人には愛が……09
バックアップクローンの保管室にたどり着いたココロコは全力で駆け抜ける。
等間隔に並んだ巨大なコンテナの端々にが倒れ込んだ人影がある。キッカとポチが倒した侵入者だ。横目で一瞥しながらふたりのもとを目指す。
「はっ、はっ、はっ……」
普段彼女の顔を覆っているガスマスクはなかった。全力疾走の息苦しさに辟易してとっくに放り捨てていた。黒い長髪を踊らせて白いゴシックロリータのドレスの下に汗をかきながら駆けていく。
(……キッカ、ポチ……待ってるの!)
今はただ仲間のもとへ。
その一心が胸中を占めている。
……しかし辺りはあまりにも、静かだった。
ジィ、というコンテナの機械音が満ちる広大な保管室。自分の足音や呼吸音だけが響いて聴こえる。戦闘が続いているなら音が聴こえてくるはずだ。それが聴こえないということは、
(身を潜めたりして膠着しているか、それとも……)
考えたくはない想像。頭を振って追い出し、ひたむきに駆け続ける。
何度目かの角を曲がった時、ココロコは目にした。
迷彩柄の巫女装束。
すぐ横にはボロボロのジャージ姿。
横たわった仲間……見紛うはずもない。
「キッ――――」
仲間たちの名前を呼ぼうとした、その時。
ココロコのまっさらなうなじに、どこからか飛んできた注射筒が突き刺さった。
気づけば倒れ込んでいた。
「………………」
意識は朦朧としていて、とても身体を起こすことができない。
手を伸ばす。
すぐ側の迷彩柄の仲間に向けて。
しかし届かない……
「……なの……」
霞んでいく視界の中、ココロコは見た。
――ガシャン……
何もない空間に、突如としてそれは姿を現した。
無骨な警備用ドローン……
注射筒を射出するための砲身が風に揺れる菜の花の如くお辞儀をする。
そしてそれきり、動かなくなった。
(……?)
突如として出現したそれこそがキッカやポチ、そしてココロコの意識を奪った物の正体に違いないだろう。しかし見たところ停止している……
ココロコを無力化したことで任務を終えたとでもいうのだろうか? だから姿を現した……?
ふと。
その機械のすぐ横に、人影を見つけた。
猛る猛獣を鎮めるようにその手はドローンの表面に触れている。
直感的にその誰かが不可視の機械を止めたのだとわかった。
「…………、……だ、れ…………なの」
応える声はなかった。
視界が霞んでいく。
意識が薄れていく……
「キッ、…………、……ポ、……………………、…………………………………………」
仲間を案じるココロコの手の中から、意識はゆっくりと手放された。




