常に高くなる。
程なくして彼女が握っていたのはナイフだった。それを握りしめて俺が間合いに入るのを待つのかと思いきやこちらへ向かって投擲してきた。
「たあっ!」
「投げナイフかよ!」
しかし遠距離の対応はもちろんできる。《夜叉》を速攻で右手に纏い、飛来するナイフを叩き落とす。実際には地面に落ちる前にナイフは無効化――側から見れば分解するようにも見える――されてしまうのだが。
そのまま俺は難なくその少女に近寄る。
「ひぃっ……来ないで!」
再びナイフを持って正当防衛にかかるが無論そんなものでやられるような俺ではない。無慈悲に、そして無関心にナイフを消滅させる。
「どうして……私の武器が……?」
「本当、どうしてだろうな。ついでにこのナイフ、どんな能力か教えてくれないか?」
「急に言われて……そんなの、教えるわけないでしょ!」
「だよなあ……」
とりあえず早急に倒して人混みに紛れよう。そうしてまた次の相手を探すんだ。そう自分に言い聞かせて手を大きく上に上げる。
《光》の配分が多い奴の弱点は《闇》。そして俺は《闇》が100%の《晦冥》だ。一撃離脱でどうにかなるだろ。《晦冥》の特権の身体強化をフルに活かせば追いつかれる事も多分ない。いけるな。
そう思って振り下ろそうとした手だが、その途中で旋回させて後方を覆うように挙動を変更させる。
理由はたった1つ。何かが飛んできたからだ。何かはよく分からないがそれが持つ光は目の前の少女を照らせるほど眩しかった。それならもう横槍しかないdだろう。
「ちっ!」
それがいかに強いとしても所詮は《光》。それは俺の弱点でありカモでもある。ナイフよろしく難なく消し去って乱入してきた奴の姿を拝む。
「僕の《陽光》、割と自信があったんだけどあっさり防がれるとなると少し悲しいなあ」
「……誰?」
そこには白い魔法陣をきらめかせる銀髪の如何にも優男といった風貌の人間が立っていた。




