表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/107

ゲーム怠国日本

 現代日本。それは勤労や学業を修める事に意味ややりがいを見いだせなくなった人間が跋扈する修羅の国。いや、修羅の国は言い過ぎたか。それでもそんな風に考えている人間が多いのは事実だ。


 ところで人間は追い詰められれば誰だって救いを求める。例えば飢えに苦しむなら食糧を、寝不足であれば睡眠を、人間関係的な居場所がなければどこか新たな関係を結べそうなコミュニティを。


 とにかく何かを求めたがる。それは当然の行いだ。逃避行動も取らずに苦痛に正面から向き合える人間の方がおかしい。


 ではこの日本に生きる、生きがいを失った人間は何を求めるのだろう。簡単だ。現実で生きがいを得られなければ違う空間で得ればいい。単純だろ?


 そんな背景もあってゲームを嗜む人間は爆発的に増えた。それもただ誰かと話を合わせるため、とか単なる暇つぶしというような所謂エンジョイ勢というような輩ではなく、ゲームにかなり熱中している人間、悪く言えば完全に依存しちまった人間、それすなわちガチ勢様が増えたのだ。


 仕事や学校生活を淡々とこなしそれ以外はゲーム。ひたすらゲーム。そんな奴らがマイノリティーの時代は終わった。圧倒的マジョリティーとは言わないが、それでも無視できないくらいには多数派だ。具体的には選挙でいう無党派層くらい。やべえ、普通に無視できねえな。


 そうなると1つあたりのゲームのプレイ人口が増えるのは言うまでもない。有名ネトゲのサーバなんて週一で増えてた時期もあった。それくらいユーザーは増えた。


 必然的にゲームのランキング争いは激しくなる。誰も彼もが上位に食い込むためにひたすらイベントを走る。「古〇場から逃げるな」みたいなネタが昔からあるぐらいランキング争いは熾烈極めるものだったのに、それがさらに過激になった。


 質の悪い事にゲームをしない奴らの大半はリア充様だ。つまりゲームから逃げればそいつらの生活に溶け込むしか道は残されてはいない。が、そもそもそんな真似できる奴はゲー廃になんかならないんだよなあ。とどのつまり、ゲームは逃げられるもんなら逃げて見ろと言わんばかりの特性でもって未だ多くの人の心を支配しているのだ! 


 ……改めて見るとやっぱり修羅の国だなあ。


 そう思いつつも俺はコントローラーを離さない。指の動きを止めればそれだけランキングは下がる。


 ……俺の居場所はここだけなんだ。負けてたまるかよ! そう自分を鼓舞して夜を過ごす。俺もまた有象無象の廃人の1人なのだ。



 *



「……眠い」


 時計は朝の5時半を指している。結局イベントが終わる朝5時まで俺は一睡もせず戦いきった。必死に押し上げたランキングの代わりに今にも落ちてきそうな瞼を必死で押しとどめる。リビングに何とか辿り着くもそこには誰もいない。


 父さんはもう会社にいったのだろう。自前のPCと会社のPCの両方でゲームをするのが父さんのデフォだと聞かされた。殊勝なこったね。


 母さんは恐らく、いや間違いなく部屋だ。朝昼は主婦のゴールデンタイム。家事を極限まで簡略化しつつ残った時間で狂ったようにゲームを進める。これが主婦の定石。基本戦略。おかげで昼ドラの視聴率は急降下らしい。テレビ業界も廃れつつあるよなあ……。


 こんな光景は別に珍しい事ではない。割と普通なのだ。というかゲームは1日1時間みたいな考え方の方がおかしいとおもうんだよな。1時間で何ができるんだよ。レベルを1つ上げる事すら無理だろうが。おっと問題はそこじゃないな。


 問題といえば社会問題となった事が1つ。それは睡眠時間の長さだ。俺のように徹ゲーをする事も珍しくない昨今、国民1人当たりの睡眠時間は1日あたり1時間らしい。政府の統計でそう出ている以上そうなのかと言わざるを得ない。1日1時間となったのはゲームではなく睡眠だったのだ。


 もちろんそんな生活が健康に良いはずはない。そのせいなのか日本人の生産効率もガンガン落ちてきているらしくこれは政府としても見逃せない案件だった。


 しかしこの問題はどんな外交問題よりも厄介なのだ。一応、どこかの国がやったように一時的にゲームができないように電波を遮断するという手段がないわけでもない。


 しかしそれは絶対にやってはいけない禁じ手だ。理由は明白。ゲーム中毒者からゲームを奪えば暴動が起きるのは必然と言える。それに自衛隊だってゲーム廃人なのだから革命が起きるのは必至だろう。


 心のよりどころを失った廃人によって街という街が火の海に包まれてしまう。その恐れがあるため政府はただ指をくわえて生産性が落ちるのをただ見ているしかなかった……誰しもがそう思っていた。


 だが事態は予想もつかない方向へと動き出した。これから話すのはその全貌。そして、それによって大きく変わった俺の日常だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ