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ストレイシープ*コンプレックス  作者: 七緒錬
第四章 人には愛が
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人には愛が……05

 広大な真白い空間の中に巨大なコンテナが並んでいる。


 辺りから聴こえるのはジィ、という無数の機械音。たとえば広大な冷凍室の中はこんな音が絶えないのかもしれない――そんな所感を抱きつつ保管室を歩いて行く。背後にはキッカとポチの姿。足音を立てないようにしながら侵入者たちの背後に忍び寄っていく……




『何グループかにバラけたの。……物色してるみたいなの』


 保管室にたどり着く少し前、ココロコがそう連絡をしてきた。


 バックアップクローンの物色。その言葉の意味するところを考えて嫌な気持ちになる。ルイスは頭を振って、


「……そりゃ好都合だ」


 携帯端末にそう応えた。

 こちらは三人、対して向こうは十六人。一斉に相手取るよりは分かれたところを無力化していった方がいい。願ってもない好機だった。


「全員、片付けようよ」「やるなら徹底的にするべきかと、サー」


 キッカとポチの力強い声に、ルイスは同じくらいに力強く頷いて応えた。




 モニター越しに彼らを見た時、ルイスは『練度のある集団ではない』という印象を抱いていた。今、ひとつのコンテナに対して横に並んで物色を続ける二人組を見て、その印象が間違いではなかったことを知る。


(……無警戒? ここまで来る侵入者が背後を警戒していないなんて……)


 コンテナの影から様子を伺いながら、ルイスは思考する。何かの罠だろうか? この状況でそんなことをする意味がないように思う。


「………………」


 ポチもまたルイスと同じ疑問を抱いているようで怪訝そうな顔を浮かべている。キッカが辺りを見回してからルイスを見る。その視線が『やるならすぐに片付けてみせる』と語っている。


 視線を周囲の監視カメラに向ける。無数の監視カメラ。自分たちのことはもちろん、あの二人組のことも、また他の者たちも捉えているはずだ。


(……まずい事があればココロコが連絡して来る)


 連絡がないってことは、問題なし……そういうことであるはずだ。ルイスはそう結論し、キッカとポチに目配せする。ふたりは頷いて答えた。


 音を殺したまま駆け出す。




「……こんなもんか?」


 小声でキッカが言う。無力化に成功したが、いくら無警戒な背後への奇襲とは言え、まるで素人を相手にしているような手応えのなさだった。


 けど油断はできない。方法こそ不明だが、プリンタードームの位置を特定し、決して簡単ではないはずの侵入を果たした者たちだ。


 気を抜くことなく無力化した二人の身体をコンテナの影に隠す。

 その際に彼らの首に半透明の首輪を見つけた。


 お仲間(クローン)か。


(……ばっかやろう)


 奥歯を食いしばって苛立ちを飲み込む。


「……行こう」

「うん」「はい、サー」


 次の侵入者たちを無力化するために、駆け出す。




 その後も別の二人組、三人組と立て続けに無力化に成功する。これで十六人中の七人を黙らせたことになる。


 しかし次に見つけた二人組はこれまでの相手と違っていた。コンテナの中身を物色する者とその背後で警戒を続ける者と分かれているのだ。


(……面倒だな)


 ポチが視線であの二人組は後回しにするべきだと語る。


(そうするべきか……)


 これまでのように気づかれないまま襲撃できなければ、声を上げられる。ジィ、という機械音が満ちるだけの静かな空間だ、他の者たちにもルイスたちの存在が露見してしまう。それなら気づかれていない今、他の侵入者たちから先に仕留めた方がいい……そういう考えだ。


(……よし、決めた)


 後回しにしよう。キッカたちに視線でそう合図しようとしたその時、


「こちらD組。異常なし」


 警戒を続ける方が携帯端末を耳に当てていた。


「ああ? ……B組の定期連絡がないって? ……そりゃ妙だな」


 定期連絡による警戒はしていたわけだ。

 ルイスたちは既に七人、三組を無力化している。


 気づかれないまま行動することはそろそろ限界かもしれない……


「あぁ、こっちも連絡してみる」


 侵入者は端末を操作してから携帯端末を耳に当てる。

 別の相手への通話だろう。


(……まずいな)


 B組と言うその相手はルイスたちが無力化したうちのどれかだろう。通話が繋がるはずなく、彼らの警戒は高まる一方のはず。すぐこの場を離れることだってありえる。


 つぃ、と服の裾を引っ張られる。ポチだった。耳を寄せる。


「……こっちの数が知られることはないです、サー」


 ささやき声でそう進言してくる。

 監視役のココロコを含めてたったの四人。そのことを侵入者が知るすべはない。ならば数的有利を演出することで混乱を誘うことができるかもしれない……そういうことだろう。


 こちらの存在が露見したところで、向こうが数名ずつに分かれている今なら、その混乱を突くことができる。

 それは一考すべきことに思えた。


「…………、…………」


 わずかな逡巡。すぐに方針を決めて口を開こうとした、その時だった。


 携帯端末が震える。

 ココロコだ。


 何かあったのだろうか? すぐに耳に当てる。


『まずいの! 監視カメラがハッキングを受けてるの……!』


 思わず顔を上げる。ルイスたちを見下ろす監視カメラのレンズと目が合った。

 今やこちらの数は筒抜けというわけだ。


 それなら――


「打って出るよ!」


 言うとふたりは力強く頷く。


 ……なぜ最初から、監視カメラへのハッキングをしなかったのか?

 答えはすぐに出る。

 単純だ、別の場所へハッキングを行っていたからだ。


(……もっと早く気づくべきだった、培養槽のコンテナがそう簡単に開くはずがない!)


 外部からの制御が可能だと言っても、そこには数多の認証が、セキュリティがあるはず。侵入者たちの中にはそれをパスできる腕利きのハッカーがいるのだ。監視カメラを覗き見することくらい造作もないだろう。一瞬だけ内省してすぐに切り替える。


 二人組に向かって駆け出す。

 警戒していた相手がルイスたちを発見し、声を上げた。


「!? まずい、ひとがいるぞ――――!!」


 敵の声が響く中、ルイスは負けじと言い放つ。


「風紀委員だ! 動くなって言っても聞かないんだろ取り締まってやるから好きにしろよこんちくしょう!」

「……投げやり過ぎかと、サー」

「……かなりキてんなーうちの監督生」


 ポチがテイザーガンを射出しながら冷静につっこみ、キッカがスタンロッドを力いっぱい投擲しながら苦笑する。


「こうなりゃ正面から力押しだ、正々堂々と風紀を取り締まってやる!」


 二人組が倒れ落ちるのを見ながらルイスはそう応える。


「ま、そっちのが分かりやすくていいよ。派手にやろうじゃん?」

「迅速に片付けましょう、サー」


 ふたりはそう、不敵な笑みを浮かべて応えた。

 これで残りは六人。十分に数は減らしたがこちらの動きも露見している。


「ナビ、頼む!」

『任されたの。残りは二人組と三人組、孤立してるのが一人。そこから近いのは二人組、まっすぐ進んで角を左なの』


 携帯端末越しにココロコが応じる。ルイスたちはその二人組というのを目指して駆ける。風を切りながら携帯端末に尋ねる。


「……孤立してるのがいるって?」

『リーダー格なの。頻りに端末をいじってる……ハッキングもこいつっぽいの』

「場所は?」

『逆方向の出入り口に近いの。……あっ!』


 驚いたように声を上げる。


「どうした?」

『出入り口に向かって走り出したの!』

「……、他の奴らは!?」

『この場で応戦する気なの! 武器を取り出してる!』

「……、……リーダー格は、仲間を捨てる肚か……!」


 思わずちいさく舌打ちする。

 ハッキングを行って見せたのがそいつだとしたら取り逃がしたくない相手だ。ルイスたちと応戦する気の二人組と三人組に、この場を離れようとするリーダー格……


「こっちもふた手に別れるべきかと、サー!」


 ルイスに向け、ポチがそう言って、


「だな! たった五人なんだろ? アタシらだけで十分だよ!」


 キッカがそう笑って見せる。

 逡巡はほんの一瞬だった。ルイスは頷いて、


「頼む! おれはリーダー格を追う!」

「ここは任せろ!」「イエス、サー」


 角に出た時、ふたりと分かれ、出口に向かったという一人を追って駆けていく。


「引き続き、ナビ頼む!」

『了解なの!』

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