決着の後はそっけなく
「ガアアアアッッ!! グアアアアッ!?」
背後からの《月光》、そしてツグミの正面から放たれる斬撃。この総攻撃に対してゴーレムは逃げも隠れもしなかった。
間も無くして攻撃を受けたクリスタルが破砕してパリンという切れのいい音を残してゴーレムは地に伏した。
「最後さ、避けなかったよな」
あの場面で抵抗する事は今までの性能を考えたらできない事もなかった。どうしてそれをしなかったのか。
「足掻いて相討ちに持ち込んだところでそれは見苦しいだろう。……少なくとも我はそう思うが」
聞き取れないほどではないが確実に弱まっている声で俺に答えるゴーレム。コイツにはコイツなりの美学があるって事か。そうプログラムされてるだけかもしれないが。
「私達は別に勝てれば何でもいいと思うんだけどね」
「……そうか。何であれ、我を楽しませた事は褒めて遣わすぞ……」
それだけ言い残すとゴーレムはこれまでのプレイヤー同様、光に包まれて消えていった。
それを確認するとありきたりなファンファーレと共にEVENT COMPLETE! の文字がでかでかと宙に現れた。
「やーお疲れ様でした。これでイベント終了ですよ。さて、お待ちかねのMVPについてですが言うまでもありませんよね?」
これまでとは打って変わって緊張感の欠片も感じさせない腑抜けた声が響き渡る。GMだ。しばらく聞いてなかったせいで少し懐かしく感じる。
「本来は賞金として500万、廃人風に言うと5Mをパーティ人数で折半するつもりだったんですが」
「廃人じゃなくても使うぞ」
KとかMとかGは常識だろう。教師によっちゃ授業でも使ってるし。……これってもしかして廃人案件か?
「まあなんにせよ。本来はそうするつもりだったんですけどね。あのゴーレムさん、途中でルール違反したんですよ」
「私からしたらスペックそのものがルール違反な気がしたんだけど」
げんなりしたようにツグミが口を挟む。まあ実際1つ目のイベントのくせにぶっ飛んでるなあとは思ったけど。
「アラタ様が両手の《夜叉の窃盗》で防いだ攻撃、ありますよね?アレ、本来は範囲は一直線で1番MVPに近い方を狙うようにしていたんですよね」
「何それ。じゃあ本来は最後の最後に俺達を消し炭にするって魂胆だったのかよ」
「はい。たまたま標的が貴方達になるはずだっただけで誰がMVPであっても結果は同じですが」
本当にゲームシステムといいギミックといいまともな奴はこの運営にいないんじゃないのか。
「じゃあどうしてあんな事になったの?」
「バグです」
「バグ?」
「ええ。ゲームにはつきものでしょう?」
「つきものって……そりゃそうだけど致命的すぎじゃないの?」
「はいかなりヤバいやつです。このままだと炎上案件なんですよ」
炎上がーとか言ってるくせにやたら調子は軽いままだ。まあ現実に記憶が持っていけないからゲーム外では安全だと言いたいのだろうな。
「まあその通りなんですけどそれでも騒ぎは収めるに越した事はないので補填を行おうと思ってます」
それはそれで普通の運営ならやりそうな対応だ。別に勝手にやればいいんじゃないの、と思う。
「つきましては賞金の5Mを長城の最上部に辿り着けた者全員で山分けという対応をとせて頂きます。一律100kの報酬ですね」
「「それはおかしい」」
俺とツグミ、揃って2人で声を上げる。冗談じゃないどれだけこっちが苦労したと思ってるんだ。
「私達で絶対ゴーレムのHPを半分、いや7割は削ったと思うんだよね。もうちょっと何かないのかな?」
軽くキレ気味にツグミが言うもんだからこちらとしても乗っからないわけにはいかない。1人より2人で声を上げた方が強い。少数で声を上げても意味がない事は学習済みだ。本当現実は厳しいもんだ。
「まさかMVPクラスでも、たった2人の暴動なら止められるとでも思ってるんじゃないだろうな?」
「おお……GMを脅迫しにかかりますか……。逞しく生きてますね。現実とは大違いじゃないですか」
「うるさい。それでどうするつもりだ? 軽口じゃなく報酬の話をしろっての」
「人が相手じゃないとここまで高圧的になるんですね……いいでしょう。遠からずどこかで貴方達2人の補助を何らかの形で致しましょう」
その声に関しては普段よりも真面目さがあったというか、何というか適当に流しているようには感じられなかった。
「抽象的すぎない? もうちょっと具体的に言ってよ」
「分かってませんねー。抽象的だからいいんじゃないですか。いざという時、どんな時にも頼りになる隠し玉を持てるって事ですよ?」
「どんな時にも……か……」
これからのプレイを考えると確かにジョーカー的存在になるしなあ。
「どうしたの?」
「……釈然としないけど俺はそれでもいいか。その代わり、マジでヤバい時には助けろよ」
「ええそれはもう。確約します」
俺の返答にGMは満足したらしい。さて残りはツグミだが、
「まあそれならそれでいっか。GMに借りを作るのも面白そうだし」
「普通じゃできませんもんね」
「案外あっさりしてるな」
「まあね。金策は他にもあるだろうし今はこれでいいかなってね」
「さて御二方。そろそろ夜が明けます。ログアウトしますよ」
GMが、親が子供を家に帰すようなそんな口振りで夢の終わりを告げる。思えば7時間ひたすら動きっぱなしだったのか。
そう思うと急に体に疲れが押し寄せてくるように感じる。ここから地獄の現実パートが始まるというのに勘弁して欲しい。
「じゃあここでお別れだね、アラタ。お疲れ様」
「ん、お疲れ」
ゲーマー定番の挨拶を交わしてそれぞれ光の中に溶けていく。この一期一会な感じがやはりゲームをしているのだとひしひしと感じさせる。
夢と現実の狭間を揺蕩いながら俺は思う。
……現実での立ち回りを間違えなければ。攻略wikiみたいなのを見つけて、それに則って生きるようにしてれば。
……現実でもこんな風に楽しめたのだろうか?




