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個人プレイの掛け合わせ

 ところでブレイクスルーという言葉を知っているだろうか。なんか行き詰まった状況を打破した時に使うらしい。俺はこれまでに2回ブレイクスルーを経験している。


 1回目はただのゲーマーという状況から稀有な《晦冥》能力を得た時。2回目は《夜叉》を作り出した時。そして今、3回目のブレイクスルーを俺は迎えている。それは《晦冥》でも協力できる助っ人の存在。


「そっちの日本刀は近距離だけじゃないわ! 斬撃が飛んでくる!」


 ただ今絶賛戦闘中。敵はおよそ10人ほどのリア充グループ。男女でひたすら騒いで遊んで……ゲームの中で何をしたって否定する気は全く無いが湧き上がる嫌悪感は否定できない。歩く合コンかよコイツらは。


 彼らがモンスターとの戦闘を終わらせた瞬間を狙って襲撃をかけたので2、3人はワンパンで終わった。どんなハンターだって疲れて涎とか垂らしてるモンスターを見たらボコボコにするだろ? アレと同じだ。


 まあ残りは流石に反応してこんな乱戦に持ち込まれたんだがここは想定内。というか私なら何人いても対応できるよ、なんてツグミが言ったからそれに乗っかっただけなんだけどな。


「気をつけても無駄だよ」


 いざ戦闘が始まると本当にツグミは多人数を相手に1人でも問題ないと言わんばかりの戦法で大立ち回りを見せる。


 彼女の斬撃が飛ぶのは知っていた。しかしその射程が視線に入るもの全てだとは思わなかった。


「無理だ! こんな数はどうしようもねえよぉ!」


 彼女はノータイムで刀を振り続け、斬撃の雨を降らせる。狙いを広くしただけ威力は下がっているらしいがここではそれが狙いだ。チマチマと地味にダメージを与えていく。


「一旦ポーションを飲む! 対応は任せた!」


 一団の誰かがそう叫ぶ。そしてそれは俺の突入の合図でもある。


「なんだあいつ!? 急に突っ込んできたぞ!」


「飛んで火に入る夏の虫だ! 集中砲火を浴びせろっ!」


 途端に光の弾幕が俺に集中するその眩しさは目を背けたくなるほどだ。サングラスとか欲しくなる。ま、サングラスよりも効果的に《光》を遮れるものを持ってんだけど。


「《夜叉》!」


 溢れる白い波。それらを遮るように手を振るう。俺の《闇》を纏ったその手は光を全て吸収し無に帰す。


「何だ今の!?」


「当たってないの……?」


「む、無効化したんじゃないのか!?」


 戸惑ったその一瞬を逃しはしない。一気に肉薄して数人を蹴り飛ばす。返す刀で《夜叉》でさらに数人を切り裂く。これもダメージを与えるだけで倒すつもりは毛頭ない。とりあえず今は。


 さらにそのままダッシュでポーションを飲もうとする奴に迫って瓶を奪い取る。と同時に《夜叉》を丁度手刀のようにして胸に突き立てる。


「が……あっ……! みんな……俺ごと、やれっ……!」


 しかし相手は《光》の割合が高い集団。とどのつまり能力とな抜きにしてもハイスペック集団。現実世界の勝利者だ。弱点を突かれたとはいえそう易々とやられるわけにはいかないらしい。


 突き立てた俺の手に必死にくらいつき、足も絡めてきて意地でも逃さないようにと俺を拘束する。


「この……うざったいっての!」


 体を地面に投げ出して2人してもみくちゃになっているところを彼の仲間はチャンスと捉える。彼が命がけで作った千載一遇のチャンスだと。


「ケンイチの努力を無駄にすんなよお前らあっ!!」


 その言葉に感化されたのか全員が全員俺をターゲットする。おおよそ現実ではありえない光景。まさかここまで人様の注目を浴びるとは。


 しかし注目が集まると必然的にノーマークな部分も生まれるわけで。


「何人かこっちを足止めしようとは思わないの? 情に厚すぎるのもあれだよね」


 一瞬マークが外れた隙を突いてツグミが背後からズバズバと切り裂いていく。人斬り然としたその行動は少し楽しそうであった。


「後ろ! ヤバイぞ! どうにかしないと!」


「けどケンイチが……!」


「いや俺でも流石にもう抜け出せるから」


 ゴタゴタしてる間に何回も《夜叉》を突き立ててケンイチ君とやらはとっくに光に変えてやった。既に俺は自由の身。


「マズいわ! 挟み撃ちよ、これ!」


「「遅いって!」」


 何もかも後手に回った《光》の使い手を制圧するのにそこまでの苦労はしなかった。



 *



「結構ポーションも貯まったね」


「これならボス戦も何とかなりそうだな」


 あれから《光》を物凄いペースで襲っていった。奪ったら倒して、そのまま進んでといった感じに。2人でポーションを分けたにも関わらず一歩進むたびにポケットがガチャガチャと音を鳴らす。


 そして気づけば最深部にまで到達していた。最後の階段を降りた先は松明が照らす一本道が続いており、そこには巨大な扉が行く手を阻む。言い逃れのできないボス部屋だ。


「……それじゃ行こっか?」


「どうせセーブも出来ないし行くしかないよな」


 そう言って扉を開ける。そこにはコロッセオの闘技場のような丸いスペースが広がっていた。客席には誰もいない。気持ち的に周りの目を気にせずどんな手だって使えるようで安心する。


「ね、あそこ……」


「あれがボスか……」


 中央には鎖で繋がれた石造りの人型のロボットのようなものが鎮座している。ゲーマーならゴーレムを真っ先に想像するところだ。


「思ってたより普通なんだな……」


「まあ、見た目はね」


 バベルの塔と万里の長城を悪魔合体させるわけの分からない運営だからもっとおかしな見た目のボスを出すと思っていた。


 まだゴーレムに似つかわしくないギミックとか入れてる可能性が残っているけど。


「ググ……オマエラ……テキ……カ……?」


 急にスイッチが入ったように目に光が灯る。全長だけでも俺達の5倍はありそうなその巨体がこれまた巨大な鎖をギチギチと引き裂いていく。


 四肢の拘束が解けてゆっくりと動き出すゴーレム。そして前傾姿勢を取り、顔をこちらへと向ける。何となく嫌な予感がする。


「……アイサツ……ガワリ……ダッ!」


「やべえ! 伏せろっ!」


「ちょっ!?」


 ツグミに飛び込んで強引に地面に引き倒す。根暗男子として、そして人としてあるまじき行動だがそんな事を言ってる場合ではない。


 その刹那、ゴーレムの両目が今まで見てきた《光》など比べ物にならないような光量をもって発光する。


「おい! あれがボスじゃないのか。一番槍は俺が頂いていくぞ!」


「抜け駆けはさせねえ! 俺がもらう!」


「だったら誰がもぎ取れるか勝負といこうぜ!」


 そんなゴーレムの行動に気づいていないのか、意気揚々と入ってきたグループが目につく。正確には目についていた。


「「「ぎゃああああーーっっっ!!?」」」


 それが見えたのは一瞬。ゴーレムが目からビームをぶっ放した後にはただただ門が瓦礫となって粉々になった光景のみが広がっていた。しかも不味いことに、


「……退路を断たれちゃってるね」


 瓦礫は堅固な山となり階段と俺達とを断絶させた。つまりもう戦う以外の選択肢が残っていないのだ。ゲームの主人公がこんな状況になった時は燃えたものだが、実際に陥ってみると笑えないな全く。


「とにかく遠距離で削れるだけ削ってみよう。何か弱点が見つかるかも」


「もしくはギミックとかな」


 当然のごとくツグミもゲーマーに分類される人間らしい。ならば諦める選択肢など選ぶはずがない。


「とにかく! いきなり報酬を山分けできるチャンスが来たんだよ。意地でも勝とうね!」


 こうして物欲に突き動かされたゲーマー2人は観客も味方もいない中、ボス戦に身を投じたのだった。

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