切り札を見せるタイミング
「今だ! 盾部隊は前進! 何としてもパンチを食い止めろ!」
「A隊はその後ろから遠距離攻撃! B隊C隊はボサッとしないで回り込むのよ!」
戦闘開始から数分。主導権を握っていたのは俺やツグミ、ましてやゴーレムでもなく――まさかの陽キャだった。
「むぅ……何だこの統率力は!? 言葉があるとここまで人間は変わるというのか!?」
攻撃をいなし、防ぎきれない手数で攻める。流石陽キャ様の戦略だ。俺が実現不可能なだけでなく妨害する事もダメージ量から不可能だ。この猛攻にはさしものゴーレムも困惑を隠せない。
「あちゃー。見せ場も何もかも完全にあっちに持ってかれてるよ」
「まあ……こればっかりはどうしようもないよな」
背後から何人か始末する事は造作もない。ただ、この空気でそれをやると報復が恐ろしい。下手すると《黒都》で晒されるまでありそうなんだよなあ。
マナーが大切なのは就活の場とかよりもこういったゲーム空間だと俺は思う。とにかくこれは今までのダメージ量を奴らが上回らない事を祈るゲームになりそうだな……。
「……らん」
絶賛集中砲火を浴び、爆発に巻き込まれているゴーレムが何か言ったような気がする。
「……らん……つまらんぞ! ふざけるな! ひたすら固定化された行動を取りおって!」
目を赤く光らせたゴーレムが急に叫び出す。
「……ボス戦がルーティンワークになるのは割とお約束なんだけどな」
ボスの行動に合わせようとすると大体相手の行動パターンも決まってるからとりあえずこう動け、みたいなのができあがるしなあ。
「始めに貴様らと戦った時はそのような動きは見せてはいなかったと思うが?」
俺達に指を指してそう問い詰めてくるが、そう言われてもな……。
「2人で倒すの前提で行動なんて安定させようがないからね……」
苦笑いしながらツグミが言う。あれはまあ、苦肉の策ってやつなんだよな。
「そもそもボスとしてプログラムされてるならそれくらい受け入れるもんじゃないのか?」
誰かがそんな疑問を口にする。普通に会話が成立してる辺りこいつもイかれたAIの類なのだろうが結局は敵キャラだ。倒される運命を受け入れてないはずがない。
「何を言うか! 我は全力で戦えとだけプログラムされている! 勝ち負けなど知らぬわ! そして我はあの血湧き肉躍る戦いを望むのだ!」
言うやいなやゴーレムの赤い目がさらに赤く、いや紅くという表現の方がいいだろうか。血の色、警告の表示の色、とにかく危険を連想させるようなそんな刺激的な色に染まる。
「本来なら最後の最後に使う技だが……いいだろう。我の前に立つ価値があるかをここで見定めてやろう!」
叫ぶゴーレムはグルグルとその場で回転する。それと同時にさっきまでと同様レーザーをぶっ放す。
しかしここに来てその色は一段と凶悪なものに変わっている。白と紅。その2色が入り混じった太い光線は回転の勢いに合わせて全方位を襲う。
「皆、回避するんだ!」
さっきのリーダーが慌てて叫ぶも逃げ道らしい逃げ道など存在しない。なにせここは城の最上階、屋上だ。逃げられる場所と来れば一箇所しかない。
「クソ! とにかく飛び降りるぞ! そうすりゃレーザーは当たらねえ!」
「無理っすよ! 飛び降りたらそれこそ自殺行為っす!」
その一箇所も大空に逃げ出すというもので翼でも生えない限りは生き延びられない。そんな詰んだ状況での判断の迷い。それが生じた者から順にレーザーの餌食となっていく。
「うわぁぁあああ!?」
「折角ここまで来たのにぃ!!」
順に塵となっていくプレイヤーを眺めているがそうしている俺も対象であるという事は忘れていない。
「さあ! 貴様はどうする!?」
まるで俺が回避するのを期待しているかのようにゴーレムは俺にレーザーを向ける。他の者はついでとばかりに注視をしていない。
「どうするも何もこんなの……力押ししかないだろ!」
芸がないとか言われるかもしれないがこっちは命がかかっている。生きるためには手段なんて選んでられないのだ。しかもそれが強力な手段であれば尚更だ。
左手で右手を支えつつ、だらりとその手の力を抜いていく。そのまま下から上へと空気を引っ掻くように。壁を切り裂くように。空へ向かって手を振り上げる。
「――《夜叉》ぁっ!」
迫り来る《光》の波。こんなのを触って防げるのかと言われれば不可能だ、みたいな事をなんかの本で読んだ気がするがここはゲームの世界、そんな法則お構いなしだ。
《夜叉》はあらゆる《光》を飲み込める。レーザーだって魔力消費を覚悟すれば掻消せる。
「――ちょっ……熱いって!」
《光》の攻撃そのものは確かに必死に消し飛ばしている。しかしそれにしては熱量が大きすぎる。《光》の一部として消えるものじゃないのかよ。
「ははははは! その程度なのか!?」
なおも出力は上がり続けている。《光》のダメージは消せているが勢いはやはり殺せない。
「まだ……いける……!」
何としてもここでやられる訳にはいかない。周囲を一瞬だけ見渡すとそこはもう火の海と化している。
という事はプレイヤーの生き残りはもういない。俺と、その背後のツグミ以外は。ここで全滅エンドなんてのはゲームとしてはあまりに呆気ない。まだ何とかなるはず、出来るはず。
「……これなら、どうだよ!!」
叫んで自分を鼓舞しながら支えていた左手を下ろす。その左手にも《闇》を纏わせる。魔力消費が凄い事になりそうなのと上手くいくか不安だったから試してこなかったいわゆる二刀流。
ぶっつけ本番でもこのまま押し切られるよりは可能性のある策だろう。それについさっきポーションも飲んだばかり。何とかなるはずだ。
「ら……ああっ!!」
2つの黒い爪が《光》を空へとカチ上げる。右手と左手で純粋な火力は2倍。そう考えるとまあ当然の結果なのかもしれない。ゲームなんだし。
そのまま上空で《光》は爆散。強烈な風圧が俺達の周りの炎を一気に吹き消す。
「まさか両手で防ぐとは……! しかしそろそろそちらのポーションも尽きた事だろう? 着実に追い詰められておるなあ?」
自身の最強の一撃を耐えきった事にやはり驚きは見せるが同時にあくまでも自分が勝つ、そんな執念も同時に見せるゴーレム。
自分勝手に動き、尚且つ勝利は意地でももぎ取る。そのブレない姿勢はNPCながら敬意を示したくなる。
「まだ1本残してるんだよなあ」
目の前でポーションの瓶を振って見せる。これでもうしばらくは何とかやれる。
「ほう? だが貴様には我に対する決定打が無いように見えるが?」
確かにゴーレムの言う通り今まではどちらかというと防御に徹していた。というか能力の都合上、そうするのが最適解となっていたからだ。
「まあ、こんな戦い方してたらそう見えるよな。つーかそう見せるのが目的だったわけだし」
しかし実際は切り札が無いわけでも無いのだ。
「なあツグミ。今から俺がやる事さ、他言無用にしてくれないか?」
できればまだ誰かに知られる訳にはいかない。まだ少し時間が欲しい。半ば祈るようにそう問いかける。
「別にそんな心配は要らないよ。だって私、君と一緒で友達いないしさ」
「おい。俺がぼっちなの前提で言うなよ」
「強力な《闇》を惜しみなく使ってるんだよ。それって相当な陰キャって事だよね。じゃあ同類に決まってるよね」
ぼっちなのは認めるが他人に言い切られると腹が立つな。
「もう何でもいいよ……。それよりもアレだ、ゴーレム。見せてやるよ……《夜叉》の本当の能力を!」
まさか初めてお披露目するのがこんなに早いとは、と思いながら俺は手を大きく閃かせた。




