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80 挨拶回り


年も明けて、1月3日。

挨拶回りなどがボチボチ始まる頃。

霧島家は挨拶回りをしない。

霧島家は挨拶されるべき家だからだ。


挨拶回りを受け付け始めて、1番乗りは市長の皆生広也(かいけひろなり)なる人物だった。

朝8時ごろ来た。

なんでもその時間を過ぎると、公務が立て込み始めるので、何よりも先に挨拶しておきたかったとのこと。

広也は父と昔からの知り合いらしく、市長になる前から新年は毎年挨拶に来ていたのをよく覚えている。

広也も広也で、小さい頃から知っているあきらが帰ってきており、久々に会えるということで挨拶するのを楽しみにしていたらしい。



「あきら!おおきくなったなぁ。」


「広也さん、それ多分毎年言ってるよ。」


あきらとのやりとりを嬉しそうに堪能すると、広也は名残惜しそうに帰っていった。



続いてやってきたのは、メインバンクになったメガバンクの頭取と支店長コンビ。

こちらは明美おばさんとあきらで対応した。


頭取は明美おばさんが何か話すたびに、ビクッとしていたが、話を聞くと、銀行に入行した時の教育係が明美おばさんだったらしい。

それはもうそれはもうシゴキにシゴキ倒されたらしく、そのおかげで銀行創設以来最速で頭取まで上り詰めたらしい。

頭取の話では、明美おばさんは当時銀行初の女性頭取誕生か?とも言われるほど優秀な人物で、役員まで上り詰めたらしいが、結局銀行は男尊女卑の社会。

メイン業務から、人事総務担当役員へと配置換えを自ら希望し、新たに入行してくる人材を育てる方向にシフトしたらしい。

そんな折、入行したのが今の頭取。

なんとまぁ可愛がってもらったらしい。

明美おばさんの指導の甲斐あってか、経済誌にも取り上げられるほどの異例のスピードで頭取まで一足跳びに駆け上がることができたとのこと。

頭取以外の役員も7割は明美おばさんの子飼いらしい。部長クラスは9割が明美おばさんの息がかかっているとか、そうでないとか。


明美さんが辞めても、実質うちは明美さんの銀行みたいなもんです。

と頭取が言っていたのは印象的だった。

今年の3/31で明美おばさんは退職するが、なんらかの形で影響力は持ち続けるらしいし、アドバイスなどができる立場にいてもらわないと困るらしい。

ここで初めて合点がいった。

頭取は明美おばさんが怖いのではなく、明美おばさんを引き止められなかったら会社で何をされるかわからないというのが怖いのだと、納得できた。


明美おばさんはめちゃくちゃ美人だし、とっても優しいけど、すごくしっかりしている。

天性の人誑しだと親戚は言うが、多分明美おばさんを嫌いになる人っていうのはいないと思うし、明美おばさんの頼みを断れる人もいないと思う。

銀行の中は明美おばさん大好き人間ばっかりなんだろうな〜と、一人で納得するあきら。


支店長は空気だった。



その後もたくさんの人が新年の挨拶に来て、実家に帰ってからはこの日が1番忙しかった。



「あー、疲れたー。」


「お疲れ様。」

父は労いながらキンキンに冷えた缶ビールを一つ手渡す。


「サンキュ。」


プシュッと小気味良い音を出してから金色の液体を臓腑に流し込む。

枯れた大地に恵みが降り注ぐように生を取り戻す。


「お前何言ってんだ?」


「ナレーション。」


「お、おう。」

父は訝しげな目でこちらを向いていた。


「ありがとな、あきら。」


「こっちとしても人手が足りなかったしね。

人手が足りないからって友達雇うのも嫌だし、新卒取るのも違うし。

親戚が1番楽だよね。」


「まぁその選択肢ならそうなるわな。」


「立ってるものは親でも使えって言うしね。」


「ほどほどで頼むよ…」


「でも財務関係は明美おばさんになるから、結構きっちりきっちりしそうだなぁ…」


「間違いないね。」


そのあとは、学校の話や海外旅行の話、会社の話、たくさんの話をしていると母もやってきて、家族水入らずでたくさんの話をした。

久々にゆっくり家族と話すことができ、今回の帰省も、帰ってよかったと思えた。



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