時の止まる場所
いつもの帰り道を逸れて、寄り道は裏山の方へ伸びる。森を進み、しばらくするとあ
る神社に辿り着く。それは丘の上に立っていて、桜の木に囲まれている。鳥居を越え、そ
の境内に足を踏み入れる。聞こえてくるのは雨の音と木の葉が揺れる音だけで、そこでの
時間の流れる速度はいつもと違っていた。周囲のどの木よりも大きく、幹が太く、標を引
かれている御神木が目に入る。根の方が地上にはみ出て、まるで地面にも枝ができたよう
に見えた。ここに居座って、どのくらいになるだろうと思いつつ、神社の裏へ回ってみ
た。そこでは、雨粒が神殿の屋根から直下にできた水溜りに落ちて静かに境内を響く。周
期的に落下する雫が水溜りに起こす同心円の波、その雫による波動が水中を伝わり、底に
ある砂粒を水中に浮かせてはまだ沈むのをしゃがみ込んで見ていた。
その規則正しく響く音、
広がっては消える波の輪、
上下する底の砂粒、
そのどれでも時間の経過を物語っている。だが、その繰り返す現象を私は時間は過ぎ去っ
てゆくのではなく、時間さえも同じところで繰り返されて、止まっているように思えた。
時が止まる場所は、そこにあった。
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(文中の神社は東京都内に実在する神社である)