74 税理士のところに行く。
ひとみはそろそろ年末ということで、実家に帰省した。
正月は霧島も実家に帰るが、その前に細々した用事を片付ける必要がある。
まずは今の資産の確認。
そして、税金関係だ。
服を着替えて、外出の準備を整えると、霧島は淀屋橋の税理士事務所に向かう。
ちなみに今日のコーディネートは、ブルックスブラザーズの白地に紺のウィンドウペーン柄のシャツに、紺のブレザー。
パンツは細身で、グッチの黒ウールパンツ。アウターはお気に入りのモンクレールで、靴は相変わらずナイキのエアマックスだ。
荷物はできるだけ少なくしたいので、フェンディのクラッチバッグ。
ちなみに、会社関係の必要書類はすでに税理士事務所に送ってあるので、このような身軽で移動することができる。
愛車のレクサスを駆り、本町まで向かう。
メールが来て知ったが、事務所は淀屋橋から本町に最近移転したらしい。
前は小さい事務所 (小さいと言ってもそれなりに大きい。)だったが、今はとても大きいビルのワンフロアを、借りているらしい。
本町駅からごく近くの、事務所の入るかなり大きく立派なビルに着くと、ビルの利用者はどうやらビルの地下駐車場を使っても良いらしい。
利用者なので、自信を持って地下に吸い込まれる。
車を止めたら、連絡して欲しいと言われていたので、税理士さんに連絡する。
「霧島です。車止めました。」
「はい。すぐに向かいます!」
しばらく待つと、車のドアがコンコンとノックされる。
「あぁ!お久しぶりです。」
「霧島さん!お久しぶりです!」
ドアのノックの主は、お世話になっている税理士さんで、会計士さんでもある、村上利紀氏。
見た目30代そこそこのように見えるが、実際は50代の半ばという、とても若々しくフレッシュな方。
元は税務署職員で、かつてはマルサにも所属したが、縁あって税理士事務所を開業するに至ったというやり手らしい。
村上氏は霧島にビルを案内しながら、事務所移転に至る経緯を話す。
「霧島さんを担当させていただいてから世界が変わりました。」
「と、いうと?」
「あの時期から大きな仕事が立て続けに何本も入ってきて、おかげさまで事務所も大きくなりましたし、世界のデロイ◯とも繋がりを持つことができました。」
「そうなんですね。御繁盛のようで何よりです。」
「それで、事務所にもだいぶ余裕が出てきたので移転したんです。」
「なるほど。僕も春から引っ越す先が近所なので、さらに伺いやすくなって万々歳です。」
「そういえばそうですね、あのマンションももう直ぐ竣工ですもんね。」
そんな世間話をしていると事務所に着いた。
所長である村上氏は、事務所の1番奥にある会議室に霧島を案内する。
「それで、ご用件は?」
「実は、所得税が相当持っていかれそうだというお話をしとこうと思いまして。」
「そりゃあれだけ稼いだらだいぶ持っていかれるでしょうね。
で、具体的にはどれくらいですか?」
「色々と頑張ってみたんですが…」
「おいくら?」
「デロイ◯さんとも共同で当たらせてもらったんですけども、諸々全て込みで2000億円でお釣りがくる程度には…」
「…ッく…に、にせんおくえん…」
「ちなみに、このうち、霧島さん個人にかかってくる税金は500億円程度です。」
「ごッ…ごひゃく…」
「なのでとりあえず2000億円程は用意しておいてください。」
「…わかりました。」
村上氏に見送られて、霧島はビルを出た。
「税金って高いなぁ…」
次に霧島が向かうのは証券会社。
自身の保有する株式の確認だ。
霧島が証券会社の自動ドアをくぐると、それに気づいた支店長が飛んできた。
「きっ霧島様ッ!!!!」
霧島は挨拶をする間も無く最上階の会議室に連れていかれた。
「ほ、本日はどのようなご用件で。」
「自分にどれくらい資産があるのかなと思って。」
支店長は胸をなでおろしたようだった。
支店長は周りに控えていた社員さんのような人に二言三言指示を出すと、自らお茶を入れてくれた。
しばらくすると、先ほどのスタッフさんが資料を持って会議室にやってきた。
違うスタッフさんもやってきた。
また違う人もやってきた。
みんな台車を持ってやってきた。
台車の上には膨大な資料が乗っていた。
「これは?」
「霧島様の株式資産の資料をまとめたものです。
これらを確認していただきたく、お手紙でも、お電話でもご自宅に送付させていただいたのですが…」
霧島は完全に忘れていた。
電話では近いうちに行くとは伝えたが、その時、何を言われたのか全く覚えていなかった。
「すいません、完全に忘れていました…」
「いえ!全く問題ありません!」
「それで結局何がいくらくらいあるんですか?」
「はい、それではご説明させていただきます。」
〜〜〜〜〜〜4時間後〜〜〜〜〜〜〜
「以上が、霧島様の現在保有されている株式資産の内訳でございます。」
「長かったし、結局よく分からなかった…」
「端的に申し上げますと、景気の上昇の波に乗り、もともと購入された株式と新たに買い足しなさいました株式の株価が急上昇を続けておりまして、現在売却益などにかかる税金を差し引いた上で、現金資産が3000億円程の資産にまで膨らんでおります。
ですので霧島様個人の所得税等、税金の関係もあり、処分する株式と保有を続ける株式とに仕分けたり、他の金融商品などはいかがでしょうかというお話でございます。」
「さ、さんぜん……」
霧島は暇を見て、ネットで株式を買い続けていた。
その際に最初はよく見ていくら買うのか、いくら売るのかを考えていたが、最近では直感に従ってどんどん買い増ししていたのだ。
額も、100万200万などという可愛いものではない。
100億、200億の金をどんどん投入し続けていたのだ。
おそらく、霧島自身は一回の投資でどれほどの金額を動かしているのか、わかってはいない。
買えるだけ買い、売れるだけ売る。ただそれを繰り返していただけだ。
「とりあえず、うちの税理士さんの電話番号をお伝えしておきますので、所得税やら、税金関係はよろしくお願いします。
全部丸投げしてますんで…」
「はい、かしこまりました。」
「あと、今のところ他の金融商品は手を出すつもりがないので、またの機会に…」
「はい、かしこまりました。」
証券会社のお偉いさん全員にお見送りをされながら、証券会社のビルを出て、車に向かう。
次は銀行巡りだ。
前回の二の舞にならないように、何食わぬ顔をしてATMコーナーに並び、通帳に記帳を済ませ、店を飛び出す作戦だ。
しかし、店に入ったところで、すぐに支店長が出てきて、応接室に案内され、世間話をしていると、いつのまにかもっと偉い人が出てきて同席し、定期預金を是非。という流れになる。
仕方がないので5億ほど定期預金にしておいた。
最終的に、取引のある銀行5行で五億ずつの定期預金口座を開設することとなった。




