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一言で言うなら夢のような時間だった。
ネタは口の中でとろけ、シャリは口の中で解ける。口の中で様々な喜びが融合され、後に残るのは至福のみ。
そんな夢のひと時だった。
日本でも有数の魚どころに生まれ、物心ついた頃からうまい魚ばかり食べて来た霧島だが、もはやそれとはわけが違うといった寿司を堪能した。
店を後にし、車の中で中村さんは私にこう切り出した。
「命を救ってもらっておきながら、寿司程度で恩返しができたとは私は考えてはいないが、話して思ったが霧島君はこれ以上の恩返しは逆に恐縮してしまうようだね笑」
「いや、まさにその通りで。たまたまあの場に居合わせただけの自分がこれ以上のものを要求することなんかできませんよ!!!」
「だとしても、妻もいないし、もちろん子供もいない僕にはその優しさが何よりもありがたかったんだよ。
今僕が斃れてしまうと会社も、会社が関わっている仕事も何もかもが大混乱になってしまう。
だから遠慮しないでくれていいんだけどね笑
だから、僕から君にこれを渡すよ」
中村が天涯孤独だということは、寿司を食べながらいろんな話をしているうちに知ることができた。
仕事が楽し過ぎたせいで結婚に興味が湧かなかったらしい。
自分が結婚について考えられるようになった頃には全てが遅過ぎたとは中村の談だ。
そう言いながら中村は霧島に一つ腕時計を渡した。
霧島はその腕時計のブランドに驚愕した。
ろ、ろ、ろ、ろれっ、ろろろ、ロレックス……!
「これは僕が大事にしてる、ロレックスの時計だよ。幸運の時計だと思っている。僕はまだ若い時に苦労して貯めたお金で、このロレックスを買った。そこから運が回り始めて、僕は今の地位を築いた。だからこそ、命を救ってくれたお礼にこの幸運の時計を君にあげるよ。あ、僕はまだ幸運の〇〇シリーズまだたくさんもってるから気にしないでね!笑」
「そ、そんな!いいんですか!?ほんとに頂いても!?!?!?高価なものなのに!?!?」
「大丈夫だよ、僕は時計も好きでたくさんもってるからね笑
なんとなく霧島君とは趣味も被りそうだからと思ってこれを選んだんだけど、霧島君好きでしょ?これ笑
だからもらってくれないかな?」
「……わかりました。いただきます。もし、この時計のおかげで僕も中村さんと同じくらいの地位を築けたら、中村さんをお寿司に連れて行きますね!!!!ありがとうございます!!!!!」
中村は、それでこそ僕の見込んだ若者だと、満足気に笑いながら霧島に時計を渡した。
車は石橋駅に到着し、霧島は中村と別れた。
霧島はとんでもないものをもらってしまったと思いながらも、人助けはやはりしてみるものだなと感じていた。
その腕には先ほどもらったばかりのロレックスが輝いており、中村は家路に着いた。
この日から、霧島の豪運人生が始まった。