光の王国……01
クローン保護法。
国際世論が反クローン感情一色に染まってる中でそれを掲げた日本は時代から孤立し、二度目の鎖国を行うこととなる。皮肉にも二度目の鎖国によってこの島国はかつてない発展を遂げることとなった。
単純な理由は二点。
まず一点は合衆国という軍事大国との蜜月の関係による武力の抑止力が失われ、真に自衛する術が必要となったこと。そのためには軍備を増強する必要だ、言葉が通用する相手にしか通じない平和活動に意味はないのだから――そう考える手合いが率先して強く主張した。
善悪や好き嫌いはさておき、その主張のいくらかは正しいだろう。合衆国というおもりがなくなった以上はどれだけ有事に備えたとしても決して大げさにはならない。
ただしその用途は自衛に限る。我が国の所有する武力は原則として専守防衛に終始する。これを逸脱することはしない――政府で折り合いがついたのはそのような形だった。結果として軍備増強は図られ、少なくとも鎖国してから現代までの間、いわゆる領土問題はほとんど消えた。鎖国初期に領海に散布した数多くの機雷が発動したくらいだ。他国にしてみれば触らぬ領土にたたりなし――引きこもってる限りにおいては干渉する必要はなく、各国が動く際に足並みを揃えればそれでいい――そんな目算でもあったのだろう。
そうして果たした国際社会からの『自立』は内政の自浄を促し、綱渡りの末に国家としての弛むことのない『芯』を得た。
これが一点。
もう一点は明快で、クローンという『労働力』を得たからである。
農業や介護現場を始めとする万年人手不足とされていた職種の解消。また鎖国に応じて職の多様性は広まった。巨大なドーム型都市の建設や点検の必要性を鑑みればわかりやすいかもしれない。
とはいえ日本の食料自給率は元来とても低い。輸入に頼っていた面をすべて自国で負担するのは難しいことだった。元より低い自給率の上、クローンたちが消費する分の食料も加算する必要があり、さらに輸入に頼らざるを得ない石油資源などの問題も存在していた。
つまりは。
江戸の鎖国がそうであったように、貿易その物が完全に封鎖されているわけではない。
たとえば銃刀法が改正され、日本での銃の所持が合法になった。これは保護される前の――悪性のクローンから身を守るための、国民を納得させるための方便の一つとされている。笑い話のようだがこの実銃の九割は外国製の物であり、込められる弾はNATO規格に基づくNATO弾である。一応は国内企業が銃器開発に乗り出したりはしているのだが――閑話休題。
そうした外交のためのロビーその物は存在するわけだ。
ロビーがある以上、そこを通さないものは正規の手続きを踏んでいないことになる。密輸入であり、密輸出であり。密出国であり、密入国である。この手を使ったクローンのバイヤーは珍しくもなく、年に百件近くもが挙げられている。比較的海外に近い北海道や九州地方で保護されるクローン――つまりは五稜郭・小倉姓のつく――が比較的多いのは、そういった理由からだ。
それらの『裏口』を完全に撤去することは、できないことではないだろう。
しかし、やらない。
大きく分けて三つの理由がある。
ひとつは大変な手間が掛かるため、ひとつは裏口が存在することで公的な利益が生まれるため、そして最後のひとつは政府自体が使う裏口が存在しているためだ。
クローン保護を謳う国に表立って賛同することはできないが、支援したいと考える国もないわけではなかった。そういった国の特使が上陸するための、政府用の裏口……
「………………」
オダワラ・フラーレンに近い港に降り立ったその人物は、政府の手引きにより、そんな裏口を利用して入国を果たしたのだった。




