88 霧島、帰る。
あきらはひとみの両親と初邂逅を果たしたのち2週間ほど御殿に滞在した。
意外にも、一とも仲良くなった。
自分が麻雀を打てるということがバレたので、幸長さんとひとみと一と自分で麻雀を打つことになり、その場で打ち解けられた。
なんで一は一って名前なんだ?って聞いてみたら
覚えやすいでしょ?と言われた。
18で高校を卒業した時先代の一から名前を継いだらしい。
本名は百と言うらしい。ちなみに背は高いし声も低くてハスキーだが女だ。
俺も麻雀を打っている時に初めてわかった。
最初は男装で執事服を着ていたのでわからなかったけど。
1やら100やらややこしい名前だと思うけど、かわいいと思うよと言ったら照れながら怒っていた。
ひとみもそれをみてかわいいかわいいと言っていたら、一からロンされて涙目だった。
一発狙いの大博打打ちの打ち筋である一は当たると大きい。
この時も四暗刻単騎でダブル役満 (この時はローカルルールにより、ツモロンどちらもダブル役満。このルールを提案したのは一だった。)をぶち当てられ、独走状態だったひとみの牙城が崩された。
ちなみにその時の麻雀大会では最下位があまりの人と交代するルールだった。
ひとみはそのまま最下位まで落ちあやめさんと交代した。
あやめさんは鬼強かった。
そんなこんなで濃密な2週間を過ごした。
「あきらくん、また来てね!」
「あきら、フイユモルトにも会いに来い。」
例の、あきらに懐いた馬の名はフイユモルトという。
フイユモルトはフランス語で朽葉色。
綺麗な栗毛を持つ彼女にはぴったりの名前だ。
ひとみにフイユモルトが懐いたことを伝えると嫉妬しながら羨ましがられた。
まさか馬に彼氏を取られそうになるとは思わなかったのだろう。
しかも、気性が荒すぎて自分には乗ることができなかったフイユモルトがあきらにベタ惚れとなれば、羨ましさもあるし鼻が高くもある。
なんとも難しい心境だったようだ。
「ありがとうございます、あやめさん、幸長さん。」
「ちょっと!わたしには?」
「ひとみにはいつも言ってるだろ。」
「そうよ。電話もしてるじゃない。」
「それもそうか。」
例にもよって、2人は持ちきれないほどのお土産をレクサスLX570の後部座席に積めるだけ積んで帰った。
キロ単位のキャビアやフォアグラ、ケース単位のサロンのシャンパンなど、ありとあらゆる高級食品を業者レベルでひとみの実家から仕入れることができたので、しばらくは食卓が賑やかになりそうだ。
「帰りに検問所で通行証もらっときなさい。」
「わかりました。」
幸長さんとあやめさんの推薦を貰えたので、自由に検問所を通過することができる通行証を発行してもらうことができた。
これで自分一人でフイユモルトに会いに行くことができる。
二人はご両親に挨拶をすると車に乗り込み、御殿を後にした。
「ね?心配なかったでしょ?」
ひとみはそんなことをあきらに言う。
「アホか。初日は日本刀で真っ二つにされるところだったわ!」
「ほんとに!?」
「しかもひとみと別れろとか言われるし!」
「え?その話詳しく!」
「あれ?聞いてたんじゃないの?」
「あきらくんがお父さんに啖呵切ったって話しか…。」
「あぁ…。」
「詳しく話してくれるよね?」
「アッ、ハイ。」
あきらは詳しい話をせざるを得なくなり、話した。途中から相槌が減り、ひとみの方を見るのが怖くなった。
怖くてたまらなかったので、信号待ちでふとひとみの顔を見ると、そこには般若がいた。
あやめさん、あなたの娘はしっかりとあなたの血を継いでいます。
「そう。そんなことがあったのね。あきらくん。
辛かったでしょう。日本刀を向けられて。
これはいただけませんねぇ。」
ひとみはスマホを取り出し電話をかける。
「お父さん?今度会う時にはじっくり話を聞くからね?
どうして抜き身の日本刀を人に向けたのか、じっくりと、それはもうじっくりコトコト話し合いましょう。」
用件だけ伝え相手に恐怖を与えるやり口が幸長さんによく似ている。
幸長さん、あなたの娘はこんなに立派に育ちましたよ。
心の中で幸長さんの冥福を祈る。
その電話を受けた幸長さんは家で泡を吹いて倒れたらしい。
電話を切るとひとみはスッキリとした、晴れやかな表情だった。
「幸長さん。
今ならあやめさんに凄まれた幸長さんの気持ちがよくわかります。わたしも尻に敷かれる夫となるでしょう。
あきらはこの時すでにひとみとの結婚を視野に入れていた。
しかしまだお互いが学生という身分のため、学生結婚というものに忌避感があった。
それ故にあえて、ひとみに直接は結婚を意識させないように気をつけていた。
その気遣いが余計にひとみをやきもきさせることになるのである。
二人の運命やいかに!」
「あきらくん一人で何言ってるの?」
「いや、一人ナレーション。」
「あ、あぁ。」
あきらのナレーションは流した風な感じを装っているひとみだが、その実全く逆である。
尻に敷かれる夫。
敷かれる夫。
夫。
その一言がひとみの気持ちを大きく揺さぶっている。
結婚できるならあきらくんみたいな人がいいなぁとは漠然と思っていたひとみ。
しかし、あきらも言う通り二人はまだ学生。
結婚などはどこか遠い世界の話だと思っていた。
その考えを打ち砕く、あきらの突然な夫宣言。
ひとみは動揺した。
動揺しすぎてスマートフォンを裏表逆に持ち操作しようとしている。
下策。圧倒的下策。
あきらに動揺がバレてしまう。
その危機感がさらに焦りと動揺を誘う。
負のスパイラル。
しかしあきらは気づかない。
O型マイペース人間のあきらにこちらの気持ちを察することなど不可能。
そこに気づいたことにより落ち着きを取り戻すひとみ。
「新婚旅行どこにする?」
落ち着いたが故のミス。
普段から考えていたことがつい口から出てしまった。
どこに行きたいか、何をしたいか、普段から暇さえあれば常に妄想していることがバレてしまう。
脳みそ妄想お花畑女だと思われてしまう。
そんな危機感がひとみを襲う。
「もう決めてるよ。」
「君がチャンピオンさ。」
ひとみは負けた。
負けを認めた。
圧倒的敗北。
この少し強引なところがたまらない。
二人で行く新婚旅行なのに、行き先はあきらがすでに決めている。
最高。
尊みがメルトダウンしている。
ウチの推しってすごいでしょ?って信号待ちで隣に留まっている車の運転手さんに伝えたくなる。
おっと、鼻血も出てきた。
あきらにバレないように止血しなくては。
「ちなみにどこなの?」
「それは教えられないな。」
「もぉ〜いじわる!」
普段はそんなぶりっ子みたいなことは言わないが、今日という今日はもうダメだ。
よくわからないが、ダメなきがする。
偏差値が2まで下がっている自覚はある。
あきらはその頃ひとみが変だと言うことは感づいていたが、あえてスルーした。
可愛ければ良いのである。
「そういえばそろそろ引越しだね。
荷物もまとめなきゃ。」
「そうだね。いるものといらないものに分けよう。」
「いらないものはどうする?」
「清水くんに言ってみよう。」
「そうだね、あいつならなんかいいアイデアありそう。」
ひとみの家には高価なものが多くあるため、根が貧乏性のあきらと、物の価値がわかっているひとみにとっては捨てにくい。
困った時の清水というわけだ。
「っていうことなんですよ。」
「いやわからんけん。」
独特の九州訛りで、電話の向こうで返事をする清水。
「高価なものって例えば何があると?」
「うーん。ビクトリア王朝時代の家具とか、アンティークのティーセットとか。」
「高価すぎてヤバイ。」
「そーなんすよ〜」
「じゃあうち主催でオークションやろうか。」
「いいの?」
「うちは定期的に断捨離も兼ねてオークションやってるよ。半期に一度くらい。」
「次の開催はいつ?」
「明々後日。」
「間に合う?」
「ヨユーっしょ!!」
荷物出すのは俺たちなんだよ、何でお前が余裕そうなんだよと言いたいがぐっとこらえる、
「あとでトラック向かわせるから、荷物ガンガン積み込んじゃって!」
持つべきものは頭が回って気っ風が良く、金持ちの友達である。
電話を切って1時間ほどでトラックがやってきた。
トラックというより、ウイングトレーラーだった。
荷台を開けてもらい、スタッフの方に荷物を渡すだけで良いとのこと。
トレーラーに比して荷物が少ないので梱包は向こうでやってくれるらしい。
あまりにも荷が少なすぎて寂しいので、ひとみが自らの実家に電話をしてみたところ、大喜びでうちのいらないものも持っていってほしいと言われたので、スタッフさんに伝える。
スタッフさんも快諾してくれ、ひとみの実家にも集荷に向かった。
「あとはもう引っ越すだけだね!!」
「そうだな。もう家具も家電も入ってるらしいから、服とか食器とか待って行くだけで良いね。」
「楽しみだなぁー!!」
荷物を受け取った清水side
「な、、、なん、、これ、、、。」
「霧島様とひとみ様からのご出品と、芦屋の大殿様からのご出品です…。」
「ひとみちゃんのご実家か…。」
私たちでは活用できないからということで出品されたものが異常だった。
ルーブルやメトロポリタンといった世界の名だたる美術館に収蔵されていてもおかしくないような絵画が数百点。
中世ヨーロッパの王侯貴族が使うような家具や食器が数百点。
もうこれ以上はいらないわということで出品された宝石類が数千点。
「途中でウイングトレーラーが満杯になりましたので、近くの車両基地からもう一台持ってきましたところ、まだ積めるじゃないの!とおっしゃられ、神戸港の近くにございます結城家の個人的な倉庫にも集荷に伺いました…。
あくまでも個人的な倉庫とおっしゃられましたが、神戸の倉庫街の中で1番大きな倉庫でした…。
結局集荷のトレーラーは三台に…。
しかも収益金は全部霧島様にと…。」
「えぇ……。
こんな大量の高級品をどうせろと…。」
「どうしましょう…。」
「しゃあなし。世界中のバイヤーに連絡して結城コレクションのオークションってことでやろか。」
「清水コレクションは?」
「結城コレクションの前にはゴミ同然やろ。」
結局結城コレクションには世界中のバイヤーが集まり東京ビッグサイトで3週間貸切で行われた。
3週間の貸切とは、ビッグサイト最大のイベントである東京モーターショウを超える規模である。
しかし混乱とマスコミの介入を防ぐため、一般には伏せられていた。
そのオークションによって霧島は収益金の現金が1000億円程と、世界三大美術館の経営に携わることができる名誉会員権、世界中のバイヤーとの繋がりの三つを得た。
このオークションのおかげで清水家も業界で一目置かれるようになり、結城家との繋がりも強化できた。
後日オークションの結果を聞かされた霧島は目玉が飛び出しそうな顔をしていたが、美術館の名誉会員権が1番嬉しそうだったとは清水の談。
名誉会員権なんてものはあるのかどうかわかりませんが、あって欲しいですね。




