姉ちゃんへ
ある日学校から帰ってくると、家のリビングで姉ちゃんがリストカットをしていた。ソファにだらりと横たわって、戸惑うような呼吸をしている。左手首から垂れる血でソファと床がぐっしょりと濡れていて、そんなものに穢されてしまったこの家がかわいそうだと思った。
早く何とかしなければ、と近寄って姉ちゃんの左手を持ち上げまじまじと傷口を見る。傷口はかぱと開き血を垂れ流し続けていて、女性器のようだった。中から、何か白いものがのぞいている。骨じゃない、脂肪でもない、白いものがこちらを見つめている。子供だ。
この人はだらしないので子供など一人では育てられそうにないくせにそんな物作ってしまって、どうするつもりなのだろう。
しかたないから、一緒にいてあげないこともないよ、姉ちゃん。
そう決めた途端に真っ白な子供がずるりと手首から這い出して、姉ちゃんを食べ始めた。
そんなにしてまで彼女を守ろうとする子供に負けたようで悔しくなった俺は、負けじと姉ちゃんに齧り付いて、食べ終わる頃には俺と子供は友達に、姉ちゃんは骨になってしまった。
世の中何が起こるかわかりません。