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L&D - 陽キャは光と、陰キャは闇と -  作者: 新島 伊万里


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20/107

コミュニケーションの障害

 ゴーレムは誰の挑戦も受けると言った。そしてそのゴーレムはランドマークのように誰が見ても分かるように頂上で暴れている。


 つまり誰に対しても公平な一獲千金のチャンスだという事を示す。俺達が倒した第一形態の扱いは気になるが今はそれどころではない。


 そもそも金が欲しいのは俺達以外に限った話ではない。全プレイヤーは金の亡者なのだ。だからこそ始めは戸惑っていたものの攻略しようとする奴らは徐々に増えてきた。


 グガアワアッ! 


「――!」


 長城を登れば登るほどモンスターの数は増え、厄介になっている気がする。塔の中央部から、空から、そして森からここまで登り始めてきた奴らとまさに多勢に無勢な歓迎を受ける。


 しかしプレイヤーもそろそろ戦闘には慣れてきた頃合いだ。襲ってくるモンスターに対し一丸となって対処している。大部分は。


 人の声がしない不気味な戦場を俺とツグミは疾走する。すれ違えばモンスターでもプレイヤーでもお構い無しに一撃を加える。


 どうせ乱戦になってるんだ。少し弱らせれば後は勝手に脱落するだろう。他人のポーションは引ったくってそれで回復も行い、とにかくやりたい放題やってやる。


 正直今なら窃盗しようが何しようが告げ口されて対策を立てられる心配がない。なぜならその口は奪われてるし。これはこれで俺達にとっては幸運だ。物は考えようなんだな、なんてポジティブな考えを珍しく持った気がした。


 そして現実では蹴落とされてばかりの俺が他者を蹴落とす事暫く。緩やかな斜面が広場へと伸びていくのが目に入る。


「よく来たではないか。最深部では世話になったな」


 そこにいるのはやはり先ほどのゴーレム。しかし地下室で見た時とほんの少しだけの違いがある。


 背後のアレ、怪しいよね。


 ツグミが顎でその明らかに増えた装飾を指す。そこには水色の巨大なクリスタルが浮遊していて、そこから翼のように細長いクリスタルがいくつか生えてきている、ように見える。


 ファンタジー系のゲームだとエーテルとか言うやつだろうか。詳しくは知らないけど。


 何にせよ地下室にいた時はあのエーテルはなかった。その後、地下から飛び出して《言語喪失》を使った。とくればあのエーテルが言葉を封じている仕掛けと考えるべきだろう。他にそれらしい候補も考えつかないし。


 だったらぶっ壊すしかないよな……。そう考えた俺はゴーレムの周囲を回るように、撹乱しようと走り出す。


 クリスタルの羽パーツはぱっと見はゴーレムについていてもそこまで違和感のようなものを感じさせない。つまりあの羽のネタに気づいているのは俺とツグミの2人だけ。


 さっきの反応から彼女も恐らく気づいている。それならば連携は多分問題ないはず。きっとどうにかなる、と思う。


「先の我のスピードを忘れたか? 刹那の内に捕らえてやろう!」


 相変わらずの速度で俺の背後に回り込んだかと思うと。そのまま足を水平に運んで強烈な蹴りを放つ。その太い足から放たれる蹴りは近くにいたプレイヤーをも巻き込んで俺に迫る。


 響く断末魔ごと俺に急接近するような、死神の鎌もかくやというような殺気が俺を襲う。


「他愛ないわ……む? 何処へ行ったというのだ?」


 しかしゴーレムが見つめるのは床に空いた窪みだけ。俺の姿は恐らく視界に入っていない。


 だが俺はゴーレムを視認できていなくとも位置を把握できる。ここは人間が喋る事を禁じられた空間だ。おかげでボスの声は明瞭に聞こえてくる。


 ……多分この辺り。


 当たりをつけて《月光》を放つ。それは地中を抉って天へと向かう。それに合わせて地中が酷く揺さぶられる。


 ビキビキと音を立てて床が割れる。そこから噴水のように《闇》が溢れ出す。


「ぬううっ!?」


 完全に死角からの一撃。それに合わせて地中から飛び出し、怯んだその巨体を足場に空中へと躍り出る。


「蹴りを受ける直前に地面へと退避したのか……大方この珍妙な技を使ったのであろうな。うむ、使い方は悪くないぞ」


 手口を看破し、加えて賞賛の言葉まで送ってくるゴーレム。しかしそんな事を言われても俺は手を緩めない。育ちが悪いから褒められた時は裏があると考える癖がついてる。


 ……そもそも俺が純粋に褒められる訳無いんだっての。その意味も含めようと下卑た笑みを浮かべて再び手を開く。


 ここだ。ここ一番の好機がやってきた。こうなる事を目指して行動したが想像通りの完璧のタイミングだ。ゴーレムのコアは完全に俺の視界に入っている。ここで《月光》を叩き込んでやる――!


 そうして俺が《月光》を放った瞬間。少し離れたゴーレムの死角からふとヒュインと一陣の風が凪いだようなそんな感覚を覚えた。


 !?


 数秒後、それは黒いカマイタチと化してゴーレムの背後に目掛けて突貫していく。


 馬鹿! 止めろ! ()()()()


 《言語喪失》は上手く使えば俺の武器になると考えていた。実際、要所要所では俺を補助してくれる場面も無いわけではなかった。


 だがここで俺は思い知る。あくまでも《言語喪失》はゴーレムの特権。偶然でも何にしてもそれは奴を守るために作用するのだという事を。


「……うむ。肝が冷えたぞ。今のはそこな小娘の失態だな」


 そんな言葉を放ったゴーレムは未だ健在。……やられた。

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