76 年末年始
年の暮れ、2018年もそろそろ終わろうかという頃、あきらは実家に車で帰省していた。
実家はなかなかの田舎にあり、大阪から片道で大体5時間といったところだ。
早く帰りたかったので、i8で実家に向かうことにした。
そして、実家に着いた時は驚いた。
思い出にある自宅よりもだいぶ大きく、だいぶ立派になっている。
元々田舎なのでかなり広い家だったが、増築したのだろうか、広さはさらにその二倍ほどになっており、家の前には見覚えのない外車が3台止まっている。
ピアノブラックのメルセデスベンツAMG S65ロング、真っ赤なアウディQ7、フェラーリGTC4LUSSO。
そして、その三台にあきらの真っ赤なi8が加わる。
まるで自動車ショーだ。
フェラーリに関してはもう脱帽した。
霧島でさえも、なんとなくフェラーリを購入することは敬遠していた。
しかし、実家の両親2人は違った。
それもそのはず、2人にはそれぞれ、役員報酬として、年俸で5億円程が支払われているらしい。
らしいというのは霧島もあまりよくわかっていないからだ。正直、自分の報酬もよくわかっていない。
「あきら!お帰り。」
「おう、あきら!よく帰ってきたな。」
実家のドアを開け、ただいま!と叫ぶと父、幸隆と母ひろみがやってきて出迎えてくれた。
お土産を渡し自分の部屋に荷物を置きに行く。
「あ、変わってない。」
全く変化の兆しすらもない、自分の部屋に安心した霧島は、荷ほどきをし、スーツケースからお土産のワインと日本酒を出して、リビングに持っていく。
「はい、お土産。」
「あら。いいのに。」
「晩御飯何。」
「今日はお鍋。」
「ほーん。何鍋。」
「ふぐよ」
「ふぐね。」
家族三人でふぐ鍋をつついていると、父が言う。
「なぁ、あきら、お前今何しとるんだ?」
「話せば長いけど、最終的に投資家やってる。」
「儲かっとるんか。まぁ儲かっとるんじゃろうけど。」
「うん、まぁ。」
「あんたねぇ。うんまぁ。じゃわからんじゃろうがね。」
母は広島の出身なので時々こういう喋りになる。
「うーん、まぁ、少なくとも今日本でトップクラスに稼いどるとは思う。」
「ほーか。それならええんじゃ。」
父は母の影響もあってか、広島の人ではないが広島弁のような何かを喋る。
「お前ももう一人前に稼ぐようになったけんうちのことを話しておこうと思う。」
「なん?うちのことって。」
「うちはの、実は昔から続く地主の家なんや。」
「おう。それは聞いたことがある」
「ほいでの、戦争やらいろんなことがあって、その土地の大多数をうしのーてしもーたんよ。」
「どういうこと?」
「戦中やら戦後のゴタゴタで土地がほとんどなくなってしもうた。親戚もみんなバラバラじゃ?」
「まぁそうやね。北海道から鹿児島までいろんなところに親戚がおる。」
「まぁそれはええんじゃが。
爺さんも本家の長男じゃったけん、なんとか家を再興させたかったらしいんやけど最終的には普通か普通よりちょっと裕福止まりやった。」
「いっつも爺さん言いよったね。」
「うん、わしもその頃の話やら聞いとったけん、なんとかして家を再興させたいっていう気持ちはある。」
「ほんで?」
「ほんで、もしお前が良かったら、今は親戚らぁはみんなここに戻ってきたいらしいけん、元々持っとった土地をできるだけ買い戻すなりなんなりして、みんなを再集結させたいんやけど、どう思う?」
霧島は考えた。
確かに今はやりたいことが多すぎる。
人手はいくらあってもいい。
そして何よりロレックスが賛成している。
いや、賛成しているような気がする。
「ええと思うよ。」
「わかった。ありがとう、あきら。」
父はそういうと、席を外した。
「あきら、ありがとうね。」
母はなぜかとても感謝していた。
何か釈然としない気持ちでいると、父が帰ってきた。
「今日明日で親戚多分ほとんど全員集まってくるから。」
「え、マジで?」
「マジもマジも大マジよ。
御前会議を開くから。」
「なん?御前会議て。」
「一族当主のお披露目よ。」
「だれ?当主って。」
「おまえしかおらまーが。」
「ほぁーーーー。ワシですか。」
「ほうじゃ、お前じゃ。」
霧島はよく状況についていけないまま何とかして自体を飲み込んだ。
「とりあえず何すればええの?」
「袴着て座っとくだけでええ。お前の袴はもうある。」
「わかった。」
「そうと決まれば準備やな。母さん。」
「はい、パパ。」
どうでも良いが、母は父をパパと呼ぶ。
父が連絡したからか、近くに住んでいる親戚はすぐに来た。
チャイムが鳴らされ、父と母が出迎えにいく。
来客一番乗りは近くで酒屋を営む重弘おじさんだ。当主のお披露目ということで、店の中の在庫の酒のほとんど全てを持ってきたらしい。
霧島一族は酒をよく飲む。本当によく飲む。
特にこのおじさんは、止められなければ永遠に酒を飲む。
そんなおじさんが持ってきた冷やす酒はガレージの業務用冷蔵庫に、おじさんの店の若い衆が片っ端から入れている。
重弘おじさんに始まり、来客が続々とやってきた。血は繋がっていないが、近所のおじさんおばさんもやってきた。
霧島家が復活すると聞いて、老人ホームに入っているおじいちゃんおばあちゃんもやってきた。
家に来たおじいちゃんやおばあちゃんはあきらの手を握り、ありがとうありがとうと言う。
昔うちの爺さんに助けてもらったという話や、曾祖父さんに助けてもらったという話をみんながする。
あきらは、そんな爺さんが、曾祖父さんが、この家が誇らしく思えた。
しかし、すぐに正気に戻る。
「いや、こんな話大きくなるとか知らんかったんやけど!!!!」
「いや、ほんまそれな。
ワシも分からんかった。」
あっという間に家はぎゅうぎゅうになり、庭を解放した。
あまりにも人が来るので、用意していたおせちの量が明らかに足りない。
すると、近所の割烹を営む、従兄弟の雄次兄さんから電話がかかってきて、元旦には間に合わせるからおせちを作って持ってくるということになった。
あきらも電話を代わったが、よくやった!とひたすらに褒められた。
そうこうしている間にも続々人がやってくる。
あきらは今年の正月はなんかヤバそうだと思った。
霧島家の人間ばかりなので、あえて、あきらと表記しています。




